「闇ネットの住人たち」準公式サイト暫定公開

 実はこの度、10 数年ぶりに出版翻訳を手がけました。前回はゴースト翻訳者で契約上書名すら公表できなかったんですが(J2ME と XSLT の本とだけ言っておきます)、今回は名前を出していい契約なので出します。 「闇(ダーク)ネットの住人たち」という本です。

 この本は、オーディションに合格して訳すことになっただけで、必ずしも自分で選んだ本ではないのですが、(読書家というのはおこがましいにせよ日本人の平均よりは多く本を読んできたぐらいのことは言ってもいいであろう私が)一読者として読んでもなかなか面白い本だと思うし、訳しているうちにだんだん愛着が沸いてきたこともあって、こんなサイトを作ってしまいました。

「闇ネットの住人たち」準公式サイト

 サイトの製作意図として念頭に置いたのは、主に以下の二つです。

  1. 読もうかどうか迷っている人の、判断の参考になる情報を提供する
  2. 読んでくれた読者の、内容や翻訳に対する疑問に答える情報を提供する

だから、プレスリリースより詳しい目の内容紹介とか、私の考える本書のセールスポイントとか、原著に対する英語圏メディアのレビューの(引用範囲の)翻訳とかもありますし、翻訳作業の裏話とか、参考文献のアマゾンリンクとか、本書に登場するネットスラングの対訳用語集などもあります。

 この手のコンテンツは、すぐステマだのなんだの言われてしまうご時世ですが、このサイトに関しては、訳者だと名乗っているのだがら、少なくともマーケティングではあっても「ステルス」ではありません。また、サイトの中にも書いたんですが、この本の報酬は固定料金買取であって、印税契約ではありません。しかも、その金額も実務翻訳の相場と比べたらはるかに安い金額で、出版不況だという噂は聞いていましたが、こんなにしみったれてるのかと私自身びっくりしたぐらいです。あ、この話はいいか。

(これは余談ですが、よく音楽のプロデュースをやってるムーンライダーズの鈴木慶一さんが、プロデューサの報酬は時給換算したらマクドナルドのバイト以下じゃないかという説がある、みたいなことを、「フライトレコーダー」か「火の玉ボーイとコモンマン」かどっちかで言ってたけど、私の報酬も時給換算したら、バイト以下どころか、ブラック企業以下どころか、最低賃金以下だと思いますね。承知で引き受けたんだから、今更言ってもしょうがないけど。)

 だから、もしこのサイトによって本書の売り上げが伸びたとしても、少なくとも私に対する金銭的報酬が直接的に増えることはありません。その上、このサイトのホストのレンタル料金、ドメイン名やSSL証明書の更新料金、サイトの製作・管理の人件費など、すべて私の自前です。だから、こんなサイトを作っても、少なくとも金銭的には、ほとんど損ばかりと言っても過言ではありません。

 もちろん、苦労して翻訳した作品ですから、無意識のうちにバイアスがかかることは否定できませんが、ネット上によくあるステマサイト・アフィリエイトサイトに比べれば、それほど売らんかなの姿勢では作っていないつもりです。だからまあ、あまり偏見を持たずに温かい目で見ていただきたいと思います。

 このサイト、暫定公開と言いつつ、実は数週間前からベータ版的に稼動していまして、それ以来コンテンツの追加や修正を繰り返していました。でも、このペースで更新を続けていると、いつ完成するかわからないし、今後しばらく忙しくなりそうなので、このへんで一度アナウンスしておくことにします(こんな過疎ブログで「アナウンス」することにどれほど意味があるのかわかりませんが)。今後も暇を見て少しずつ更新を続けていく予定です。

 本書の内容や翻訳についてのお問い合わせは、このサイトの「お問い合わせ」フォームからお願いします。時間はかかるかもしれませんが、できる範囲でなるべく対応するつもりです。

 追記: 本書の内容の抜粋は、「ニューズウィーク日本版」に3回に分けて連載されています(版元が同じなので、完全に宣伝です。為念)。だから、職場でニューズウィーク誌を購読しているような方は、内容の一部を試し読みできるはずです。ニューズウィーク誌の編集者の方によりスタイルの修正が入っていますが、訳者校もちゃんと入っているので、内容は基本的に同じです。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 8/25 号 [温暖化 想定外の未来] Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 9/1 号 [中国の異変] Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 9/8 号 [持続不可能な中国経済]
第2章「一匹狼」より抜粋 第4章「3クリック」より抜粋 第5章「オン・ザ・ロード」より抜粋

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アメリカのハーフタイム

 なんか話題になってるようなので。 スーパーボールのハーフタイムに放送されたクライスラーの CM。語り手はクリント・イーストウッド。なぜ話題になってるかは自分で調べてね。

今はハーフタイムだ。

両チームはロッカールームで、後半どう戦えば試合ゲームに勝てるかを話し合っている。

アメリカもハーフタイムだ。

人々は仕事を失って苦しんでいる。

そして立ち直るためには何をすればいいのか、誰もが戸惑っている。

そして誰もが怯えている。これは遊びゲームではないから。

だがデトロイトの市民なら少しは知っているはずだ。

彼らはすべてを失いかけた。

だが我々の団結で、自動車の町モーター・シティは再び闘い始めた。

私はこれまでの人生の中で、数々の苦難の時代、数々の停滞の時代を見てきた。

お互いがお互いを理解できなかった時代。

心を失ったかのように見えることもあった。

分裂、不和、非難の霧が、前途を見極めることを難しくしたのだ。

だがそのような試練の後、我々は正義の旗の下に集い、一丸となって行動した。

それこそがアメリカ人だからだ。

我々は困難を切り抜ける道を探す。そしてもし見つからなければ、自ら道を切り開くのだ。

いま重要なのはこの先だ。

どうやって盛り返すか。

どうやって協力し合うか。

そして、どうやって勝つかだ。

それが可能なことは、デトロイトが示している。

彼らにできることは、我々にもできる。

この国は、パンチ一発でノックアウトされるような国じゃない。

我々はもう一度立ち上がる。そしてその時世界は、アメリカのエンジンの咆哮を聞くことになるのだ。

そう。アメリカはハーフタイムだ。

我々の後半戦が始まろうとしている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

彼らが最初共産主義者を攻撃したとき - デス妻バージョン

 「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」というのは、ファシズムの危機を喧伝する際にネットでよく引用される警句だが、実はかの「デスパレートな妻たち」にも、この警句をもじって引用しているシーンがある。ちょっと面白いので紹介しよう。

Season 4, Episode 5: "Art Isn't Easy" (邦題「近隣トラブル」)より

Lee: "First they came for the fountains, and I did not speak out because I had no fountain."

Lynette: "What?"

Lee: "Then they came for the lawn gnomes, and I did not speak out because I had no gnome."

Lynette: "You're comparing Katherine to a Nazi?"

Lee: "Then they came for my treehouse, and there was no one left to speak out for me."

(字幕には字数制限があるので、逐語訳を付記する)

リー:「彼らが最初に噴水を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は噴水を持っていなかったから。」

リネット:「はあ?」

リー:「彼らが次にノーム人形を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私はノーム人形を持っていなかったから。」

リネット:「あなたキャサリンをナチスに例えてるの?」

リー:「そして彼らが私のツリーハウスを攻撃したとき、私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった。」

 リーは実際には「ナチス」という言葉を使っていないのに、リネットは即座に「ナチスに例えてるの?」と察しているし、それに関して視聴者には何の説明もないことからしても、この "First they came for..." という言い回し自体がアメリカではかなり有名であることがわかる。もっとも、リネットはこのドラマの登場人物の中ではインテリの方だという設定なので、その分少し割り引いて考えた方がいいかもしれないけれど。

 この警句にそれほど馴染みのない日本の視聴者には、リーの唐突な語りやリネットの極端な反応に違和感を感じた人もいると思うが、こういう有名な警句があってそれを引用しているのだとわかれば納得だろう。このへんが翻訳の難しいところだ。

 シーン中の男性二人は、最近このウィステリア通りに引っ越してきたゲイのカップルで、引越し早々自宅の庭に奇妙な噴水を設置する。ところがこの噴水が、景観を破壊し騒音を撒き散らすということで、近所の大顰蹙を買う。そして町内の保守派の代表格であるキャサリンは、町内会(正確には "homeowner's association")の会長になって噴水を撤去すると言い出す。窮地に立ったゲイカップルの二人は、町内のリベラル派の代表格であるリネットを脅して、自分たちの味方につけようとする。それがこのシーンというわけ。

 元の警句では、「噴水」や「ノーム人形」のところに、「共産主義者」や「ユダヤ人」みたいな言葉が入るわけだが、比べるとかなりセコイ話になっているところがミソ。つまりこのエピソードは、保守派とリベラル派の対立を、極端に矮小化・戯画化して表現して見せているわけである。

 デス妻をよく知らない人がこの話だけ聞くと、リネットのことを額面通りリベラルな人間だと思ってしまうかも知れないので、念のため書いておくけど、この人、別のエピソードでは、近所に引っ越してきた人間を、決定的な証拠もないのにペドフィリアと決め付けて、ペドファイル追放運動に加担してしまったりする。実はそういう極端なところのあるキャラクターなのだ。

 そういう風に、キャラクターの思想と行動の一貫性のグダグダさを意地悪く暴いて見せるのも、このドラマの醍醐味の一つである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Honesty

 アンジェラ・アキ先生のご指導を受けて、私も Honesty を訳してみた。

Honesty.JPG

 歌詞だと、「誠実」とか「盲目」とか漢語が多いのがどうしても気になるので、なるべく大和言葉に直してみた(「盲目」という漢語だといいのに、「盲」と大和言葉にすると差別用語扱いされるのは不便だね)。

 音節数も数えたので、一応歌える歌詞になってるはず。サビの "Honesty" の代りに音節数の同じ「誰も」という言葉を当てるとか、"is such a" と音の似てる「正直」を後ろにずらすとか、いろいろがんばってみた。

 この番組、若者向きの作りになってるけど、取り上げられてる曲は中年世代の若い頃のヒット曲なので、私のような中年が見てもなかなか楽しめる番組になっている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

イギリスから売掛金を回収する方法

 ウチのようなスモール・ビジネスが海外の企業と取引する際に、まず考えなくてはならないのは売掛金の回収方法だ。

 これがある程度規模の大きい企業なら、海外に支社があったり現地の法律事務所と契約していたりするから、法的手段に訴えることも容易だろうし、取引金額自体が大きいから、その一部を回収費用に当てることも可能だろう。

 しかし、うちのようなスモール・ビジネスでは、法的手段に訴える金や時間もバカにならないし、可能だとしても取引金額と比べたら明らかに割に合わない場合が多い。

 ところが、英米など一部の先進国には、このような問題を解決する極めて便利なシステムがある。それが Collection Agency (債権回収業者)である。

  Collection Agency は債権回収を代行してくれる会社だ。報酬は債権額の一定割合(通常 3 割程度)なので、回収したせいでかえって損するようなことはない。しかも完全成功報酬の会社が多い。つまり債権回収に失敗した場合には、報酬を払わなくてもよいのだ。そして、催促の手紙を書くことから裁判まで回収に必要なことはすべてやってくれる。

 国によって法制度が異なるので、どの国にも通じる一般論はないが、私は以前、イギリスのある Collection Agency を使って売掛金の回収に成功したことがあるので、そのときの手順を参考までに紹介しよう。

1.業界団体を探す

 まず大事なことは、ある程度信頼できる Collection Agency を見つけることだ。そのためには、業界団体の名簿から探すのが手っ取り早い。こういう団体には倫理規定みたいなのがあって、あまりひどい会社は除名されるようになっているから、ゼロから探すよりはリスクが少ないだろう。

 イギリスの場合、CSA (Credit Service Association) という債権回収業者の業界団体があるので、まずそのウェブサイト(http://www.csa-uk.com/welcome) の UK Member List というページを開く。

 このページでは、債権回収業者をサービスや地域別に検索できるようになっているので、[Search by Service] から [Business to Business Debt Collection] を選び、[Search by Region] から回収先の企業に最も近い地域を選んで、[Search] をクリックする。

 すると、検索条件に該当する Collection Agency の一覧が表示される。この一覧だけでもかなりの情報が入手できるが、ほとんどの会社にウェブサイトへのリンクが記載されているので、詳しくは該当企業のウェブサイトで調べたほうがよい。

2.業者を選ぶ

 各社のウェブサイトを調べて、さまざまな条件を比較し、自分のニーズに最も合った債権回収業者を選ぶ。私の場合は、以下のような条件に留意した。

  • 料金体系
    • 料金体系をウェブサイトに公開している業者と要見積の業者がある。当然公開している業者の方が安心感がある。料金はだいたい債権額の三割程度で業者によってそれほど差はないが、完全成功報酬であるかどうかは要チェックだ。
  • 回収手段
    • 事務的な回収しかできない業者と、弁護士がいていざとなったら裁判までやってくれる業者とがある。Skip Trace と言って、逃亡した債務者の捜索までしてくれる業者もある。
  • 国際取引
    • 国外の顧客を受け入れることを明示している業者も少なくない。明示していなくても、頼めばやってくれるかもしれないが。
  • ネットサービス
    • 連絡がネットだけで済むか、電話や手紙が必要かも重要な点。メールの方がコストも安いし、私のような会話の苦手な人間にとっては、メールの方が誤解が少ないし証拠も残るので安心感がある。
  • 歴史
    • あまり歴史の浅い業者は避けた方が無難。

3.依頼フォームを送信する

  ネットサービスの充実している業者の場合、オンラインで回収の依頼ができる。ウェブサイト上のフォームに債権の詳細を記入して送信するだけだ。必要があればメールのログなどを添付する。

4.応答を待つ

 あとは相手からの応答をじっと待つだけである。私の場合、フォーム受信確認の自動送信メールが来た後、一週間ほどなんの連絡もなかった。

 このような業者を利用するのは初めてだったので、本当にちゃんと話が進んでいるのか心配になりかけたころ、回収先の企業から売掛金全額が振り込まれてきた。

 実にあっけなかった。それまで何百回メールを出しても埒が開かなかった相手だったので、こんなに簡単なのかと思って拍子抜けしたのを覚えている。

 後は、規定の料金をクレジットカードで支払うだけ。なんの後腐れもなく取引は終了した。

・参考文献

Collection Techniques for a Small Business  債権回収テクニック全般に関する資料は JETRO のウェブサイトを含めて多数あるが、スモール・ビジネスの海外債権を対象とした資料となると実に少ない。

 そういった中で、この Collection Techniques for a Small Business という本は数少ない例外である。もともとアメリカのスモール・ビジネスを対象にした本だが、イギリスでもかなりの部分が通用する。

 内容も、Collection Agency ばかりでなく、信用管理・催促・小額訴訟の方法まで幅広く網羅されているし、Collection Agency に関しても、その仕組・選び方・使い方など、上では紹介しきれなかったことまで詳述されている。 是非参考にされたし。

・免責

 この記事は、個人的な一事例を紹介したに過ぎず、同じ方法による成功を保証するものではまったくない。参考にされる方はくれぐれも自己責任で。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

Anatomy of the Chinese Business Mind

  中国のクライアントと支払いを巡ってトラブルがあり、泥縄式で勉強のために読んでみた本。

 儒教・道教・孫子などの思想的背景や、アヘン戦争から改革開放政策までの歴史的背景をふまえて、中国のビジネス文化を欧米人にもわかるように説明している。少々図式的すぎる感じもするが、内容・文章とも明快でわかりやすい。著者自身も中国人ないし中国系であり、文献引用もちゃんとしていて、個人の勝手な印象を書き連ねたたぐいの本でもなさそうである。

 類書を読み比べたわけではないので、他の本に比べてどうこうとは言えないが、他になんの判断材料もなければ、この本を選んでも損はしないのではないかと思う。

 この本を自分の体験と照らし合わせて改めて感じたのは、なまじ文化が近いと相互理解は逆に難しい面があるということ。たとえば、将棋と囲碁ではルールがまったく違うので、どちらかが相手に合わせるしかないが、将棋とはさみ将棋なんかだと両者のルールを折衷することが可能なので、「はさんだ駒を取るんじゃねーよ」みたいなトラブルが起き易い。

 日本は、文化の古層には中国文化の強い影響があるが、明治維新以降はむしろ西洋文化を積極的に取り入れてきており、その過程で中国文化の影響を(少なくとも一部は)切り捨てようとしてきた国である。

 この本でも face (面子) と guanxi (ある種の人脈)を中国文化の二大キーワードとして挙げているが、どちらも日本が近代化の過程である種の「悪習」として捨てようとしてきたものである。それだけに、異文化尊重という形式的なお題目だけで受け入れるのは難しいところがある。

 特に私は「面子」にこだわる人間が大嫌いなので非常に困る。これは中国人に限った話ではなく、イギリス人でも日本人でも、そういう人間には反射的に嫌悪感を感じてしまう。だから、そういう相手に合わせるということは、自分自身のモラル・スタンダードを捻じ曲げることになるので、形式的な異文化尊重ではすまない、アイデンティティの危機みたいなものを感じてしまうのである。

 たとえば、この本にはこんな例が載っている。あるアメリカ人が中国の会社で管理職として働いていた。彼のパソコンはなぜかよく故障したが、中国人の部下に頼むとすぐ直してくれる。アメリカ人はしばらくそれで納得していたが、やがて、それは実は故障ではなく、彼の操作ミスであり、周囲の中国人社員はみなそれを知っていたということが判明する。アメリカ人が「なぜもっと早く教えてくれないのだ」と聞くと、中国人は答える。「上司の間違いを指摘したら、面子を潰すことになるからだ」。

 この話を聞けば、私に限らず現代の日本人ならだいたい、「おいおい、それは親切ちゃうやろ」と思うだろう。つまりそういうことだ。

 実はこの件については知人にも相談してみた。その人は私なんかよりよっぽどリベラルで異文化にも寛容な人なのだが、ハローワークに勤めているので、仕事柄中国人とのトラブルも多く経験しているらしく、私の話に即座に同意してくれた。私が「形だけでも謝った方がいいかな?」と聞くと、「いや謝ったりしたらつけ上がるだけだから、絶対に謝らない方がいい」みたいなことまで言うのだ。私は、この人ですらこんなことを言うのなら、きっと日本中で同じようなトラブルが起きているのだろうなあ、と改めて感じたのだった。

 もちろん、だからと言って排外主義やレイシズムを肯定するわけではまったくない。ただ今後日本人が彼らと真剣に付き合おうとすればするほど、キレイゴトの異文化尊重ではすまない、いろんな対立が生まれることは間違いないだろう。相手の文化だとわかっていても批判しなくてはならない事も出てくるだろうし、逆に、こちらの文化についての批判を受け入れなくてはならない事もあるだろう。そうやってお互いのアイデンティティを脅かし合うのはしんどいことだが、そのしんどい過程を経なければ深い関係は築けないだろう。

 今回の件に関しては、最悪、法的手段に訴えるしかないのだろうが、できればそんな面倒なことはしたくないので、できるだけ相手の「面子」をたててがんばってみたいと思う。私にとっては非常に辛い事だが。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第10章)

  • 原文:In trying to define which of these should be called a "clutch situation" (an admittedly vague term), we've come up with these criteria:
    • 元訳:これらの状況のうちどれが「勝負を決める状況(clutch situation)」(非常にわかりやすい明確な言葉であるが)と呼ばれるべきかを定義しようとするに当たって,私たちは次のような基準を提案する.
    • 拙訳:このうちのどれを「勝負を左右する状況」(これが曖昧な用語であることは認める)と呼ぶべきかを定義しようと試みる過程で,筆者たちは以下のような基準を見出した:
    • 解説:"an admittedly vague term" をなぜ正反対に訳したのだろう。はっきり言ってまったく理由がわからない。
  • 原文:If we pick a player and say that he hits in the clutch, what exactly do we mean?
    • 元訳:もし私たちが選手を1人選び,勝負を決めるときにその選手がヒットを打つと言うとすると,それは正確には何を意味するのだろうか.
    • 拙訳:私たちが特定の選手を指して「彼は勝負強い打者だ」と言うとき,正確には何を意味しているのだろうか。
    • 解説:「選手を1人選び,勝負を決めるときにその選手がヒットを打つと言う」って、お前は預言者か。英語の動詞の現在形というのは、主語の決まった属性を表す形容詞に近い使われ方をするので、それを知らないとこういう変な訳になる。"he hits..." というのは、「彼は…という状況でよく打つ」というような意味であって、過去にヒットを打ったとか未来に打つだろうとかいうことではない。
  • 原文:Do we mean that he hits better when runners are on base? When the score is close? When runners are on and there are two outs?
    • 元訳:私たちは走者が塁にいる時,得点差が少ない時,あるいは走者がいて2アウトの時の方が選手はより良いヒットを打つと考えているのだろうか?
    • 拙訳:その選手は走者がいるときによく打つという意味だろうか。それとも点差が少ないとき、もしくは2アウトで走者がいるときによく打つという意味だろうか。
    • 解説:この he は上の文で選ばれた "a player" のことなんだから、それとわかるように訳すべき。でなきゃ、あらゆる選手がチャンスに強いという意味にとれてしまうではないか。「より良いヒット」も意味不明。だいたい「より良いヒット」だったら "better hits" だろう。"When..." を複数並べているのは、A・B・C のどれが正しいかという問いかけだが、元訳のように「あるいは」でつないでしまったのでは、A・B・C のどの状況でも選手はヒットを打つ、という逆の意味になってしまう。
  • 原文:Since he had no walks, and sacrifice flies are included among opportunities for getting on base, Carter's on-base percentage (7/28 = .250) was actually lower than his batting average.
    • 元訳:四球はなく,また犠牲フライも塁に出た回数に含まれるので,カーターの出塁率(7/28 = .250)は彼の打率よりも実際には低かった.
    • 拙訳:カーターには四球はなく,犠牲フライは出塁機会に含まれるので,実際にはカーターの出塁率(7/28 = .250)は打率より低かった.
    • 解説:"opportunities for getting on base" は「塁に出た回数」ではなく「出塁機会」である。これもある意味正反対の訳で、少しでも意味を考えて訳していれば間違えようがない。前の文には、打数が 25 で犠牲フライが 3 だとちゃんと書いてあるし、犠牲フライを出塁に入れたら、出塁率は下がるどころか上がるに決まってるではないか。
  • 原文:These values (presented in Table 7-7) are the average or expected number of runs for each hit after the frequencies of all game situations have been considered.
    • 元訳:これらの値(表7-7で示されている)は,打率または全てのゲーム状況の頻度を考慮した上でのそれぞれのヒットから得られる予想得点数である.
    • 拙訳:(表7-7に示されている)これらの値は,試合中のあらゆる状況の頻度を考慮して求めた、各安打の平均得点数または得点期待値である.
    • 解説:"the average" を「打率」と解釈して、"expected number of ..." 以下と等価と見なしたらしいけど、これは、(the (average or expected) number) という構文である(こういうのは定冠詞の位置を見ればだいたいわかる) 。「平均値または期待値」という意味。
  • 原文:This expectation is derived from the probabilities of scoring different numbers of runs.
    • 元訳:この期待値はいろいろな得点を挙げる可能性からひきだされる.
    • 拙訳:この期待値は,さまざまな点数の得点確率から求められる.
    • 解説:なんかずいぶん茫漠とした訳になっている。probabilities には確かに日常用語としての「可能性」という意味もあるが、この場合ははっきり数学用語としての「確率」である。
  • 原文:To see that we have actually accomplished this, let's examine an alternate- or parallel-universe batting performance for Joe Carter.
    • 元訳:実際にこれが達成されたことを見るため,ジョー・カーターのもう1つの,あるいは別世界(parallel-universe)での打撃成績を見てみることにしよう.
    • 拙訳:この目標を実現できたかどうか確認するため,ジョー・カーターのパラレル・ワールド(もしくは二次創作)における打撃成績を調べてみよう.
    • 解説:alternate-universe というのは、日本ではコミケとかでよくある「二次創作の世界」のことであり、 parallel-universe というのは、SF に出てくる「パラレル・ワールド」のこと。ここは著者が茶目っ気を出して読者のオタク心をくすぐってる部分なのだろうから、ちゃんとそれっぽく訳してあげよう。
  • 原文:The alternate performance in Table 10-10 is one that Phillies' fans wish had actually occurred.
    • 元訳:表10-10に示されたもう1つの結果はフィリーズのファンの願いを現実に移したものである.
    • 拙訳:代わりとなる表10-10の結果は,フィリーズのファンが「実際にこうだったらよかったのになあ」と思っている結果だ.
    • 解説:細かいことを言うようだが、これは著者が勝手にでっちあげた成績であって、「現実に移して」はいない。これをわざわざ指摘したのは、この訳者はどうも仮定法過去完了を知らないフシがあるからだ。原文には「現実」に当たる言葉はないので、actually を無理矢理そう解釈したっぽい。あと、この wish は動詞で "Phillies' fans wish (that) one had actually occured" という節の one が関係代名詞 that になって前に出た形の構文なのだが、この訳者は "Phillies' fans wish" という名詞として解釈してるっぽい。(その解釈が正しければ、fans ではなく fans' になってるはず)。これは非常にありがちな間違いで、確か伊藤和夫先生の「英文解釈教室」にも出てたはず。
  • 原文:In fact, if PWA is truly supposed to evaluate clutch performance, it could be argued that player B should be rated higher than Player A, since his results were achieved more critical circumstances.
    • 元訳:事実,もし選手の勝率が本当に勝負どころでの実績を評価すると想定されているならば,選手Bは選手Aより高く評価されるべきである.というのもより勝負を決める場面において彼の結果が達成されたからである.
    • 拙訳:実際,もし PWA が本当に勝負どころでの実績を評価するためのものならば,選手 B の実績の方がより決定的な場面で達成されているのだから,選手 B の PWA の方が選手 A よりも高くてしかるべき,とも言えるはずだ.
    • 解説:これも、どこが決定的に間違っているとは言いにくいけれど、全体として支離滅裂で何が言いたいのかよくわからない訳になっている。言いたいのは要するにこういうことだ。「選手の勝率」も「1ゲーム当たりの得点」ほどではないけれど、日常用語に近すぎてあまりいい訳語とは思わない。まあ、野球は団体競技なので、普通の文脈で「選手の勝率」という言葉が使われることはないので(あ、そんなことないや。投手の勝率という言葉がある)、区別がつくと言えばつくのだけれど。英語の場合、日常用語をそのまま専門用語にしても、頭文字を大文字にして区別したりできるのだけれど、日本語では無理なので、こういうのは、日常用語とはっきり区別のつく漢語の造語を作るか、それが無理ならカタカナや頭文字のままにしておく方が無難だと思う。
  • 原文:This presents some rationale for rating Player A higher than Player B.
    • 元訳:これは選手Bより選手Aの方が高い選手の勝率を出していることに対する論理的根拠を示す.
    • 拙訳:これは,選手 A を選手 B より高く評価することに多少の正当性を与える.
    • 解説:これも文脈を考えるとかなり変な訳。そもそも PWA の計算式はわかっているわけだから、「論理的」になぜ A の方が B より高くなるかはわかりきったことで、ここで問題にしているのは、それが選手の評価として合理的・正当なのか、ということ。論理だけじゃなく価値の問題。
  • 原文:Apparently, the Mills's intent was to construct PWA as a ratio of accumulated achievement (Win Points) devided by accumulated opportunity (total points) as a parallel to batting average (which does the same thing in terms of hits and at-bats).
    • 元訳:明らかにミルズ兄弟の意図は,打率に匹敵するものとして,与えられた機会(全ポイント数)に対してどう貢献できたか(勝ちポイント数)を測る比率として選手の勝率を作ることであった(打率は打数に対するヒット数として同じことをしている).
    • 拙訳:ミルズ兄弟の意図は明らかに,PWA を打率と同じように,実績の合計(勝ちポイント数)を機会の合計(全ポイント数)で割った比率として構成することだった(打率では同じことを安打と打数でやっている).
    • 解説:これも間違いとは言いにくいが、とんでもなくまわりくどい。まわりくどい訳は他にも山のようにあって、いちいち槍玉に挙げていてはキリがないので、極端な例だけど挙げている。devide を「測る」にしているみたいだけど、素直に「割る」でいいだろう。
  • 原文:However, in the Mills's system, when a player comes to bat, the possibility exists of getting Loss Points or Win Points. So in each play, the player can be rewarded or penalized. Net Points provides a measure of the accumulated net contribution to victory. For this reason, there is no need to resort to a ratio such as PWA.
    • 元訳: しかしながら,ミルズ兄弟のやり方では,選手が打席に立つ時,負けポイント又は勝ちポイントを得る可能性が存在する.よって1つ1つのプレイにおいて選手はたたえられるか,けなされるかどちらかの評価を受けることになる.正味のポイントは累積された勝利への貢献(正の値も負の値もあり得る)の総計を測るためのものである.この理由から選手の勝率のような割合に頼る必要はない.
    • 拙訳:けれどもミルズ兄弟のシステムでは,選手が打席に立つたびに,負けポイントを与えられることもあれば,勝ちポイントを与えられることもある。つまり選手はプレイのたびに,報酬を与えられることもあれば,罰を与えられることもあるのだ。正味のポイントは,勝利に対する功罪の両面をまとめた尺度を提供する。だからこそ PWA のように比率に頼る必要がないのだ.
    • 解説:これも少しずつ言葉の選択がずれているせいで、全体としては大幅にすれた意味になっている。というか作業の順番としては、まず英文の意味内容を理解し、それを日本語で表すにはどうすればよいかを考え、できるだけ適切な言葉を選択するという順番になる。だから、まず翻訳してから意味を考えているようでは、いい翻訳はできないのだ。
  • 原文:The impression is that PWA gives too much weight to a handful of critical events that drown out the effects of standard plays in evaluating baseball performance.
    • 元訳:選手の勝率は,野球の実績を評価する際,普通のプレイの効果から引き出した少数の重大なプレイに重みを置きすぎているような印象を受ける.
    • 拙訳:PWAは,野球の成績を評価する際に,一部の決定的なプレイに重みを与えすぎていて,平凡なプレイの影が薄くなっている印象がある.
    • 解説:これは多分、drown を drawn と勘違いしたんだろう。drown out はもともと「溺れさせる」という意味で、そこから転じて、水の代わりに音が溢れて他の音が聞こえなくなるというような意味がある。「普通のプレイの効果から引き出した少数の重大なプレイ」というフレーズ自体意味不明だし、文脈を考えても、この解釈の方が自然。
  • 原文:Besides such criticism, another more practical reason lies at the heart of the lack of interest in Player Win Average at the time.
    • 元訳:このような批判に加え,もう1つのより現実的な理由は,当時のPlayer Win Averageへの関心の欠如にその中心がある.
    • 拙訳:当時のPWAに対する無関心の中心には,そのような批判の他に,もう一つ実際的な理由がある.
    • 解説:"A lies at the heart of B" は「B の中心に A がある」という意味なのだが、なぜか反対の訳になっている。日本語としても意味不明だし、文脈から考えても不自然。
  • 原文:Using computer simulation, the brothers developed a table of probabilities that was not revealed to readers.
    • 元訳:コンピューター・シミュレーションを用いて,ミルズ兄弟は読者に公表されなかった確率の表を例に挙げた.
    • 拙訳:ミルズ兄弟はコンピュータ・シミュレーションを使って確率の表を開発したが,その表は読者には明らかにされなかった.
    • 解説:「例に挙げた」という訳がどこから出てきたかよくわからない。develop を demonstrate と間違えたとか?
  • 原文:The need to capture play-by-play data is a large impediment to PWA's practicality, but the lack of win probabilities made its calculation impossible for anyone but the Mills brothers ... until 1984.
    • 元訳:1つ1つのプレイをとらえる必要があるということが選手の勝率の実用性に対する大きな障害となっている.しかし,勝つ勝率に関するデータの不足が原因でミルズ兄弟以外は誰も選手の勝率を推定することができなかった…1984年までは.
    • 拙訳:PWA を実際に利用する上で,プレイ 1 つ 1 つのデータを入手しなければならないことも大きな障害となっていたが,勝率表が存在しないことは,ミルズ兄弟以外の者が PWA を計算することを不可能にした.…1984 年までは.
    • 解説:この訳だと、「しかし」と逆接になっている意味がわからないだろう。小さい問題もあった「が」、それよりもっと根本的な問題もあった、ということ。
  • 原文:Plotting these probabilities in Figure 10-2, we can see some quantitative support for the critical nature of Late Inning Pressure.
    • 元訳:図10-2にこれらの確率をプロットした.終盤のプレッシャーに関する非常に特殊な性質に対する量的な対応を見てとることができる.
    • 拙訳:この確率を図 10-2 のようにグラフにして見ると,終盤のプレッシャー(LIP)状況がいかに勝負を左右するかに関する,量的な根拠がわかる.
    • 解説:support をソフトの電話サポートみたいなイメージで「対応」と訳したらしいけど、この support は「○○を支持する証拠」の「支持」に当たる。この点差・イニング別の勝率のグラフをみれば、試合終盤になるほど勝負を左右する状況になりやすい理由が量的にわかりますよね、ということ。critical は「特殊」ではなく、勝負を左右するような「重要」「決定的」な状況という意味。
  • 原文:Lindsay's data in Table 7-4 tells us the probability of scoring different number of runs in the remainder of the inning:
    • 元訳:表7-4 のリンゼイのデータは,イニングの残りで,様々な点数を挙げる可能性について教えてくれる.
    • 拙訳:表7-4 のリンゼイのデータは,イニングが終わるまでにさまざまな点数を得点する確率を教えてくれる:
    • 解説:これもわざわざ「可能性」という曖昧な言葉で訳す必要はない。
  • 原文:The Pr(Win Given Runs) probabilities in the fourth column are taken from Table 10-14 for the sixth inning and the appropriate lead.
    • 元訳:Pr(得点して勝つ)は6回で適当なリードという状況に対して表10-14からとられた.
    • 拙訳:4 列目の Pr(特定の点数で勝つ)確率は,表 10-14 の該当する点差の 6 回のデータから取得したものである.
    • 解説:「適当なリード」はないだろう。この表 10-14 は、イニング・点差別の勝率の表だから、"the appropriate lead" というのは、その中の「該当する点差」のデータという意味。Pr(Win Given Runs) の Given Runs は「与えられた得点を前提として」いう意味で、要するに特定の得点における条件付き勝率のことなんだけど、「得点して勝つ」ではわかりにくいので変えてみた。
  • 原文:Half of the change was attributed to the offensive player's performance, and the other half to the defensive player's performance.
    • 元訳:変化の半分は攻撃側の選手の実績によるもので,そして残りの半分は守備側の選手の実績によるものである.
    • 拙訳:変化の半分は攻撃側の選手の成績に割り当てられ,もう半分は守備側の選手の成績に割り当てられた.
    • 解説:attribute をどうしても「原因」と訳したいらしいけど、ここでもやはり文脈を考えれば不適切。後で出てくるエラーの例を見ればわかるように、この本では、貢献度が常に攻撃側と守備側で半々である、などという主張はしていない。ただこの PGP という方式では、便宜的にそう割り当てると言っているにすぎない。
  • 原文:It did not seem right for the batter to get any positive recognition for this play, much less greater recognition than the pitcher.
    • 元訳:しかし投手よりかなり認識度は低いのにもかかわらず,打者がこのプレイに関して投手よりよい評価を得るということは正しくないように見える.
    • 拙訳:打者はこのプレイに関して,投手より高い評価はもちろん,いかなる評価も受けるべきではないように見える.
    • 解説:なんでこういう訳になったのかよくわからないが、とにかくいろいろと間違っている。much less... という構文は、より極端な例を出すことにより内容を強調する、というレトリックに使われる構文。この場合、前半が「打者になんらかの評価を与えること」で、後半が「打者に投手より高い評価を与えること」なので、「打者を投手より高く評価するのはもちろん、これっぽっちも評価すべきではない」または「打者をこれっぽっちも評価すべきではない。ましてや投手より高く評価するなんて論外」という意味。
  • 原文:However, Weis's error produced a negative change (from his team's perspective) of D = .035, so he is debited the entire change, -3.5 percent.
    • 元訳:しかし,ワイスのエラーは(彼のチームの見解からして)マイナスの変化 D = .035 を生み出したため,彼にとっては全体の変化が -3.5% の負債となる.
    • 拙訳:けれども,ワイスのエラーは D = .035 の(彼のチームから見て)マイナスの変化を生んだので,ワイスにはこの変化全体,つまり -3. 5パーセントが負わされた.
    • 解説:"from his team's perspective" というのは単に、エラーは攻撃側のチームから見ればプラスだけど、守備側のチームから見ればマイナスだ、ということを言ってるだけだろう。別にワイスのチームがエラーについて特別な「見解」を持っているとかいう話ではないと思う。「全体の変化が -3.5% の負債となる」というのも意味不明。
  • 原文:However, while the mechanics of the probability calculations are objective, identifying the players and whether their defensive contributions were outstanding enough for special recognition remain subjective judgements.
    • 元訳:しかしながら,確率計算のしくみは客観的である一方,その選手たちを見極めることや彼らの守備の貢献が特別な評価を受けるのに十分際立っているかどうかと言うことは主観的な判断として残る.
    • 拙訳:確率計算の仕組みは客観的だが,選手を特定し,その守備による貢献が特別な評価に値するほど傑出していたかどうかを判定することは,依然として主観的な判断だ.
    • 解説:「見極める」が何を意味しているかよくわからないが、この identify は、たとえば、送球の落球があったときに、送球した野手の悪送球なのか、それとも捕球した野手の捕球ミスなのか、といったことを「特定」するという意味だろう。(その後の公式記録員がどうこういう件を読めばはっきりする)
  • 原文:PGP (and PWA) evaluate a play at the moment of its resolution, not after the fact.
    • 元訳:つまり選手のゲーム貢献度(そして選手の勝率)は後の出来事のことではなく,その決定的瞬間だけを評価しているのだ.
    • 拙訳:PGP(および PWA)は,プレイを事後的にではなく,行われた時点で評価する.
    • 解説:これも文脈や意味を考えてない訳。ここで問題にしているのは、カーターのヒットはその後で大量点の呼び水となったのに、PGP ではあまり高く評価されていないということ。だから評価対象はあくまでカーターのヒットであって、「後の出来事」ではない。ただそれを評価する視点が、ヒットの後で大量点が入ったということを考慮に入れた事後的な視点なのか、ヒットの時点では点差が開きすぎていて焼け石に水だったというリアルタイムな視点なのか、ということを言っている。
  • 原文:PGP and PWA operate on probabilities, but sometimes the remote possibilities do occur.
    • 元訳:選手のゲーム貢献度や選手の勝率は確率を操作するが,時にかけ離れた確率をはじき出すことがある.
    • 拙訳:PGP や PWA は確率から計算されるが,確率の低い事だって起きる時は起きるのである.
    • 解説:この文はなかなかニュアンスを出すのが難しくて、私の訳もそれほど自信はないが、元訳よりはマシだろう。そもそも、"the remote possibilities" の解釈が間違っていて、この remote は「離れた」ではなく「ごくわずかな」という意味。要するに、PGP や PWA は、得点の入る確率や勝つ確率から計算されるが、実際には、確率が高いのに点が入らないこともあるし、確率が低いのに点が入ることもある。ゆえに、PGP や PWA の評価は、実際に入った得点と必ずしも連動しない、ということを言っている。だから意味的にも「かけ離れた確率」ではおかしい。
  • 原文:This provides some quantitative support for the leadoff spot being a critical element of each inning..
    • 元訳:これは各イニングの重大な要素になり得る先頭打者の量的な貢献を示している.
    • 拙訳:これは,各回の先頭打者の重要性に関する,一定の量的根拠になっている.
    • 解説:これも support の訳がおかしい。
  • 原文:Continuing the tradition established in Player Win Average, the first application of PGP was to evaluate players in the 1980 World Series.
    • 元訳:Player Win Averages によって確立された慣例を続けよう.選手のゲーム貢献度の最初の適用は,1980 年ワールドシリーズにおける選手の評価に対してであった.
    • 拙訳:PWA の確立した伝統を継承した PGP が最初に応用されたのは,1980 年のワールドシリーズにおける選手の評価であった.
    • 解説:分詞構文の意味上の主語は、省略されている場合には主節の主語なのだから、こんな解釈は明らかにおかしい。"the first application of PGP" が PWA の伝統を継承する行為だ、ということを言っているのであって、筆者や読者が継承するわけではない。
  • 原文:These players (Aikens, Pena, Jones, and Gwynn) deserved a better fate.
    • 元訳:これらの選手(エイキンス,ペーニャ,ジョーンズ,グウィン)の結果はさらなる賞賛に値する.
    • 拙訳:この選手たち(エイキンス,ペーニャ,ジョーンズ,グウィン)は,もっと評価されてしかるべきだった.
    • 解説:この選手たちは評価されていないという文脈なんだから、「さらなる賞賛」は変だろ。
  • 原文:With two exceptions, the PGP ratings presented for pitchers here did not include their appearance at bat.
    • 元訳:2 つの例外がある.投手に対して示された選手のゲーム貢献度の評価は彼らの打席における選手のゲーム貢献度を含んでいない.
    • 拙訳:ここで示した投手の PGP の評価には、2 人の例外を除けば、打席での評価は含まれていない。
    • 解説:誤訳とまでは言えないけど、いきなり「2 つの例外がある」と言われても、何に対する例外かわからないし、その疑問はかなり先まで読まないと解決されないので、わかりにくい。
  • 原文:A common question that comes up in reference to World Series play is whether PGP can be adapted to evaluate players with respect to the probability of winning the series as opposed to winning individual games.
    • 元訳:ワールドシリーズのプレイに関して思い浮かぶ一般的な疑問は,個々のゲームの勝利とは対照的に,選手のゲーム貢献度をシリーズに勝つ確率の評価に適応することができるのかどうかということである.
    • 拙訳:ワールドシリーズのプレイに関して思い浮かぶ一般的な疑問は、PGP を修正して,個別の試合に勝つ確率ではなくシリーズに勝つ確率について選手を評価するようにできないかということだ.
    • 解説:「対照的に」は直訳すぎて意味不明。「ゲーム貢献度『を』」と「適応『する』」の助詞が対応していない。それなら「適応させる」だろう。

まだまだ続きます。随時更新。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第9章)

  • 原文:We admit to being bothered by some of them ourselves.
    • 元訳:それらのいくつかは私たち自身を悩ますものでもある.
    • 拙訳:その一部については,筆者たち自身も問題だと思っていることを認めよう.
    • 解説:こういう we を「私たち」と訳してしまうと、筆者なのか、筆者および読者なのか、人類全体なのかわかりずらいので、限定した方がよい(これは日本語と英語の代名詞の使い方の差による)。ピーター・ギャモンの提示した問題の一部については、筆者たち自身も同意している、という意味。
  • 原文:It reminded us, of course, of a favorite player, Roberto Alomar, who slides into first instead of running thorough the base.
    • 元訳:もちろん私たちが心に思い浮かべる人気選手のロベルト・アロマーも一塁を駆け抜ける代わりにスライディングする選手である.
    • 拙訳:この項目が、筆者たちお気に入りの選手の一人であるロベルト・アロマーを思い出させるのは言うまでもない.彼も一塁ベースを駆け抜けずに滑り込む選手だ.
    • 解説:「私たち」については同上。"It remided" の it も具体的に訳さないとわかりずらい。こういうふうに代名詞を具体名詞に置き換えるのは英和翻訳の基本テクニックで、たいていの翻訳本に載っているはずなのだが。
  • 原文:Here are the relevant items from the list (with our emphasis added):
    • 元訳:ここにリストに関連する項目を示す(私たちの強調点も含む):
    • 拙訳:関連するリスト中の項目は以下の通り(太字強調は筆者):
    • 解説:"with our emphasis added" というのは、日本語の「傍点筆者」と一緒で、引用元にはなかった太字(原文ではイタリック)を引用者が追加したという意味だろう。「リストに」の助詞の選択も変。
  • 原文:(In the third item, the unnamed general manager is suggesting that the pitching team "pay" for the intentional pass by having all base-runners advance, even then they are not forced.)
    • 元訳:(3つ目の項目で,ある名前を書けない GM は,敬遠をすることによって,たとえ塁が詰まっていなくても全ての走者が1つずつ進塁する(例えば,2アウト三塁で敬遠すると,三塁走者がホームインする)ようにして,投手陣が「代償を払う」べきだと提案している).
    • 拙訳:(3番目の項目のなかで,その匿名の GM は、投手側のチームは敬遠の「代償」として,塁が埋まっていなくても全走者の進塁を認めるべきだ、と提案している.)
    • 解説:"the unnamed general manager"は、引用元の記事に出てくる "One National League GM" のことなので、それがわかるように訳すべき。わざわざ定冠詞がついているのに、なぜ「ある」にしてしまったのか。
  • 原文:We can summarize the run distributions by the expected runs or run potential table shown in Table 1-9
    • 元訳:表1-9に示したような期待される得点もしくは得点見込みといった視点から得点分布をまとめることができる.
    • 拙訳:この得点分布は,表1-9の得点期待値表(または得点見込み表)に要約することができる.
    • 解説:"the run distributions" は定冠詞がついているのだから、限定詞をつけて得点分布一般ではないことを明示するべき。第 7 章に出てきたリンゼイの得点分布を整理するとこうなる、ということ。"table" が訳抜け(それとも、なぜか "table" を「視点」と解釈したのかも)。
  • 原文:So, on average, the team will score about four-fifths of a run in the reminder of the inning.
    • 元訳:つまり平均的にはこのイニングの残りで得点する確率は約5分の4である.
    • 拙訳:つまり平均すると,このチームはイニングが終わるまでに約5分の4点を得点することになる.
    • 解説:「確率」に当たる言葉はどこにもない。実際ここで言及しているのは、得点「確率」ではなく「期待値」である。この章ではわざわざ期待値と確率を分けて論じているのだから、この違いは大きいのだ。
  • 原文:(This reminds us of a lyric from the Kenny Rogers song The Gambler - "You got to know when to hold 'em...")
    • 元訳:(これはケニー・ロジャースの「ギャンブラー」という歌の一節を思い起こさせる.-「それをいつ掴むかを知っておかねばならない…」)
    • 拙訳:(このことは,ケニー・ロジャースの「ギャンブラー」という歌の歌詞を思い出させる.「いつ突っ張るかを知らねばならぬ…」)
    • 解説:「ギャンブラー」という題の歌なんだから、この hold は当然ポーカー用語の「ホールド」だろう。そのぐらい気づけよ。
  • 原文:In Game 4, there was no shortage of drama and surprise.
    • 元訳:第4戦は,劇的な状況と驚嘆が飽き足らないゲームとなった.
    • 拙訳:第4戦は,ドラマや意外性に不足しない試合となった.
    • 解説:おいおい。飽き足らないと不足しないじゃ正反対じゃないか。驚嘆「が」という助詞の選択も変だし。
  • 原文:The evidence seems overwhelming - it must have made sense to walk Bonds.
    • 元訳:証拠は計り知れないように思われる.つまりボンズを歩かせることは意味を成したに違いなかったのである.
    • 拙訳:ボンズを歩かせるのは当然だと思えたに違いない.その証拠は動かしがたく見える。
    • 解説:「証拠は計り知れない」では日本語として意味不明。「意味を成したに違いなかった」では、ボンズを歩かせたのには実際意味があったことになり、後の記述と矛盾する。この "have made sense" は「意味があると思えた」だろう。
  • 原文:The second comment is that the sacrifice bunt is a more effective strategy in situations when a single run has a significant effect on the probability that the team win the game.
    • 元訳:第2のコメントは,1点を取ることによりチームがゲームに勝つ確率が有意に上がる場合において,犠牲バントがより効果的な戦略になるということである.
    • 拙訳:2番目の注意は,犠牲バントがより効果的な戦略になるのは,1点をとることがチームの勝率に著しい影響を与える場合だということだ.
    • 解説:この訳者は significant をなんとかの一つ覚えみたいに「有意」と訳しているけれど、significiant には統計学用語としての「有意」という意味と、日常用語としての「著しい」という意味があって、この両者は全然違うから文脈によって使い分けなくちゃいけない。この場合なんかも明らかに「有意」ではおかしい。だって、1点を取ったら勝率は有意に上がるに決まってるでしょ。たとえ点差が 30 対 0 だったとしても、同じ状況で 1 兆回(それでも足りなきゃ 1 京回)ぐらいシミュレーションすれば勝率に有意差は出るでしょうよ。じゃなくて、30 対 0 の 9 回裏に 1 点とっても焼け石に水だけど、1 対 0 の 9 回裏に 1 点とったら勝率は大幅に上がるよね、ということを言っているわけ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(まとめ)

 この翻訳はとてもではないが質が高いとは言い難い。全体が直訳調で読み辛いし、直訳なら直訳でその分正確ならまだ許せるが、致命的な誤訳も細部のタイポも山のようにあるのでは、どこを褒めていいのかわからない。

 特に、「1ゲーム当たりの得点」のくだりはひどくて、「1ゲーム当たりの得点」を使って「1ゲーム当たりの得点」を推定する、みたいな文章が出てくるにいたっては絶句するしかない。

 また、前後の文が互いに矛盾していたり、前後の章で正反対の事が書いてあったりして、英語力などなくても日本語さえ読めれば間違っていることがわかる部分も多々ある。こういうのは、能力の問題というより、純粋に職業倫理の問題じゃないかと思うのだが。

(私だってたいした能力があるわけではないから、翻訳中に理解できない文章に出会うことはよくある。そのときは当然わかるまで調べるのだ。検索しまくったり、安くない資料を買い込んだり。それでもわからなければ書いた本人に聞いたり。金を取る以上はそんなのは当然だろう。だから、こういう明らかな矛盾を放置したまま出版できる神経というのは、正直理解できないし理解したくもない。しかも出版翻訳は実務翻訳に比べて時間の余裕があるはずなのである。私は両方に関わった経験があるから、そのぐらいは知っているのだ。)

 細かい処まで修正していてはキリがないので、目立つ処だけに限定したが、それでもこの量である。正直言って、もし私がこの翻訳のレビューアーだったら、頭から全部の文に手を入れていただろう。そのぐらいの水準である。

 日本人には馴染みのない大リーグ事情を紹介したコラムを挿入するなど、編集の仕事には評価できるところもあるのだが、そんな余裕があるなら、なぜ翻訳自体の質の向上にもっと力を注げなかったのだろうか。

 ネット上で原書が難解だと言っている人を見かけたが、はっきり言って、原書は難解でもなんでもない。むしろ素人向けにわかりやすく書かれた啓蒙書である。野球には詳しいが数学が苦手な人が訳したのかとも思ったが、訳者のプロフィールを見ると、必ずしもそういう話でもないようだ。

 こういう欠陥商品を平気で市場に流通させてしまうアカデミズムの仕組みには謎が多いが、そんな裏事情など別に興味もないし、勝手にやってろとしか思わない。 まさか大学の先生がここまで理解力がないとは考えられないので、他人に訳させて自分ではロクに目も通さずに名前だけ貸してるといったところなのだろうが。

 きっと、大学教授や博士号の肩書きというのは、デタラメな仕事をして堂々と金をとってもよいという許可証みたいなものなのだろう。日頃、ささいなミスでクライアントに責められたり、金すら貰えずに逃げられたりしながら、あくせくしている私たちから見ると、なんともいいご身分である。大学教授様がお訳しあそばされたのだから、下々の者は文句を言わずにありがたく受け取れというわけだ。

 でも、こういう欠陥商品を買わされて「金返せ!」と憤っていても、原書を読む能力やお金のない可愛そうな人もいるはずなので、そういう人が、この記事を読んで少しでも損害を取り戻せた気になってくれれば幸いである。

 訳書を読んだけど難しくてよくわからなかったという人、心配御無用。あなたのせいじゃない。こんなもの理解できなくて当然。だって間違ったことばかり書いてあるんだから。

 以後、他の章の誤訳も順次指摘していく予定だが、なにぶん仕事の合間にやっていることなので、いつ完成するか確約することはできない。気長にお待ちください。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第8章)

  • 原文:The number of possible situations these other sports present is literally infinite, and in the course of each game or match, there are very few moments where the action is paused in an easily defined and numerically described state.
    • 元訳:これら他のスポーツが示す可能な状況の数は文字通り無限にあり,各試合や競技中に、容易に定義され,そして数的に説明され得る状況において試合や競技が一時中断する機会というのはめったにない.
    • 拙訳:このような他のスポーツで起こる可能な状況の数は文字通り無限であり,各競技や試合中に,容易に定義され数値で記述されるような状態で動作が止まる瞬間はほとんどない.
    • 解説:誤訳とまでは言えないが、「数的に説明され得る」ではわかりにくい。「3 回表 1 アウト 2 塁」のように「数値で記述される」という意味。「試合や競技が一時中断する機会」も変。野球だって一打席ごとに「競技が中断」するわけではない。ただ動作にわかりやすい区切りがあるというだけ。
  • 原文:Several researchers beside Lindsey and Palmer have taken advantage of baseball's relatively simple, static, and discrete structure to create probabilistic model of run production.
    • 元訳:リンゼイとパーマーに加え,何人かの研究者たちは比較的単純で,静的で,そして分散された野球の構造の利点を活かし,得点産出の確率モデルを作成した.
    • 拙訳:リンゼイやパーマー以外にも複数の研究者が,野球の比較的単純・静的・離散的な構造を利用して,得点能力の確率モデルを作成した.
    • 解説: "discrete" を「分散された」はおかしい。連続的ではなく離散的、アナログではなくデジタル、という意味。「得点産出」はちょっと固すぎる感じがするので変えてみた。
  • 原文:For ease of computation and explanation, we'll make some basic assumptions here about the types of events that occur in a plate appearance and how runners advance on the bases.
    • 元訳:計算と説明を容易にするために,ここで打席において起こり得る事象のタイプと,如何にして走者が進塁するかについて仮説を立ててみよう.
    • 拙訳:ここで、計算や説明を簡単にするため,打席で起こる事象の種類や走者の進塁の仕方に関する基本的な仮定をいくつか行う.
    • 解説:「仮説を立ててみよう」は変。ランナー一塁でヒットを打ったら一二塁か一三塁になることぐらい、別に「仮説を立て」なくてもみんな知ってること。じゃなくて、現実とは多少違うかも知れないけど、モデルとしてあえてそう「仮定」するのである。
  • 原文:We need to think of all of possible ways for runners to reach base so that 2 runs can be scored.
    • 元訳:ここで2得点できるために走者が出塁するあらゆる可能な方法について考える必要がある.
    • 拙訳:ここで,得点が 2 点入り得るような走者の出塁状況の可能性をすべて考える必要がある.
    • 解説:もろ直訳。このぐらい噛み砕かないと意味がわからないだろう。
  • 原文:We will explain shortly that 2 runs can score when 2, 3, 4, or 5 runners reach base in the inning.
    • 元訳:2人,3人,4人,または5人の打者が出塁するときに2点が入り得るということを手短に説明しよう.
    • 拙訳:得点が 2 点入る可能性があるのは,その回に 2~5 人の走者が出塁したときであることは,すぐ後で説明する.
    • 解説:この "shortly" は「すぐ後で」という意味で完全に誤訳。
  • 原文:So if for now we take that as a given, we can break down  the event {exactly 2 runs score in an inning} into the following events.
    • 元訳:つまり,今,上記の条件が与えられた時,{1イニングにおいてちょうど2得点する}状況を,以下の事象に分類することができる.
    • 拙訳:だから,その事はとりあえず所与とすると,{1イニングにおいてちょうど2得点する}という事象は,以下の事象に分けることができる.
    • 解説:この文は上の文の次の文なのだが、上の文の "shortly" が理解できてないから、この文でもなぜ "for now we take that as a given" と言っているのか理解できていない。「後で説明するから、とりあえずは所与とするよ」と言っているのである。
  • 原文:To compute the probability of scoring 2 runs in an inning, we first assign probabilities to the branches of the tree diagram.
    • 元訳:1イニングに2得点を挙げる確率を計算するために,まず樹形図の枝部分における確率を考えなければならない.
    • 拙訳:1イニングに2得点する確率を計算するため,まず樹形図の各枝に確率を割り当てる.
    • 解説:「各」に当たる言葉はないが、"probabilities" も "branches" も複数形なのだから、言いたいことはそういうことで、こう訳さないと意味がわからない。「枝部分における確率」などと訳しているが、この樹形図で枝以外に確率が割り当てられるところなどないのだから意味不明。
  • 原文:After all of the probabilities of the branches have been assigned, we find the probability of scoring 2 runs by multiplying probabilities along each branch of tree, then summing the products:
    • 元訳:全ての枝部分の確率を割り当てた後,各木の枝に沿った確率を乗算することにより2得点する確率を求め,そして結果を合計した.
    • 拙訳:あらゆる枝に確率を割り当てたら,樹形図の各枝に沿って確率を掛け算し,その積の合計を計算することにより,得点が 2 点入る確率を求める:
    • 解説:「枝部分の確率」については同上。「各木の枝」では木が複数あるようにとれるので、「木の各枝」とするのは常套手段。"summing the products" を独立した分詞構文として解釈しているが、不自然な解釈。
  • 原文:The walk (or hit by pitcher) is the least productive of on-base events.
    • 元訳:四球(または死球)による出塁が塁にからむプレイの中で最も小さな生産性を持つ.
    • 拙訳:四球(や死球)は,出塁の中でも最も得点力が低い.
    • 解説:直訳過ぎてわかりにくいし、なぜわざわざ「塁にからむプレイ」などと言い換えているのかわからない。
  • 原文:If we substitute any type of hit (single, double, triple, or home run) for one of the walks, more than 3 runs are liable to score.
    • 元訳:どのようなタイプのヒット(一塁打,二塁打,三塁打,そしてホームラン)も四球による出塁の1つとして置き換えてみると,3点以上の得点を生むことが期待される.
    • 拙訳:この四球の1つが安打(単打,二塁打,三塁打,本塁打)であれば、4点以上入る可能性が高い.
    • 解説:直訳でわかりにくい。"the walks" に定冠詞がついてるから、その意味がわかるように訳すべき。「一塁打」というのはあまり使わない言葉だと思うが。「単打」が普通だろう。"more than 3 runs" は「3 点より大きい」だから 4 点以上。
  • 原文:We first focus on computing probabilities at the second set of branches of tree; that is, the probability of scoring 0 runs given different number of players on base.
    • 元訳:まず始めに,樹形図における枝の2番目のセットの確率を計算することに注目する。即ち,0得点の確率は塁上の選手の数によって異なるのである.
    • 拙訳:まず,樹形図の2組目の各枝の確率,つまり,特定の数の選手が出塁した場合に得点が0点である確率を計算することに集中する.
    • 解説:なんか構文を取り違えている。"the probability" は前の "probabilities" と同格で、2 組目の各枝の確率というのは、出塁数が与えられたときに得点が 0 になる条件付確率だよ、と言っているのだ。
  • 原文:The first value we need is the probability of scoring 0 runs when 0 players get on base.
    • 元訳:誰も出塁しなかった時の0得点の確率は,私たちの必要とする最初の値となる.
    • 拙訳:まず必要な値は,出塁数が 0 のときに得点が 0 点である確率だ.
    • 解説:なぜわざわざひっくり返して訳しているのか。余計わかりにくいじゃないか。
  • 原文:Only two more cases to go, but they are the most difficult ones.
    • 元訳:さらに 2 つの場合が考えられるが,それらは最も困難なものである.
    • 拙訳:残る場合は 2 つだが,この 2 つが最も難しい.
    • 解説:「考えられる」などと言うと、ここで突然考えるみたいに聞こえるが、もともと出塁数が 0~3 であることは説明済みで、0~1 を説明したから残り 2 つだと言っているのだ。だからこう訳すべき。
  • 原文:The probability of scoring no runs (similar to the tree diagram for scoring 2 runs in Figure 8-2) is the weighted sum of these probabilities:
    • 元訳:0 得点の確率は(図8-2における樹形図で示した2得点を挙げる場合と似ている),次の確率の合計に重みを付ければよい:
    • 拙訳:得点が 0 点である確率は(図8-2の得点が 2 点の場合の樹形図と同様に),以下の確率の加重和である:
    • 解説:「合計に重みを付ける」とは言わないだろう。"weighted sum" は「加重和」または「重み付き和」である。
  • 原文:Clearly, a reasonable estimate for p to use in calculations is our old friend the team on-base percentage.
    • 元訳:明らかに,p の値を推定するための計算において用いるのは,よく知られたチーム出塁率(OBP)である.
    • 拙訳:この計算で使う p の手ごろな推定値は,これまでにも繰り返し登場したチーム出塁率であることは明らかだ.
    • 解説:「p の値を推定するための計算」とはどこから出てきたのか。"our old friend" というのは、この本で過去に登場したことを意味するのであって、一般論として「よく知られている」と言いたいわけではない。
  • 原文:This makes the calculation somewhat longer than other models, but it does provide the benefit of an added richness to our understanding of the game.
    • 元訳:これは,他のモデルに比べ多少計算が長くなるが,私たちがそのゲームを理解するうえでより効果的な利益をもたらしてくれるのである.
    • 拙訳:おかげで他のモデルより計算は多少長くなるが,試合をより深く理解できるという利点がある.
    • 解説:「これは」って何を指してるんだ。「効果的な利益」ってなんだよ。"the benefit of..." は「~という利点」。
  • 原文:The agreement is quite good, considering the relatively simple assumptions of the simulation model (no stealing, no bunting, no advancement on outs).
    • 元訳:シミュレーションモデルにおける比較的単純な仮定(盗塁、バント、アウトでの進塁はない)を考慮しても,極めて良く一致している.
    • 拙訳:このシミュレーションモデルの比較的単純な仮定(盗塁、犠打、進塁打なし)を考えれば,極めてよく一致している.
    • 解説:「シミュレーションモデル」ではシミュレーションモデル一般を指すように聞こえるので限定詞をつけたほうがよい。なぜ「考慮して『も』」と逆接になるのか。単純な仮定はモデルの精度を悪化させるのだから、「考えれば」だろう。
  • 原文:You might at this point ask, if you haven't asked already, what makes this a simulation model?
    • 元訳:ここであなたは何によってこうしたシミュレーションモデルが構成されているのかについて疑問を持つかもしれない.
    • 拙訳:ここまで読んだ読者は,このモデルを「シミュレーション」足らしめているものは何か,と(もしまだ聞いていなければ)聞くかもしれない.
    • 解説:make の用法がわかっていない。make を "A make B C" と SVOC 形で使った場合、「A が B を C 足らしめる」という意味になる。なぜこのモデルが「シミュレーション」モデルだと言えるんだい? という意味。(こんなの高校生レベルじゃないのか。。。)
  • 原文:The D'Esopo-Lefkowitz model differs from these board games only in the relative simplicity of its rules and its assumption of a single average level of performance for all hitters.
    • 元訳:デソポ-レフコウィッツモデルはこのような他の卓上用ゲームと,そのルールが比較的簡単である,全ての打者の成績に1つの平均レベルを想定している,という点で異なっている
    • 拙訳:このようなボードゲームとデソポ-レフコウィッツモデルが違うのは,ルールがより単純で,全打者の平均的な能力水準が同じだと仮定していることだけだ.
    • 解説:「卓上用ゲーム」ではわかりにくい。ファミコンだって見方によっては「卓上用ゲーム」だ。"performance" はこの文脈なら「成績」より「能力」の方がいい。"only" が訳抜け。あと語順とかいろいろわかりにくい。
  • 原文:(What distinguishes the D'Esopo-Lefkowitz model from the other models reviewed is its genesis from the rules of baseball applied in a probabilistic way.)
    • 元訳:(デソポ-レフコウィッツモデルと他のモデルとの差異の起源は確率に適用された野球のルールにある).
    • 拙訳:(デソポ-レフコウィッツモデルとこれまで検討してきた他のモデルを分けているのは、野球のルールを確率的に適用することにより生まれたというその起源だ.)
    • 解説:なんかいろいろとおかしい(後で書く)。
  • 原文:But we could use the rules they define as well as any assumptions we wish for the probability of getting on base and on-base profiles to actually play games of baseball either as a board game or as a computer program.
    • 元訳:しかし卓上用ゲームであろうがコンピュータゲームであろうが,野球ゲームを実際に行う際に,出塁や走者の動きの確率について私たちが望む仮定と同様に、彼らの規則を用いることもできる.
    • 拙訳:けれども,このようなモデルの定義するルールや,出塁率や出塁プロファイルに関する好みの仮定を利用して,ボードゲームやコンピュータプログラム上で実際に試合を行うこともできる.
    • 解説:なんかいろいろとおかしい(後で書く)。
  • 原文:If we played this game using the rules for runner advancement assumed by D'Esopo and Lefkowitz for equivalent of many seasons of virtual play (completing all innings until three outs are recorded), we would obtain results for the runs scored per inning which would exactly match those estimated using the equations described.
    • 元訳:仮想的なプレイからなる(全てのイニングは3アウトになるまで行われる)多数のシーズンに対して,デソポとレフコウィッツによって仮定された走者の進塁に関する規則を用いてこのゲームを行ったとする.すると、前述した式を用いて推定された結果と完全に一致する1イニング当たりの得点数に関する結果を得ることができるだろう.
    • 拙訳:もしこのゲームの中で,デソポ・レフコウィッツの仮定した進塁ルールを採用して,何シーズン分もの仮想試合(全イニングを3アウトが記録されるまでプレイ)をプレイすれば,その結果得られる1イニング当たりの得点は,前述の式を使って推定されたものと正確に一致するだろう.
    • 解説:なんかいろいろとおかしい(後で書く)。
  • 原文:The simplicity of the model's rules and player ability assumptions allows us to circumvent the whole process of replaying every plate appearance in every game.
    • 元訳:そのモデルの規則の単純さと選手能力の推定によって,全ゲームにおける全打席を再現する過程全体を省くことができる.
    • 拙訳:このモデルのルールや選手の能力に関する仮定の単純さが,全試合の全打席を再現する過程全体を省くことを可能にしている.
    • 解説:なんかいろいろとおかしい(後で書く)。
  • 原文:The D'Esopo-Lefkowitz model simulates baseball with very broad strokes.
    • 元訳:デソポ-レフコウィッツモデルは極めて広いストロークで野球をシミュレートする.
    • 拙訳:デソポ-レフコウィッツモデルは,野球を大雑把にシミュレートしている.
    • 解説:「極めて広いストロークで」じゃなんのことだかわからんでしょ。せめて「大胆な筆致で」とかならまだ比喩として通じるかもしれんが。
  • 原文:Since these are the best and worst on-base profile, and since the plot encompasses the highest and lowest team p-values from 1901-1999, the predicted run production for all teams in the twentieth century lie in the area bounded by these two lines.
    • 元訳:これは最も良い,または悪い出塁プロファイルであり,またこのプロットが1901年から1999年におけるp値の最も高いチームと最も低いチームを囲っていることから,20世紀における全てのチームの予想得点量はこれら2本の線によって区切られた領域内に位置付けられる.
    • 拙訳:この2チームの出塁プロファイルはそれぞれ最低と最高のプロファイルであり,このグラフのp値の範囲は1901~1999年の最低から最高までのチームをカバーしているので,20世紀の全チームの予想得点がこの2本の線に囲まれた領域内に存在する.
    • 解説:「これは」と代名詞のままではわかりにくい。"and" なのになぜ「または」にしてしまったのか。「プロットが~囲っている」も意味不明。encompass A and B は「A から B まで広がっている」というような意味なので、それをふまえて意訳すべし。
  • 原文:Looking at the 1947 Giants profile, we see that run production does not increase linearly with the probability of getting on base; that is, the line curves upward so that run production increases faster as p increases.
    • 元訳:1947年のジャイアンツのプロファイルを考察すると,得点産出が出塁確率と共に直線的に増加しているわけではないことが分かる.つまり,その線はpの増加と同じような傾きで得点産出が増加するように,上側に向かい曲線を描いているのである.
    • 拙訳:1947年のジャイアンツのプロファイルを見ると,得点は出塁率に対して線形には増加していないことがわかる.つまり,この線は上方向に曲がっており、pの増加につれて得点の増加が速くなっているのだ.
    • 解説:「線形」を「直線的」と書くのは趣味の問題とも言えるが、「pの増加と同じような傾きで得点産出が増加するように」は完全に誤訳。というか、これ日本語として意味分かります? 原文は要するに、2 階微分がプラスとか収穫逓増とかそういう状態を意味しているわけだが。
  • 原文:Still, the agreement in run value is very good, considering the simplicity of the simulation's assumptions.
    • 元訳:シミュレーションの仮定の単純さを考慮してもなお,得点価値の一致は極めて良いと言える.
    • 拙訳:それでも,シミュレーションの仮定の単純さを考えれば、得点価値は極めてよく一致している.
    • 解説:だからー、なんで「してもなお」なんだよ。ホントに意味分かってる?
  • 原文:The models often differ in the set of plays considers.
    • 元訳:考慮するプレイのセットによってこのモデルは異なるものとなる.
    • 拙訳:考慮するプレイのセットはモデルによって異なることが多い.
    • 解説:"differ in" の解釈が間違ってる。
  • 原文:For Batting Average, hits are the only plays considered.
    • 元訳:打率(AVG)に関しては,ヒットが考え得る唯一のプレイである.
    • 拙訳:打率の場合,考慮するプレイは安打だけである.
    • 解説:なぜ「考え得る」になるんだ。どこから出てきた。
  • 原文:On-Base Percentage is also the same as Batting Average, except it includes more plays, walks and hit by pitcher; it also expands the number of opportunities considered from just at-bats to (almost) all plate appearances.
    • 元訳:さらに,四球,死球といったより多くのプレイを含んでいること以外は,出塁率(OBP)は打率と同じである.つまり,単なる打数から,(ほとんど)全ての打席数へ考え得る機会の数の拡張も行っていることを意味している.
    • 拙訳:出塁率は,より多くのプレイ,つまり四死球を含むことを除けば,打率と同じである.また出塁率では,考慮する機会の数も,打数だけから(ほとんど)全打席まで拡大している.
    • 解説:なんかいろいろとおかしい(後で書く)。
  • 原文:Lindsey and Palmer basically used the same framework as in Total Average, but used estimates of the average number of runs each play produced as the play values.
    • 元訳:リンゼイとパーマーは基本的にトータル・アベレージと同様の枠組を用いたが,各プレイがプレイ価値として生み出す得点の平均の推定値を用いた.
    • 拙訳:リンゼイとパーマーは,基本的にはトータル・アベレージと同じ枠組を利用しているが,プレイの価値としては,各プレイが生み出す平均得点の推定値を使う.
    • 解説: as 以下の副詞句のかかる位置がおかしい。
  • 原文:They developed these values from play-by-play analysis of actual (Lindsey) and simulated (Palmer) games.
    • 元訳:現実(リンゼイ)のゲームと,シミュレートされた(パーマー)ゲームにおけるプレイごとの分析を行い,これらの値を発展させた.
    • 拙訳:リンゼイとパーマーは,このプレイ価値を,実際の試合(リンゼイの場合)や試合のシミュレーション(パーマーの場合)のプレイ単位の分析から導き出した.
    • 解説:主語を省略するというテクニックは確かにあるが、この場合かえってわかりにくくなっている。「値を発展させた」も直訳でコロケーション的に不自然。
  • 原文:Finally, several researchers used least squares linear regression on annual team offensive data to derive play values comparable to those of Lindsey and Palmer.
    • 元訳:最後に、数人の研究者たちは,リンゼイとパーマーのものに匹敵するようなプレイ価値を引き出すために,最小二乗回帰法を1年間のチームの攻撃データに用いた.
    • 拙訳:最後に、複数の研究者が,チームの年間攻撃データに最小二乗線形回帰を適用することにより,リンゼイやパーマーの値と同じようなプレイ価値を導き出した.
    • 解説:なんかいろいろとおかしい(後で書く)。
  • 原文:The play values derived from regression provided the best fit (as measured by RMSE) to annual team run production per game.
    • 元訳:回帰から得られるプレイ価値は,1年間における1ゲーム当たりのチーム得点に最もよく一致する(これは二乗平均平方根誤差によって測られる).
    • 拙訳:回帰から導き出されたプレイ価値は,チームの各年度の1試合平均得点に対し,最も良い近似(近似度は二乗平均平方根誤差で測定)を示した.
    • 解説:この best fit の fit は「近似」という意味なので、「一致」などと日常用語で訳すと返って誤解を招くだろう。「これは二乗平均平方根誤差によって…」の「これ」も何を指しているのかわかりにくい。
  • 原文:However, in some cases (as we observed, for example, with high value attributed to sacrifice flies), the values obtained from regression may have captured other attributes inappropriate for the evaluation of individual players.
    • 元訳:しかしながら,あるケース(これまで観察してきたような,例えば犠牲フライに起因するような高い値など)においては,回帰から得られた値は,個々の選手の評価において不適当な他の属性を補足しているかもしれない.
    • 拙訳:ただし,回帰から得られた値には,場合によっては(先に見た犠牲フライに与えられた大きな値のように)選手個人の評価にはふさわしくない他の属性が混ざっていることがある.
    • 解説:"attributed to" には確かに「起因する」という意味もあるが、この場合には、犠牲フライに大きな値が「帰属」させられたという意味。そんなの、前の章をちゃんと読んでればわかるはずだ。 回帰分析なのだから、犠飛のせいで誤差が増えるなどということはあり得ない。ただ、犠飛に与えられる重みが二塁打より大きいというのは常識的におかしい、と言っているのだ。だからこんな訳はありえないのである。
  • 原文:Product Models
    • 元訳:積算モデル
    • 拙訳:乗算モデル
    • 解説:「積」と「積算」で語呂が合っているように見えるが、「積算」というのはたくさん足し合わせるという意味で、掛け算ではない。だから素直に「乗算」と訳した方が誤解が少ないと思う。
  • 原文:This is a departure from the additive model approach, where the weights from different events are simply added.
    • 元訳:これは加算モデルによるアプローチから離れ,異なる事象の重みを単に加えている.
    • 拙訳:これは,さまざまな事象の重みを単純に加算する加算モデルの方法論からの決別である.
    • 解説:which を文修飾の関係詞と解釈したらしいが、意味を考えれば明らかに間違っていて、素直に "the additive model approach" を修飾していると解釈するのが正しい。なぜそんなことがわからないのだろう。章ごとに別の人間に訳させているのか。
  • 原文:Major improvements are found by adding OBP and SLG to obtain OPS, or by multiplying them to obtain BRA.
    • 元訳:主な改善点は,出塁率に長打率を加えた長打率+出塁率(OPS)や,あるいはそれらを掛けた打者得点率(BRA)に見ることができる.
    • 拙訳:大幅な改善が見られるのは,OBPとSLGの足し算によって得られるOPSや,掛け算によって得られるBRAにおいてである.
    • 解説:この "Major improvements" は、誤差の大幅な減少自体を指していて、その原因となる「改善点」を指しているのではない。「出塁率に長打率を加えた長打率+出塁率」はないだろう。そのまんまじゃないか。定訳がないので訳語の選択が難しいのはわかるが。
  • 原文:The regression model has the best fit, but this is really a fait accompli, since the model was designed from the same data.
    • 元訳:回帰モデルは最良の適合性を持つが,このモデルはこの同じデータから作られていることから,これは本当の既成事実である.
    • 拙訳:回帰モデルは近似度が最も高いが,これはこのデータから導き出された回帰モデルなのだから,まさに理の当然と言える.
    • 解説:この"a fait accompli" が訳し辛いのはわかるが、それにしても意味不明。"a fait accompli" というのは、「あらかじめ決まっている」という意味で、要するに、このデータに対する誤差が最小になるように計算された回帰モデルなのだから、誤差が最小になるのは「あらかじめ決まっている」ことだ、と言いたいわけ。
  • 原文:The other players form a very tight band; when LWTS/G rates a player highly, RC/G does so as well.
    • 元訳:他の選手は非常に密集した帯を形成しており,つまり1ゲーム当たりの線形加重で選手の評価が高い場合,1ゲーム当たりの得点も同様に高い値を示している.
    • 拙訳:他の選手は密集して存在している.LWTS/Gの評価が高い選手は,RC/Gの評価も高い.
    • 解説:これもひどい訳。RC というのは、かのビル・ジェームスが考案した "Runs Created" という指標を表していて、固有名詞である。それを「1ゲーム当たりの得点」などと一般名詞のように訳したら、なんのことやらわからなくなるだろう。だいたい、前の章に出てくる指標のほとんどは、なんらかの方法で「1ゲーム当たりの得点」を推定したものであって、RC だけがそうというわけではまったくない。LWTS もほぼ同様。このことは、この段落の文すべてに言える事なので、以後いちいち指摘しない。
  • 原文:We have identified three players whose RC/G evaluations are low given their LWTS/G evaluations:
    • 元訳:1ゲーム当たりの線形加重評価に対応する1ゲーム当たりの得点評価が低い3人の選手を検討した.
    • 拙訳:LWTS/Gの評価に比べてRC/Gの評価が低い選手が3人いる.
    • 解説:「対応する」ではわかりにくい。もともと全員対応させてるんだし。"identified" をなぜ「検討」などと訳したのだろう。
  • 原文:The best line in Figure 8-7 says that RC/G and LWTS/G are so closely related that a good estimate of a player's RC/G can be found from LWTS/G using the following formula:
    • 元訳:図8-7における近似線によると,1ゲーム当たりの得点と1ゲーム当たりの線形加重は極めて相関が高いため,選手の1ゲーム当たりの得点(RC/G)のよい推定は以下の公式を用いた1ゲーム当たりの線形加重(LWTS/G)から求めることができる.
    • 拙訳:図8-7の最良近似直線は,RC/GとLWTS/Gが強く相関していて,以下の式を使うと、選手のRC/Gの良い推定値をLWTS/Gから求められることを示している.
    • 解説:なぜか using 以下の分詞構文を LWTS/G にかかる形容詞句だと解釈したらしい。これを見ても、まったく意味を理解せずに訳していることがわかる。
  • 原文:Not only did McGwire hit home runs at a record pace in 1998, but when he wasn't trotting around the bases he very frequently walked to first base.
    • 元訳:1998年のマグワイアは記録的なペースでホームランを放っただけでなく,ベースの周りを小走りしなかった(ホームランでなかった)時は,四球で出塁した場合が極めて多かった.
    • 拙訳:1998年のマグワイアは,記録的なペースで本塁打を打っただけでなく、ベースをゆっくり回らないときには,1塁ベースに歩くことが極めて多かった.
    • 解説:"trotting around the base" と "walked to first base" は、それぞれ本塁打と四球を表す比喩表現だから、それっぽく訳すべき。「ベースの周りを小走り」じゃキャンプファイヤーのダンスみたいだし、「四球で出塁」だけ比喩じゃなくなってるのも変。
  • 原文:The reason, of course, for walking McGwire is to avoid his power and leave it to the next man in the lineup to knock in the runs.
    • 元訳:マグワイアを歩かせる理由は,もちろん彼との勝負を避けて,次の打順の打者との勝負に力をとっておくためである.
    • 拙訳:マグワイアを歩かせる理由は,もちろん,彼との勝負を避けて,次の打順の打者に走者を返す役を回すためである.
    • 解説:なぜか it = power と解釈したらしいが、この it はもちろん、"to knock in the runs" を表す「仮目的語」である。("to knock in the runs" はどこに消えたのか?)
  • 原文:This is just the situation created when the product models are used to estimate the cumulative number of runs produce by a lineup consisting of one player.
    • 元訳:これは,1人の選手によって組まれた打順による得点量の累積数を推定するために積算モデルが用いられた場合において作り出された状況に過ぎない.
    • 拙訳:これは,乗算モデルを使って,特定の選手だけから構成されるラインアップが全体として叩き出す得点を推定したときに生じる状況にすぎない.
    • 解説:語順だけの問題にも見えるが、この語順だと、「1人の選手によって組まれた打順による得点量の累積数を推定する」ために「積算モデル」使わない方法もあり得て、その場合にはこういう問題が生じない、とも解釈できてしまう。
  • 原文:Using the same formula, we estimate that McGwire required 361 outs to achieve his totals:
    • 元訳:同じ式を用いて,マグワイアがこのシーズン成績を達成するまでに36個のアウトを要したと推定する:
    • 拙訳:先程と同じ式を使うと,マグワイアがこの成績を実現するために必要としたアウトの数は,361だったと推定される:
    • 解説:単純なタイポだろうが、361 が 36 になっている。「同じ式」では何と同じ式だかわかりにくい。
  • 原文:The Average Team with Mac would have had about 35 more at-bats and 26 more hits.
    • 元訳:マックを加えた平均的なチームは,およそ 35 回の打数と、36 本のヒットが追加されるであろう.
    • 拙訳:この「平均チーム」にマグワイアが加わっていれば,打数は 35,安打数は 26 増えていたことになる.
    • 解説:"The Average Team" は一般名詞ではないので、それとわかる訳にしたほうがいい。「チームは…」と「追加される」が対応していない。受動態で結ぶなら「チームには」だろう。マグワイアの愛称「マック」は日本人には馴染みがないので、使わないほうがいいのでは。安打数 26 が 36 になっている。 "would have had" は「仮定法過去完了」で「過去の事実と異なる仮定」を表す。実際この節で論じているのは、すでに終了したシーズンの成績なので、こう訳したほうがよい。
  • 原文:X:RC/G(RUNS PER GAME) , Y:ADJUSTED RC/G - RC/G
    • 元訳:横軸:1ゲーム当たりの得点、縦軸:1ゲーム当たりの得点
    • 拙訳:横軸:RC/G、縦軸:修正RC/G - RC/G
    • 解説:これはそれぞれ、図8-11 のグラフの縦軸と横軸につけられたラベルなのだが、日本語版を見ると、縦軸と横軸の両方が「1ゲーム当たりの得点」になっていて頭おかしいのかと思ってしまう。こんなの、原文を見なくたって誤訳だとわかりそうなもんだが、校正者はどこを見ているのか。
  • 原文:If we with to evaluate players, the Linear Weights model is simpler than the Runs Created model. However, the Runs Created model has greater flexibility in its ability to analyze run production beyond the context of an average team.
    • 元訳:私たちが選手を評価する場合,線形加重モデルはRC(生み出された得点)モデルよりも単純である。しかしながら,RCモデルは,平均的なチームの文脈を超えた得点産出を分析する能力において極めて柔軟に対応できる力がある.
    • 拙訳:選手を評価したいだけなら,線形加重モデルの方が RC モデルより簡単だ。しかし,RC モデルの方が,得点能力を平均的なチームの文脈を越えて柔軟に分析する能力では優っている.
    • 解説:「分析する能力において極めて柔軟に対応できる力がある」ってどういう意味なんだ。頼むから教えてくれ。
  • 原文:Much of this book places great emphasis on the difference between observed performance (e.g. a player's batting average in a season) and ability (e.g. the underlying probability of getting a hit).
    • 元訳:本書の多くは,観測された成績(例えば、1シーズンにおける選手の打率)、および能力(例えば潜在的なヒットの可能性)に強く重点を置いてきた.
    • 拙訳:この本では,多くの箇所で,観測された成績(選手のシーズン打率など)と能力(その基になるヒットを打つ確率など)との違いを強調している.
    • 解説:"the difference" が訳抜け。
  • 原文:The issue as it relates to comparing players from different eras is a cottage industry in itself, with many worthy publications that address the topic.
    • 元訳:異なる時代における選手の比較と関連したこの話題はそれ自身生産性が乏しく,またこの話題に言及した素晴らしい本も多く出版されている.
    • 拙訳:異なる時代の選手を比較することに関する問題は,それ自体が発展目覚しい分野であって,この話題に取り組んだ価値ある文献は多数出版されている.
    • 解説:"a cottage industry" を「生産性が乏しく」と解釈したらしいが、生産性が乏しいのに「素晴らしい本も多く出版されている」というのはおかしい。"a cottage industry" というのは、いわゆる「家内制手工業」のことだが、近代の工場のように十分組織化されてはいないが、発展目覚しい分野、というような意味がある。このリンクなどを参照。
  • 原文:Given the capabilities demonstrated by the Runs Created model, the list of outstanding hitters in Table 6-14 is a very reasonable compilation of the 36 greatest career performances in generating runs.
    • 元訳:RC(生み出された得点)モデルで示された能力が既知であれば,表6-14における傑出した打者のリストは,得点産出において最も偉大な生涯成績を持つ36選手が極めて合理的に編集されたものとなる.
    • 拙訳:RCモデルの実証した能力を考えれば,表6-14の傑出した打者のリストは,得点に対する貢献において最高の生涯成績を挙げた36人の選抜として極めて妥当である.
    • 解説:この "given..." は「既知」ではなく、「…を前提とすれば」という意味。これまで説明した RC モデルの精度を前提とすれば、ということ。 "compilation" は、CD のコンピレーションと同じで、厳選したものという意味。  
  • 原文:(As followers of the Phillies, we well remember fellow Philadelphians' doubts about Mike Schmidt in this regard - that is, until he led Phillies to a World Championship in 1980).
    • 元訳:(フィリーズの信奉者として,マイク・シュミットのこの点、即ち1980年のワールド・チャンピオンシップにフィリーズを導くまでにおいて,仲間のフィラデルフィア市民が疑問を抱いていることを思い出さずにはいられない.)
    • 拙訳:(筆者たちは,フィリーズのファンとして,1980年にフィリーズがワールドシリーズに進出するまで、フィラデルフィアのファンたちが、マイク・シュミットに対して同じような疑念を抱いていたことをよく覚えている).
    • 解説:このフィリーズのファンである we というのは、「筆者たち」のことだが、これは訳さないとわからない。「この点、即ち…」もわかりずらい。
  • 原文:In Chapter 10, we will examine the clutch hitting issue and put some of the work in Chapter 7 to use in attempting to quantify contributions to winning.
    • 元訳:第10章では,チャンスにおける打撃について調べ,勝利への貢献度を測る第7章での手法をいくつか応用してみることにする.
    • 拙訳:第10章では,勝負強さに関する問題を調べ,第7章の成果の一部を利用して、勝利への貢献度を定量化することを試みる.
    • 解説:これも "in attempting " 以下を Chapter 7 を修飾する形容詞句と解釈したらしいが、これは put にかかる副詞句である。第7章では「勝利への貢献度を測る」手法など論じてはいない。第7章の手法を勝利への貢献度の定量化に利用するのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧