WordPress じゃなくて Drupal

 昨日紹介したサイトのアクセスログを見たら、早速「wp-login.php」なんて入力してるいたずらっ子さんがいましたが、残念でした。CMS は WordPress ではありません。Drupal です。

 Drupal は私かなり前から利用してまして、調べて見るとこんな記事も書いてますから(今と比べるとずいぶんゆるい文体ですね)、少なくとも 7~8 年前から使ってることになります。

 当時は日本語の情報は皆無に近かったんですが、今では日本でも多少は知られるようになりました。でも、WordPress の圧倒的シェアに比べると、普及率は依然として1パーセントにも満たないようです。LAMP スタックに対応した CMS として、もっと使われててもいい製品だと思うのですが。

 私も各 CMS の機能を徹底的に比較したわけでもないので、あまり大きなことは言えないのですが、個人的に気に入ったのは、まず汎用性・拡張性・柔軟性。モジュールやテーマを使って好きなだけカスタマイズできること。

 そして特筆すべきは、タクソノミー機能ですね。これはいわゆる「タグ付け」を汎用化したような機能で、記事のタグ付けにも利用できるし、昨日のサイトの「用語集」みたいな使い方もできる。

 まあ、包括的な機能の比較は他のサイトを参照していただくことにして、Drupal が日本でなかなか普及しなかった理由は、三つぐらいにまとめられるんじゃないかと思います。

  1. 日本語の情報が少ないこと。
  2. デフォルトのビジュアルがダサいこと。
  3. 利用できるホスティング・サービスが少ないこと。

 1は、先ほどから書いてるように、近年かなり改善されつつあります。私が最初にインストールした頃は、日本語の書籍はもちろん、ネット情報さえほとんどありませんでした。今は日本語の書籍も少数(2点?)ながらありますし、ネット情報も「Drupal Japan」はじめたくさんあります。

 2は、あまり言われませんし、些細なことだと思うかもしれませんが、意外とバカにならないんじゃないかと思います。インストール直後のデフォルトのビジュアルが、他の CMS と比べて断然ダサい! 特にあの「Druplicon」とかいうマスコット・キャラクターはなんですか? 反抗期の悪ガキみたいな顔でかわいくもないし、萌えないし。

 しかも、インストール直後は最小限の機能しか入ってないから、サイトのビジュアルもそっけなくて全く魅力がないんですよね。Joomla! なんかは、インストール直後から結構見栄えがよくて、ビジュアル重視だったら絶対あっちに行くよな、と私ですら思います。

 そして3。特に組織に属していない個人がウェブサイトを作ろうと思ったら、だいたいがホスティング・サービスのレンタル・サーバーを利用するわけですが、レンタルはオンプレミス(自前サーバ)に比べて制約が多い。以前のホスティング・サービスでは、サービス側で対応していない限り、ユーザーが勝手に Drupal をインストールすることなどできませんでした。そして、ただでさえマイナーな Drupal に対応しているホスティング・サービスなど、滅多にありませんでした。

 ところがです。この事情も近年になって劇的に変ったのです。そう。VPS(仮想専用サーバー)の登場です。VPS なら、オンプレミスでできることは、ほとんどできる。操作の上で、自宅にサーバーを置くのとあまり変らないことが、レンタルでもできるようになったのです。したがって、当然 Drupal のインストールもできる。

 でも、「できる」ったって、理屈の上ではできるってだけで、実際には知識もいるし手間もかかるんでしょ? Apache や MySQL や PHP もインストールしなきゃならないし、それを Drupal に合わせてカスタマイズしなきゃならない。そんな面倒なことやってらんないよな。

 とお考えの、そこの奥さん。いや旦那さん。坊ちゃんお嬢ちゃん。ご老人。独身主義のみなさん。非モテさん。ゲイや TS の方々。みーんなご安心ください。素晴らしいものがあるのです。

 じゃじゃーん(ドラえもんがアイテムを出す音楽)。

AWS~!

 AWS は、あの Amazon さんのやっている「Amazon Web Service」のことですが、VPS のさらに進化したものと考えてください。AWS では、VPS でできるようなことができるばかりでなく、さらに先進的な機能が多数用意されています。そんなに機能があると、その分料金もかかるのでは? と思う方もいるかもしれませんが、料金は基本的にすべてオンデマンド。つまり、使った分しかかかりません。

 そして、その多数の機能の一つに、AMI(Amazon マシンイメージ)というものがあります。これは、仮想サーバーのハードディスクの状態をそのまま保存したもので、サーバーのバックアップにもインストールにもコピーにも使える優れものです。たとえば、仮想マシンに LAMP スタックや CMS をインストールした状態を AMI に保存しておけば、それとまったく同じ仮想マシンを瞬時に再現できるようになるのです。

 AMI がさらにすごいのは、AWS にはマーケットプレイスというものがあって、そこで作成済みの AMI を入手できるようになっていることです。マーケットプレイスというぐらいだから、基本的には有料ですが、実は、無料で提供されている AMI もたくさんあります。そしてその中には、LAMP スタック + Drupal をプレインストールされた AMI もあるのです。

 つまり、AWS に加入して、マーケットプレイスで LAMP スタック+ Drupal のインストールされた AMI を入手し、その AMI から仮想マシンを生成する。これだけで、Drupal の動くウェブサーバができちゃうのですよ。ウソじゃないです。ホントです。

 もちろん、その代わりに AWS の操作方法を勉強する必要はありますが、そんなのは、LAMP を全部初めから勉強することに比べれば、はるかに簡単でしょう。最近は日本語の書籍や資料もたくさん出てますし。

 というわけで、Drupal 推しから始まって、最後はなぜか AWS の宣伝になってしまいましたが、たまには、こんな記事もいいんじゃないでしょうか。

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「闇ネットの住人たち」準公式サイト暫定公開

 実はこの度、10 数年ぶりに出版翻訳を手がけました。前回はゴースト翻訳者で契約上書名すら公表できなかったんですが(J2ME と XSLT の本とだけ言っておきます)、今回は名前を出していい契約なので出します。 「闇(ダーク)ネットの住人たち」という本です。

 この本は、オーディションに合格して訳すことになっただけで、必ずしも自分で選んだ本ではないのですが、(読書家というのはおこがましいにせよ日本人の平均よりは多く本を読んできたぐらいのことは言ってもいいであろう私が)一読者として読んでもなかなか面白い本だと思うし、訳しているうちにだんだん愛着が沸いてきたこともあって、こんなサイトを作ってしまいました。

「闇ネットの住人たち」準公式サイト

 サイトの製作意図として念頭に置いたのは、主に以下の二つです。

  1. 読もうかどうか迷っている人の、判断の参考になる情報を提供する
  2. 読んでくれた読者の、内容や翻訳に対する疑問に答える情報を提供する

だから、プレスリリースより詳しい目の内容紹介とか、私の考える本書のセールスポイントとか、原著に対する英語圏メディアのレビューの(引用範囲の)翻訳とかもありますし、翻訳作業の裏話とか、参考文献のアマゾンリンクとか、本書に登場するネットスラングの対訳用語集などもあります。

 この手のコンテンツは、すぐステマだのなんだの言われてしまうご時世ですが、このサイトに関しては、訳者だと名乗っているのだがら、少なくともマーケティングではあっても「ステルス」ではありません。また、サイトの中にも書いたんですが、この本の報酬は固定料金買取であって、印税契約ではありません。しかも、その金額も実務翻訳の相場と比べたらはるかに安い金額で、出版不況だという噂は聞いていましたが、こんなにしみったれてるのかと私自身びっくりしたぐらいです。あ、この話はいいか。

(これは余談ですが、よく音楽のプロデュースをやってるムーンライダーズの鈴木慶一さんが、プロデューサの報酬は時給換算したらマクドナルドのバイト以下じゃないかという説がある、みたいなことを、「フライトレコーダー」か「火の玉ボーイとコモンマン」かどっちかで言ってたけど、私の報酬も時給換算したら、バイト以下どころか、ブラック企業以下どころか、最低賃金以下だと思いますね。承知で引き受けたんだから、今更言ってもしょうがないけど。)

 だから、もしこのサイトによって本書の売り上げが伸びたとしても、少なくとも私に対する金銭的報酬が直接的に増えることはありません。その上、このサイトのホストのレンタル料金、ドメイン名やSSL証明書の更新料金、サイトの製作・管理の人件費など、すべて私の自前です。だから、こんなサイトを作っても、少なくとも金銭的には、ほとんど損ばかりと言っても過言ではありません。

 もちろん、苦労して翻訳した作品ですから、無意識のうちにバイアスがかかることは否定できませんが、ネット上によくあるステマサイト・アフィリエイトサイトに比べれば、それほど売らんかなの姿勢では作っていないつもりです。だからまあ、あまり偏見を持たずに温かい目で見ていただきたいと思います。

 このサイト、暫定公開と言いつつ、実は数週間前からベータ版的に稼動していまして、それ以来コンテンツの追加や修正を繰り返していました。でも、このペースで更新を続けていると、いつ完成するかわからないし、今後しばらく忙しくなりそうなので、このへんで一度アナウンスしておくことにします(こんな過疎ブログで「アナウンス」することにどれほど意味があるのかわかりませんが)。今後も暇を見て少しずつ更新を続けていく予定です。

 本書の内容や翻訳についてのお問い合わせは、このサイトの「お問い合わせ」フォームからお願いします。時間はかかるかもしれませんが、できる範囲でなるべく対応するつもりです。

 追記: 本書の内容の抜粋は、「ニューズウィーク日本版」に3回に分けて連載されています(版元が同じなので、完全に宣伝です。為念)。だから、職場でニューズウィーク誌を購読しているような方は、内容の一部を試し読みできるはずです。ニューズウィーク誌の編集者の方によりスタイルの修正が入っていますが、訳者校もちゃんと入っているので、内容は基本的に同じです。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 8/25 号 [温暖化 想定外の未来] Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 9/1 号 [中国の異変] Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2015年 9/8 号 [持続不可能な中国経済]
第2章「一匹狼」より抜粋 第4章「3クリック」より抜粋 第5章「オン・ザ・ロード」より抜粋

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Amazon EC2 インスタンスの CPU 消費が 6 時間おきに 100% になる現象の犯人が Webmin だった件

注意: この記事には、技術的に高度なことは何も書かれていません。むしろ、書かれているのは調べれば誰でもわかるようなことで、同じような現象に遭遇した人が調べる手間を少しでも省ければよいと思って書いています。あと、筆者は MS-DOS、Windows、旧 Mac などは実際に開発経験があるのでわりと詳しいですが、Linux には疎く、基本的なコマンドすらちゃんと覚えていません。ですから、以下の記事でも、Linux に詳しい人から見れば、もっと簡単にできることを、わざわざ遠回りしてやってる可能性もあります。そのへんご承知の上でお読み下さい。

 筆者は最近 Amazon AWS 上でサーバを運用しているのだが、一つ気になる問題に気がついた。CloudWatch で EC2 インスタンスの CPU 消費量(CPUUtilization)を モニタしていると、かなり頻繁に CPU 消費量が 100% になるのだ。

 最初は、実際にサーバにアクセスがあったから負荷がかかったのだろうと思っていたのだが、よくよく見ると、その負荷のかかるタイミングが妙に規則的なのだ。きっちり 6 時間おきに負荷がかかっている。つまりこんな感じだ。

AWS-EC2-CroudWatch.jpg

 これがなぜ問題かというと、うちのサーバは CPUUtilization をトリガーにして Auto Scaling をかけているので、CPU の負荷がかかるたびに EC2 インスタンスがポコポコ起動されてどんどん課金されてしまうからだ。

 それでも最初の一年間は無料サービスだったのであまり気にしなかったのだが、無料期間が終わってからは、この Auto Scaling による課金がバカにならなくなってきた。

 それで仕方なく本腰入れて原因調査に乗り出した。

 最初に疑ったのはもちろん CRON ジョブだったが、いくら調べても 6 時間おきに起動する CRON ジョブなんてものはない。

 そこで、負荷がかかる時間を見計らって、PuTTY で SSH 接続し、top コマンドでどんなプロセスが CPU を消費しているかを観察してみた。原始的な方法だが、他のやり方を知らないので仕方がない。

AWS-EC2-top.jpg

 その結果、以下のようなプロセスが CPU を消費してることがわかった。

  • webmin
  • aptitude
  • apt-get
  • update-apt-xapi

 ここから想像できるのは、

  • どうも Webmin が一枚噛んでいるらしい
  • パッケージの更新に関係があるらしい

 ここまで考えて、あっとひらめいた。そういや、Webmin にはこんな表示があるじゃないか!

AWS-EC2-webmin.jpg

 この数字、Webmin を開くたびに更新されてるじゃないか。ってことは、Webmin が定期的に aptitude を呼び出してるんじゃないのか?

 そこで、System > Sofwtare Package Updates を開いてみた。

AWS-EC2-webmin-Software-Package-Updates.jpg

 そして、「Module Config」をクリックすると…。

AWS-EC2-webmin-Software-Package-Updates-Configuration.jpg

 あった! こんなところに、6 の数字が…。

 そしてこの数字を変更してみたところ、見事に 6 時間ごとの負荷は消え去ったのであった。

AWS-EC2-CroudWatch-after.jpg

 完全に盲点だったのは、Webmin なんてものはトランスペアレントに動くべきもので、その負荷が問題になるなんて完全に想定外だったこと。しかし、Webmin の負荷は意外とバカにならないのだった。もっとも、t1.micro なんて貧弱なインスタンスを使ってるせいもあるが。

 というわけで、こういうくだらない問題で時間を無駄にする人が、一人でも減ることを願っております。

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野見祐二の「ヘルベチカ・スタンダード」を Sinsy と CeVIO に歌わせてみた

 今回は、アニメ「日常」の中の「ヘルベチカ・スタンダード」というコーナーで BGM として使われている曲を、ボーカル・シンセサイザーの Sinsy CeVIO に歌わせてみた。CeVIO を使ったのは初めてだが、まあいわば Sinsy の親戚のようなものだ。同じ名古屋工業大学が開発にかかわっていてる。

 イントロのロゴのような部分を Sinsy 謡子さん、「ヘ・ル・ベ・チ・カ・ヘ・ル・ベ・チ・カ...」というドローンの部分を Sinsy 香鈴さん、「リーベー」というよくわからないコーラスの部分を CeVIO さとうささらさんに、それぞれ歌ってもらっている。

 作曲は知る人ぞ知る野見祐二氏である。かの坂本龍一氏に見出されて、氏の映画音楽を何作か手伝った他、スタジオ・ジブリのアニメ「耳をすませば」や「猫の恩返し」の音楽を担当したことで知られる。教授から「坂本経由のラヴェル」と評されたことがあるくらいで、印象派以降の作曲テクニックを華麗に使いこなす作曲家である。

 「ヘルベチカ・スタンダード」というのは箸休めのようなギャグのコーナーなので、この BGM もそれに合わせたコミカルな作風となっており、この小品だけで野見氏の作風を語るのもどうかと思うのだが、短いだけになおさら特徴が端的に現れているとも言えるので、例によって少し紹介してみたい。

 下の譜面は、後半の「リーベー」の部分から四小節だけ抜き出したものだ。前半二小節が一回目の繰り返し、後半二小節が二回目の繰り返しに対応している。解説しやすいように、動画中の楽譜とは調号を変えてあるが、弾いている音自体は同じものである。

 前半も後半も、基本になっているのは F# → F という半音単位の平行移動である。平行移動というのは普通、それだけでは調性的な機能は持たない。特にこの場合はダイアトニックコードではないので、部分的な転調のようになるだけだ。

 しかし前半では、その上のメロディがドローンのように E の音を鳴らし続けている。これをコードの構成音と見なすと、F#7 → FM7 という進行に変わる。F#7 ではわかりにくいので、Gb7 と言い換えると、これはジャズ理論で言うところのドミナント・セブンスの裏コードであることがわかる。つまり、単なる平行移動に音を一つ足すだけで、機能和声的なドミナント・モーションと解釈できるようになる。

 ところが後半になると、F# → F の部分の構成音はまったく同じまま、音が1個足されており、さらにメロディの音も変化していることがわかる。これらをコードの構成音と見なすと、今度は F#6 → FM9 という進行になっている。

 Gb7(F#7)がなぜドミナント・セブンス(この場合 C7)の代理と見なせるかというと、ドミナント・セブンスと同じトライトーン(この場合、Bb - E)が含まれているからである。ところが、F#6 には Bb は含まれているが、E が含まれていないので、これはドミナント・セブンスの代理コードとは見なせない。

 つまり、この前半と後半は、ほとんど同じような音の構成でありながら、機能和声的にはまったく異なる機能のコード進行になっているのである。こういう発想は、コード進行だけで考えていてはなかなか出てこない。

 こんなところにも、コード進行主体に考えるポップス系のアレンジャーとは異なる、野見さんの個性が現れていると言えるのではないかと思う。

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統一球大喜利

 統一球問題について、Twitter で親切な方々が解説してくださっているのだが…

 何がすごいって、一つも意味がわからん。一つたりとも意味がわからん。何の分野かすらようわからん。

 自分でも考えてみたけど、何も思いつかなかった。みんなすごいな。

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エリック・セラの「The Diva Dance」を Sinsy に歌わせてみた

・曲を選んだ理由

 二ヶ月ぶりの Sinsy カバー作品。今回は、リュック・ベッソン監督の映画「フィフス・エレメント」の劇中歌として使われている「The Diva Dance」をカバーしてみた。

 この曲を選んだ理由は、1) 歌唱法が Sinsy に向いていそう、2) 曲の長さが短い、3) ドラムの入ったポップスをやりたい、4) だけどギターの打ち込みは避けたい、5) この曲が好き、6) この映画もわりと好き、などいろいろあるのだが、一番の決め手は、この曲が「人間には歌えないように作られた曲」であることだった。

 この曲は劇中では異星人のオペラ歌手によって唄われるという設定で、エイリアンの能力を表現するため、わざと普通の人間には歌えないような音域やメロディで作られているのである。だから、Sinsy のようなボーカル・シンセサイザーに歌わせるにはぴったりの曲だと思ったのだ。

 もっとも、そう思ったのは私だけではないらしく、私が検索した範囲でも、巡音ルカさんに歌わせた先例があった。

でも多分、初音ミク系のボーカロイドよりは Sinsy の方がこの手の曲に向いていると思うので、先例があってもやってみる価値は十分あると思った次第。両者の違いが気になる人は、聴き比べてみるのも一興だろう。

 ボーカル・トラックは、基本的に Sinsy の出力をほとんどそのまま使っているが、途中のグリッサンドで3オクターブ一気に駆け上がるところだけは、VocalShifter というツールで加工した。音域や技巧の問題ではなく、Sinsy にはグリッサンドの機能がないからである。

・音源はサウンドフォントのみ

 Sinsy 以外の音源は、実はすべてサウンドフォントである。ハードウェア音源はもちろん、VST インスツルメントすら使っていない。だから余計な金はほとんどかかっていない。そのワリには悪くない音だと思いませんか?

 サウンドフォントは複数の音色がセットになる仕様なので、既成のものをそのまま使ってもなかなか曲に合った音色構成にはならない。

 ところが、サウンドフォントを編集する Viena というフリーウェアがあって、これを利用すれば音色の構成も音色自体のパラメータも自由自在に編集できるのだ。もちろん、そのためには Viena の操作方法やサウンドフォント自体のデータ構造を学ばなければならないが。

Viena プリセット編集画面

Viena サンプル編集画面

・音色を探す方法

 この手のダンス・ミュージックは、音色がハマってないと死ぬほどダサくなるので、今回は楽譜の打ち込みよりも音作りに時間をかけた。おそらく全製作時間の2/3以上を音色探し・音色選び・音色加工・ミキシングなどに費やしたと思う。

 フリーのサウンドフォントを入手できるサイトはいくつかあるが、最も内容豊富なのは Sf2Midi.com だろう。このサイトは登録が必要であり、また無料会員だとダウンロード速度がかなり遅いなどという欠点もあるが、データ量の豊富さでは他サイトの追随を許さない。しかし、それでも気に入った音色が見つからないときはどうするか。

 実は、サウンドフォントというのは一種のサンプラーなので、サンプル波形のデータさえあればどんな音にも音程をつけて鳴らすことができる。そういう意味では万能と言ってよい。

 サンプル波形を入手できるサイトも多数あるが、私がお勧めしたいのは Freesound である。このサイトは、基本無料であり、ワンクリックでプレビュー再生ができ、タグ検索もあり、類似音検索もあり、データの多くがクリエイティブ・コモンズライセンスであることが明記されているなど、数々の長所がある。

 今回の曲では、スネアの音色にぴったり来るものが見つからなくて、最終的にはこのサイトで見つけた「地下室で木の板を落とした音」の波形を加工して使わせてもらった。

 だから厳密にはスネアではなくて、「スネア的」に使われている音色にすぎないのだが、スネアの音色から類似音検索でこういう波形が見つかったりするところが、このサイトのよいところだ。

 また、パーカッション的に使われている「ガチャ」という感じの音も、このサイトで見つけた「電子レンジの扉を開く音」の波形である。

・打ち込みは MuseScore

 楽譜の打ち込みには、DAW はもちろん、単機能の MIDI シーケンサーもほとんど使っていなくて、基本的に MuseScore という楽譜清書用ソフトウェアだけでやっている。

 MuseScore は MusicXML 形式で出力できるので Sinsy と相性がよく、また、サウンドフォントを直接読み込んでその音色で曲を再生したり、wav ファイルに変換したりする機能があるので、サウンドフォントとの相性も抜群で他のツールを介入させる必要がほとんどない。

 MuseScore の [作成] メニューから [楽器] を選ぶと、付属するサウンドフォントの楽器名が勝手に表示されるので、それ以外は選べないと思っている人もいるかもしれないが、実はここで選択した各パートの音色は [表示] メニューから [ミキサー] を表示すればいくらでも変更可能だ。また楽器名の表示自体も、楽器名を右クリックしてポップアップメニューから [譜表のプロパティ] を選択すれば変更できる。

MuseScoreのサウンドフォントとミキサー 

MuseScoreの楽器名

 この機能を利用して wav ファイルを生成して「はい完成」でもよいのだが、今回はもう少し音作りに凝りたかったので、楽器音色ごとに wav ファイルを生成して、それを Audacity 上でミキシングするという方法をとった。MuseScore にはパート譜を生成する機能があるので、この点でも便利だ。 

 ただし、MuseScore にもグリッサンドの機能がない(厳密に言うと、グリッサンドを譜面に書き込むこと自体は可能だが、再生には反映されない)ので、イントロの「ウィーン」という音がグリッサンドしながら上昇するところだけは、一度スタンダード MIDI ファイルに出力してから、Domino に読み込んでピッチシフトを付け、TiMidity++ 経由で wav ファイルに変換するというやり方をしている。

 MuseScore は、登場したばかりの頃はまったく使い物にならなかった記憶があるのだが、当時とは比べ物にならないほどよくなった。 今でもときどきクラッシュしたりはするけれど。

MuseScore 画面

・「ドラムセット」は使わない

 MIDI 音源には音色の一種として「ドラムセット」というものが用意されていることが多い。ドラムセットでは、普通の音色のように音階に対して同じ楽器を割り当てるのではなく、各音階に別々の音色を割り当てる。たとえば、真ん中の「ド」の音がバスドラム、「レ」の音がスネアドラムというふうに。

 ドラムは音程のない打楽器の集まりなので音階を指定する必要がないし、ドラムの各楽器に別々のチャンネルを割り当てるとチャンネル数が増えていろいろと煩雑になるので、こういう方法が広まった。ちなみに、ドラムセットは GM (General Midi) でも規格化されている。

 MuseScore もドラムセットに対応していて、ドラムセット全体を一つの楽器として記譜できるようになっている。だから、この曲も当初はドラムセットを使って打ち込んでいたのだが、いろいろ試行錯誤を重ねた末、最終的にはドラムセットを使うという発想は完全に捨てた。理由はいろいろある。

 まず、ドラムセットを使うと、各楽器の音色を別々に選ぶことが難しくなるということ。各楽器の音色がすべて曲に合っているようなドラムセットが見つかればいいけれど、常に見つかるとは限らない。現にこの曲でも見つからなかった。Viena を使えばドラムセットの楽器の音色を個別に差し替えることも可能ではあるけれど、手間がかかりすぎて、いろんな音色を聞き比べることが難しくなる。

 また、ドラムセットを使うと、ミキシングの時に各楽器に別々の処理をすることができなくなる。たとえばこの曲でも、ハイハットを右にリバース・シンバルを左にパンしているし、クラッシュシンバルとスネアブラシにだけコーラスをかけ、リバーブの深さも楽器ごとに微妙に変えて奥行きを表現している。ドラムセットを使うと、こういう処理は一切できなくなる。もちろん後述のように、Audacity 上で各楽器の発音タイミングを微妙にずらすことも困難だ。

 ドラムセットは確かに、スケッチやプリプロダクションには便利なのだが、本番の打ち込みには絶対に向かない。そのことを今回つくづく悟った。熟練したクリエイターにとっては多分常識の部類だろうが。

・ミキシングは Audacity

 前述の通り、ミキシングは Audacity で行った。この曲は比較的シンプルに聞こえるかもしれないが、実は 25 チャンネルもあって、しかもすべてステレオで録ってるのでトラック数だと 50 トラックにもなる。もちろん、その中には SE を一回だけジャンと鳴らして終わり、というようなトラックもあるが、そういうトラックを除いても 20 チャンネルは優にある。つまりこんな感じだ。

Audacity 画面

Audacity ミキサーボード

 だから、うちの非力な PC で全トラック同時にスムーズに再生できるか、少々心配だったのだが、ほとんど杞憂だった。たまに CPU 負荷が高いときなどに再生が乱れることはあるが、余計な負荷さえなければ再生に支障はない。おそらく、最新の PC だったらこの数倍~数十倍のチャンネル数でも平気だろう。

 エフェクタに関しても、Audacity は VST プラグインを読み込めるのでいくらでも拡張可能だ。相性の問題で動作しないプラグインもあるが、困るほど多くはない。VST プラグインは有料・無料含めてネット上に腐るほど転がっている。VST プラグインを探す際に便利なサイトとしては、KVR Audio を挙げておこう。

 Audacity ミキシングの最大の欠点は、エフェクタの結果をリアルタイムで確認できないことだろう。しかし、若い頃に 4 チャンネルのカセット MTR でピンポン録音などしていたときのことを思えば、なんてことはない。それを除けば、伝統的な MTR やミキサーとあまり変わらない使い方ができる。 

・Audacity の裏技

 今回 Audacity を使っていて、ひとつ裏技的なものを発見した。80~90 年代に MIDI シーケンサーで DTM をやっていた方はご存知だと思うが、MIDI の打ち込みというのは、普通にやってると必ずしも自然なグルーブ感がでない。その大きな理由は、MIDI の場合音のタイミングが音量のピーク位置ではなく先頭で合わされてしまうからである。

 MIDI というのは、もともと電子楽器をリモコンで操作するための規格だ。だから、楽器に音を出すことを命令するノートオンというイベントはあるが、そのイベントを送られた楽器が実際にどのようなエンベロープで音を出すかまでは操作できない。エンベロープのアタックの速さは音色によって皆違う。打ち込み音楽はタイミングは正確なのになぜかノリが悪かったりする一つの理由はここにあった。

 このようなノリの悪さは、Audacity 上で波形を睨みながらトラック全体を数十ミリ秒単位でまとめてずらしてやれば、比較的簡単に修正できることがわかった。もちろん、音のアタックの速さは、音色だけで決まるわけではなく、音域やベロシティによっても違うから、厳密にはトラック単位でずらしても細かいところでずれが残る可能性がある。しかしそれでも、何もしないよりはマシなことは間違いない。

 もちろん、こんな「裏技」は気づいてる人はとっくに気づいているだろうが、もし気づいていない方がいたら、是非一度試してみることをお勧めする。いわゆる打ち込み臭さのようなものを、かなり解消できることがわかるだろう。

Audacity 裏技

・IR リバーブは便利

 エフェクタは主にコーラスとリバーブを使用したが、今回生まれて初めて IR リバーブというものを使ってみた。別名コンボリューション・リバーブとかサンプリング・リバーブとも言う。2000 年代になって登場したものらしく、昔はこんなものなかったから使いようがなかった。

 理科系の人はコンボリューションという名前からなんとなく想像がつくんじゃないかと思うが、IR というのは Inpulse Response (インパルス応答)の略。つまり、インパルス応答から畳み込み演算によってリバーブを計算するエフェクタらしい。

 従来のリバーブは、仮想のモデルからシミュレーションによってリバーブを計算していた。たとえば、5m 四方の部屋のシミュレーション、などという風に。一方 IR リバーブは、現実に存在する部屋のインパルス応答を測定し、それを元にしてリバーブを計算するらしい。

 だからアナロジーで言えば、従来のリバーブがシンセサイザーだとすれば、IR リバーブはサンプラーのようなものだと言えるかもしれない。サンプリング・リバーブと呼ばれるのもそのせいだろう。

 まだ数は多くないが、フリーの VST プラグインとして公開されている IR リバーブがいくつかある。有名なのは Freeverb SIR1 だ。SIR1 はエフェクトが遅延するという大きな欠点があるが、仕様がシンプルで使いやすい。Freeverb は高度すぎるのか、私には今ひとつ使いこなせなかった。ひょっとしたら、慣れたら Freeverb の方がよいのかもしれないが、今回は SIR1 を採用。

SIR1

 使ってみた感想は、さすがに現実の部屋の特性を反映したものだけあって、「自然」だということ。だから、いくら深くかけてもあまりイヤミにならない。また、パラメータもそんなに多くないので、そういう意味でもあまり悩まずに気楽に使える。

 逆に言うと、特殊効果としてアグレッシブな使い方をするのは難しそうだ。基本的に現実に存在する空間の特性しか表現できないので、良くも悪くも、どこかで聴いたような音にしかならない。馬鹿みたいに広いのになぜかものすごく残響の強い空間とか、そういう SF 的なものを表現するには向いていないのではないか。

(厳密には、シミュレーション・モデルからインパルス応答を生成するツールもあるし、従来のリバーブそのもののインパルス応答を測定することもできるので、原理的には同じことが可能ではあるが。)

 今回の曲では、オペラハウスのような豊かな響きを表現したかったので、ほとんどの楽器にこの IR リバーブをかけてみたのだが、その割にうるさい感じにはなっていないと思う。

・動画はキャラみん

 音楽だけでも十分時間をとられるので、動画にはあまり時間をかけたくない。そこで、音声データを入力するだけで自動的に動画を生成してくれるようなツールを探した。

 最初は MilkDrop というビジュアライザーの画面をキャプチャして使おうかと思っていた。これは Winamp にも採用されている優秀なビジュアライザーで、描画に DirectX を使うので、複雑な 3D 画像を描画しているわりには CPU 負荷が低い。またプリセットが非常に豊富で、センスのよいプリセットが多く、見てて飽きない。ただ、その映像はリズムに合っているだけで、音楽の内容とはあまり関係がないのが欠点だ。

 「キャラみん」というのも一種のビジュアライザーなのだが、音楽に合わせて CG キャラクターがダンスを踊ってくれる。また CG キャラクタのモデルとしては、MikuMikuDance のデータをそのまま使える。MMD の振り付けを自分でやるのは大変そうだが、これなら楽だろう、ということで採用した次第。

 実際のキャラクタとしては、Drumaster 氏製作の z7def式改変MEIKO を使わせていただいた。これを選んだのは、映画の中のミラ・ジョボビッチのイメージに似ていたというだけの理由で、それ以上深い意味はない。

 このデータを「キャラみん」に読み込ませて、自動生成した動画をそのまま使った。おかげで、動画製作にはほとんど時間をとられなくて済んだ。ありがたいことです。

きゃらみん画面

・ニコニコ動画のエンコードに苦労

 むしろ、意外と手間がかかったのはニコニコ動画用のエンコード設定だった。ニコニコ動画は一般会員の場合最高ビットレート 600kbps という制限があり、またアップロードしたファイルが一定の条件に合っていないと、サーバー側で再エンコードされて情けないほど音質が低下してしまう。

 この再エンコード処理を食わないようにしながら、なおかつ、音声データに十分なビットレートを割り当てるには、ファイル形式やエンコード方式を慎重に選択する必要がある。

 YouTube はニコニコ動画と違って再エンコードで極端に品質が低下するようなことはなく、また、これまでは静止画しか使っていなかったので、この点をあまり意識したことがなかった。

 どうもニコニコ動画自体は、このへんの仕様を積極的に公開していないらしく、設定は有志が勝手に調べてくれた情報だけが頼りだった。もっとも参考になったのは、「ニコニコ動画まとめ wiki」であった。感謝したい。

 最終的には、コンテナは mp4、ビデオデータは H.264 の 300kbps、音声データは AAC の 288kbps でエンコードした。つまり、全帯域幅の半分近くを音声に割り当てたわけだ。 

・金がなくてもここまでできる

 年寄りの昔話を繰り返して申し訳ないが、私の若い頃に、これと同じ作業のできる環境を調えようと思ったら、100 万円は余裕で必要だったろう。それが今やほとんどフリーウェアだけでできる。お金がかかるのは、PC 購入料金(それも高価なモデルは必要ない)、インターネット接続料金、電気代ぐらいなものだ。

 たぶん経済的な意味でもっとも負担が大きいのは、このどれでもなく、私自身の作業時間の機会費用だと思うが、趣味でそういうことを言うのは野暮だからやめておこう。

 もしかすると、今の若い人の中にも、Cubase ProTools のような高価なソフトウェアを購入しないと音楽製作はできないと思ってる人もいるかもしれないが、フリーウェアだけでも根気と工夫次第で少なくともこのぐらいはできるのである。だから簡単に諦めないでほしい。

・使用ソフトウェア一覧

  この作品に使用したソフトウェアを以下にまとめておく。もちろん、これはたまたま私のやり方や好みに合っていただけで、他にもいろんな組み合わせがあると思う。お金のないクリエイター志望者の参考になれば幸いである。

(おまけ)

 「人間には歌えない曲」と言ったが、それでも歌ってみようという人はいるみたいで、中にはかなりいい線を行っている人もいるようだ。

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細野晴臣の「キラ」を Sinsy に歌わせてみた

 今回は細野晴臣作曲の「キラ」という曲を Sinsyに歌わせてみた。この曲はもともと、萩尾望都さん原作の「マージナル」というラジオドラマのサウンドトラックに収録されていた曲で、作詞は福澤諸さん、オリジナルのボーカルはコシミハルさんであった。アレンジはほぼ完コピである。

 この曲を収録した CD は、現在おそらく廃盤でやや入手困難だが、この曲は細野さんのあまた傑作の中でも好きな作品であり、のこの CD をリアルタイムで購入して保有していることが、私の細野ファンとしてささやかな自慢である。

 この曲は細野さんの作品の中でもやや異色の作品で、端的に言ってエリック・サティの影響が強く感じられる。たとえば、冒頭の譜面はこんな感じだ。

 耳コピなので細かいところは間違ってるかもしれないが、イントロのストリングスの和声はドレミ(!)であり、そこにガーンと入ってくるピアノの和声はドレソラである。つまり、この両者が重なった瞬間、ペンタトニックのドレミソラの音がすべて同時に和声として鳴っている。

 音楽理論に詳しい人にはいまさらな話だが、ペンタトニックをオクターブに転回していくと、ミ-ラ-レ-ソ-ドとなって、完全四度音程の積み重ねとなる(順序を逆にすれば、ド-ソ-レ-ラ-ミとなって、完全五度音程の積み重ねになる)。こういうのを四度和声とか四度堆積和声(quartal chord)と呼ぶ。

 西洋音楽はバロック以降近代まで、三度音程を和声の基礎にしてきた。この慣習を打ち破って初めて四度和声を体系的に使ったのは、(この手の話の常で諸説あるものの)エリック・サティの「星たちの息子」だと言われている。

この頃、(サティは)神秘主義的秘密結社<バラ十字会>に近づき、その主催者ペラダン作の舞台劇<星の息子>のために三つの<前奏曲>を作曲する。その神秘的な題名や献辞は、後年のメシアンの諸作をほうふつとさせる。またこの曲には四度和音の堆積の連結が各所でみられるが、シェーンベルクが<第一室内交響楽>でそれを用いる十数年前のことである。

(「西洋音楽史 印象派以後」柴田南雄)

In Satie's Le Fils des Etoiles (1891), we find radical innovations that surpass anything in Debussy's music. Here, for the first time in history, is a systematic use of chords made of stacked fourths moving in parallel motion, called planing. This music is atonal, without key, the first in history. 

("Satie, The First Modern", Larry J Solomon)

(拙訳)サティの「星の息子」には、ドビュッシーの音楽をあらゆる点で超える急進的な改革が見られる。この作品において史上初めて、四度の積み重ねから構成される和声の平行移動(planing)が体系的に用いられた。この曲は、調性のない史上初の無調音楽である。

 四度和声は三度和声と違って中心音がはっきりしない。互いに完全五度の関係にある音程が多数含まれているので、ソから見ればドがルート、レから見ればソがルート、ラから見ればレがルート、ミから見ればラがルートというように、どれをルートにしてもおかしくない音程関係になっている。

 だから、この譜面上では便宜的に C6(9) というコード名で表記しているが、こういう四度和声の場合 C というルート名にあまり意味はないのである。たとえば、D をルートと考えれば、D7sus4(9) とも解釈できるし、G をルートと考えれば G7sus4(9) とも解釈できる。

 次のコードは Csus4 と解釈できるが、この解釈にもあまり意味はない。機能和声の規則においては、sus4 は長三度に解決すべきものとされているが、この曲では Esus4 に平行移動しているからだ。この四度和声の平行移動という手法も、サティの「星たちの息子」で大々的に使われている手法だ。

 この曲はメロディだけ聴くと F メジャーだが、コード進行はまったく F メジャーの機能和声にしたがっておらず、調性感が曖昧になっている。このように調性感を曖昧にするのが四度和声の効果だ。

 教授に言わせると、細野さんの音楽には「HOSONO HOUSE」の頃から印象派の影響が感じられるそうだが、これほどはっきりサティの影響を感じさせる曲は、他にあまりないのではなかろうか。

 このサウンドトラックが作られたのは 1987 年で、「源氏物語」のサントラとほぼ同時期、「銀河鉄道の夜」と「omni Sight Seeing」の間ぐらいの時期である。この頃の細野さんが好んで聴いていた音楽について、本人のこんな証言がある。

それともう一つはね、そのころ僕はクラシックでボヘミアの音楽を聴き出して、チェコのスメタナとか、ドヴォルザークを聴いているときに、チェコの映画も見たんです。(中略)「SFX」には出てこなかったけど、「銀河鉄道」はもろにボヘミアの感覚で満たされていたんです。

そのきっかけは、やはりアンビエント・ミュージックだったんです。アンビエント・ミュージックのもう一つの効用は、雑然とした感覚をフラットにしてくれるんです。波風があるようなものを水平にしてくれるわけです、いい意味で。そうすると、わりと白紙状態になって何でも受け入れられる状況になってくる。それと同時に、すごく微妙な感覚も育ててくれるんですよね。微妙で繊細なちょっとした波が気になったりとか。そうすると、音楽の聴き方が徐々に変わってくるわけです。つまり、フラットな上に抑揚をつけていく、アクセントをつけていく準備が出来たんです。だから、クラシックも新鮮に聴こえてくるわけです。作曲家たちの微妙な感覚というのが伝わってきたんです。音楽だけじゃなくて感覚として伝わってきたんです。

例えばサティという人の感覚も、ダイレクトに伝わってくるんです。メッセージとして。時を超えて、やっと届いてくれる、時間差のあるタイムマシンのようなものです。そういう意味でスラブの方の音楽を聴き出しててん、例えばロシアの五人組とか、ゴルバチョフじゃなくて(笑)、チャイコフスキーの音楽なども楽しんで聴けるようになった。それまでは僕、わりとゲルマン的な半音階進行がハリウッドに伝わっていたような音楽に慣れ親しんでいて、スラブ民族主義的な音楽をもとにしたクラシックというのは、なれていなかったんですが、当時聴き出したら新鮮で、かなり深くのめり込んでいったんです。

(「THE ENDLESS TALKING」)

だから、この曲にサティの影響を見ても、それほど的外れではないんじゃないかと思う。

 だが、細野さんの偉大なところは、どんな音楽の影響を受けても、そこから生まれる作品は、借り物ではないちゃんと細野さんの作品になっているところである。それはトロピカル三部作の頃にチャンキー・ミュージックとか言ってニューオリンズやカリブや沖縄の音楽を融合した音楽を作っていた頃からずっとそうだった。

 あと、自分で譜面に起こして改めて感じたのは、細野さんの音楽はいい意味でシンプルだということ。シンプルでありながら豊かな響きがある。無駄に音数を増やして難しく見せようとするのではなく、最小限の音数で豊かな響きを表現しようとする、骨太な美学があるのだ。そのことを再認識した。

 私のいい加減なコピーでは物足らず、本物を聴いてみたくなった人はこちらをどうぞ。

NHK FMラジオドラマ「マージナル」サウンドトラック(ドラマ編)

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【Sinsy】「Ride Ride Ride」【ストリングス版】

 前回のピアノ弾き語りバージョンを利用して、「Ride Ride Ride」のストリングス・バージョンを作ってみた。

 この素晴らしいアレンジは、もちろん私が考えたものではなくて、教授が「戦場のメリークリスマス」のサウンド・トラックの中でやっているアレンジのコピーである。ほとんど完コピなので、知らないで聴くとサントラの音をそのまま使ってると思われるかもしれないが、あくまで演奏してるのはコンピュータで、歌ってるのもデビット・ボウイの弟の役の人ではなくて、Sinsy というコンピュータ・ソフトウェアである。お間違えなきよう。

 このアレンジは、小節ごとに二拍子になったり三拍子になったりするので、タイミングを合わせるのに結構苦労した。よくよく調べると、一拍ぐらいごまかしてるところがあるかも。

 こんな短い小品でも、打ち込んでみると、教授のアレンジの凄さが改めてよくわかる。エンディングの繊細な音の重ね方なんかは改めて言うまでもないが、この曲で言うと、何よりファミファドファミファドという16分音符のアルペジオを延々と続けるところがかっこいい。

 凡庸な(たとえば私のような)アレンジャーなら、こういうアルペジオを思いついたら、コード進行に合わせて音形を変えようと考えるだろう。しかし教授のアレンジでは、ほとんど最初から最後まで同じ音形で通している。そんなことをすると普通なら、コードによって不協和音が生じたりして音が汚くなる。でも教授のアレンジでは絶対にそんなことにならない。むしろ響きの色彩が豊かになる。最初から曲全体を見通して音形を選んでいるからだ。

 教授はこういう手法をよく使うのだが、ひょっとすると、教授の好きなスティーブ・ライヒなんかの影響もあるのかもしれない。こういう和声のモアレ縞のような効果を使いこなすのが本当にうまい人だ。

 おそらく、途中で一箇所だけ音形を変えているところがあって("through the night" の直後)、その部分は鳥肌が立つほど新鮮に感じる。それも、ずっと同じ音形を繰り返していたからこそだろう。

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「Ride Ride Ride」を Sinsy に歌わせてみた

 Sinsy に歌わせてみる企画の第二弾。前回は日本語だったので、今回は英語に挑戦。ということで、映画「戦場のメリークリスマス」の中で挿入歌として使われていた、Stephen John McCurdy 作詞作曲の「Ride Ride Ride」を歌わせてみた。

 アレンジは、教授が「Coda」というアルバムで弾いていたピアノバージョンの譜面を参考にして、その上にボーカルをのっけただけである。正直、ピアノの音色の仕上がりなどには今一つ満足していないが、一応それなりに聴ける出来にはなっていると思う。

 2 曲製作してみたら、Sinsy を使いこなすコツがわかってきたので、参考のために少しだけ紹介しよう。

 まず、Sinsy に歌わせようと思ったら、Sinsy が得意そうな曲を選んだほうがよい。Sinsy は声楽的な歌唱法を得意としているようなので、そういう歌唱法が生きる曲を選ぶことである。おそらく、パンクやニューウェーブはあまり向いていない。

 曲を選んだら、全トラックの打ち込みを完成させる前に、ボーカルトラックだけ作成して、Sinsy のサイトにアップロードして試聴してみた方がよいと思う。なぜなら、Sinsy は初音ミクのように後から「調教」したりできない一発勝負なので、この段階でボーカルトラックの出来が悪いと、後で改善されることは望み薄だからだ。

 あと覚えておくといいのは、Sinsy の場合、ウェブサイト上の試聴ではあまり美しく聴こえなくても、後でリバーブなどのエフェクトをかけるとかなり聴感が改善されるということ。おそらく、Sinsy を開発した人も、後でエフェクトをかけることを前提にして、わざと飾りのない加工しやすい音色にしていると思われる。

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「架空庭園の書」を Sinsy に歌わせてみた!

 なんか、こういう内容の記事にはこういうタイトルを付けるのが業界のベスト・プラクティスらしいので、素直に踏襲してみた。シェーンベルクの「架空庭園の書」の一曲目を  Sinsy に歌わせたものを YouTube にアップロードしてみたので、興味のある方はお聴きくださいませ。

 聴きどころの一つは、ボーカロイドもどきにシェーンベルクの無調曲を歌わせていること、もう一つは、シェーンベルクの歌曲をドイツ語でなく日本語で歌わせていることである。

 そもそもこの曲は noteflight のテスト用に打ち込んだもので、せっかくだからこのデータをネタに何かできないかと考えた。それで思い出したのが Sinsy という無料で使えるボーカロイドもどき。

 さいわいなことにシェーンベルクの著作権は数年前に切れているらしく、この曲をコンピュータとボーカロイドもどきで演奏させれば、YouTube にアップロードしても特に問題はなさそう。

 ただちょっと苦労したのは歌わせる歌詞。Sinsy が歌えるのは日本語と英語だけだが、原曲の歌詞はドイツ語。おそらく、歌詞自体を日本語に訳した人はいくらでもいるだろうが、日本語で歌った人はあまりいないんじゃないだろうか。でもせっかく Sinsy を使うんだから、ローマ字訛りの変なドイツ語でなく日本語で歌わせたい。でも既存の和訳を使ったんでは著作権がうるさい。

 というわけで苦肉の策で、ネット上にころがっていた英訳の歌詞を参考にしながら、自分でいい加減な日本語訳をでっちあげた。意味的な解釈より日本語としての音の美しさを重視したので、シェーンベルクやゲオルゲの専門家から見たら噴飯物の解釈かもしれない。まあ雰囲気ぐらいは伝わると思うので見逃してください。

 それにしても、こんなサウンドデータがほとんど無料のツールだけで作れてしまうことには、改めて感心した。実は私も二十代の頃には DTM に熱中したこともあったのだが、もちろん当時は、現在のように PC さえあれば OK なんて夢のような環境はなく、音源もエフェクタもミキサーも MTR もすべて単体で購入する必要があったし、値段も平均 10 万円ぐらいはした。

 もしあの当時の機器でこのデータを作るための環境を構築しようと思ったら、数十万円は確実にかかっただろう。今はそれが PC とフリーウェアだけでほとんど済んでしまう。いい時代になったものだ。

 Sinsy は予想以上によくできていた。噂に聞く初音ミク UTAU の「調教」みたいに、細かい調整をする必要もなく、MusicXML ファイルを一発で変換できて、それなりに抑揚のついた歌い方をしてくれる。MusicXML ファイルは、これも無料の Finale NotePad で作ったが、 フォルテ/ピアノ、クレシェンド/デクレシェンドなどの楽想記号を入力した以外、特に数値のエディットはしていない。

 MIDI データからピアノサウンドデータを生成する際には、これも無料の TiMidity++ を使い、さらにこれも無料の Audacity 上で Sinsy の吐き出したサウンドデータと合成し、さらに軽くリバーブもどきをかけて完成。実に簡単なものである。

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