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野見祐二の「ヘルベチカ・スタンダード」を Sinsy と CeVIO に歌わせてみた

 今回は、アニメ「日常」の中の「ヘルベチカ・スタンダード」というコーナーで BGM として使われている曲を、ボーカル・シンセサイザーの Sinsy CeVIO に歌わせてみた。CeVIO を使ったのは初めてだが、まあいわば Sinsy の親戚のようなものだ。同じ名古屋工業大学が開発にかかわっていてる。

 イントロのロゴのような部分を Sinsy 謡子さん、「ヘ・ル・ベ・チ・カ・ヘ・ル・ベ・チ・カ...」というドローンの部分を Sinsy 香鈴さん、「リーベー」というよくわからないコーラスの部分を CeVIO さとうささらさんに、それぞれ歌ってもらっている。

 作曲は知る人ぞ知る野見祐二氏である。かの坂本龍一氏に見出されて、氏の映画音楽を何作か手伝った他、スタジオ・ジブリのアニメ「耳をすませば」や「猫の恩返し」の音楽を担当したことで知られる。教授から「坂本経由のラヴェル」と評されたことがあるくらいで、印象派以降の作曲テクニックを華麗に使いこなす作曲家である。

 「ヘルベチカ・スタンダード」というのは箸休めのようなギャグのコーナーなので、この BGM もそれに合わせたコミカルな作風となっており、この小品だけで野見氏の作風を語るのもどうかと思うのだが、短いだけになおさら特徴が端的に現れているとも言えるので、例によって少し紹介してみたい。

 下の譜面は、後半の「リーベー」の部分から四小節だけ抜き出したものだ。前半二小節が一回目の繰り返し、後半二小節が二回目の繰り返しに対応している。解説しやすいように、動画中の楽譜とは調号を変えてあるが、弾いている音自体は同じものである。

 前半も後半も、基本になっているのは F# → F という半音単位の平行移動である。平行移動というのは普通、それだけでは調性的な機能は持たない。特にこの場合はダイアトニックコードではないので、部分的な転調のようになるだけだ。

 しかし前半では、その上のメロディがドローンのように E の音を鳴らし続けている。これをコードの構成音と見なすと、F#7 → FM7 という進行に変わる。F#7 ではわかりにくいので、Gb7 と言い換えると、これはジャズ理論で言うところのドミナント・セブンスの裏コードであることがわかる。つまり、単なる平行移動に音を一つ足すだけで、機能和声的なドミナント・モーションと解釈できるようになる。

 ところが後半になると、F# → F の部分の構成音はまったく同じまま、音が1個足されており、さらにメロディの音も変化していることがわかる。これらをコードの構成音と見なすと、今度は F#6 → FM9 という進行になっている。

 Gb7(F#7)がなぜドミナント・セブンス(この場合 C7)の代理と見なせるかというと、ドミナント・セブンスと同じトライトーン(この場合、Bb - E)が含まれているからである。ところが、F#6 には Bb は含まれているが、E が含まれていないので、これはドミナント・セブンスの代理コードとは見なせない。

 つまり、この前半と後半は、ほとんど同じような音の構成でありながら、機能和声的にはまったく異なる機能のコード進行になっているのである。こういう発想は、コード進行だけで考えていてはなかなか出てこない。

 こんなところにも、コード進行主体に考えるポップス系のアレンジャーとは異なる、野見さんの個性が現れていると言えるのではないかと思う。

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