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及川リンの「She Said」を Sinsy に歌わせてみた

 今回は、映画「下妻物語」の挿入歌として使われていた「She Said」という曲を Sinsy に歌わせてみた。作詞は及川リンさん、作曲は菅野よう子さん、オリジナルのボーカルも及川リンさんである。

 Sinsy に向いているのはオペラ・声楽的な歌唱法の曲だと考えていたので、これまではそういう曲ばかりを選んでカバーしてきたのだが、少しスタイルの違うボーカルに挑戦してみた。自分ではわりとうまくいったんじゃないかと思っているのだが、いかがであろうか。

 実は菅野よう子さんの曲をアナリーゼしたのは初めてで、テンションをベースとする分数コードとか、ドミナント・マイナー/サブドミナント・マイナーとか、ポピュラー・アレンジの教科書に出てくるようなテクニックがきれいに使われていて非常に勉強になった。

 たとえば、"There was no one..." というフレーズの部分を譜面に起こすと、下のようになる(耳コピなので間違っていたらごめん)。

 ご覧の通り、Gm → A7 → Fm → G というコード進行である。メロディのキーは C メジャーだから、音階上のコードで書くと Vm → VI7 → IVm → V という進行になる。この Vm、VI7、IVm はすべてディアトニックコードではなく、C メジャーのスケールにない音が入っている。

 たとえば、このメジャーとマイナーを一部逆にした VIm → IV → V という進行であれば、ポップスでは非常にポピュラーな進行で、50 年代に多用されたので 50 年代進行などとも呼ばれる。さらに、IV を IIm に置き換えると、VIm → IIm → V という、いわゆるツー・ファイブを含む 5 度下降進行になる。微妙に違うが、VI → II → V というのも、ジャズ系の本にはよく出てくる。これはドミナント・モーションの連続で、II がドッペル・ドミナント、VI がさらにそのセカンダリー・ドミナントということになる。

 だから、この曲もそういうポピュラーなコード進行の変形と見なせるとは思うのだが、そこで代理コードとしてサブドミナント・マイナーの IVm やドミナント・マイナーの Vm を使っている例は、現在のポップスでもそれほど多くはない。

 ポップスの曲をコード進行で検索できる便利なサイトがあるので、試しに調べてみたのが、ドミナント・マイナーの Vm、Vm7 の使われている曲はデータベース全体の 0.3%、0.1%、サブドミナント・マイナーの IVm が使われている曲でもデータベース全体の 0.4% しかない。

HookTheory.jpg

この曲のこの部分とまったく同じコード進行を持つ曲にいたっては、(キーを移調したとしても)1 曲も見つからなかった。だから、少なくともポップスにおいては、あまり多くないコード進行だということは言えるだろう。

HookTheory-Vm.jpgHookTheory-Vm7.jpg

 下図に示すように、そもそもサブドミナント・マイナーからドミナントという進行の曲が自体が極めて少ない。

HookTheory-IVm-V.jpgHookTheory-IVm-V7.jpg

 それでも、部分的にでも似たコード進行の曲はないかと探してみたら、1 曲だけ見つかった。それはかのビートルズの「Strawberry Fields Forever」である。

 この曲は、キーが A メジャーで、冒頭のコード進行が A → Em7 → F#7 → D → F#7 → DM7 → A となっている。これを音階上のコードに直すと、I → Vm7 → VI7 → IV → VI7 → IVmaj7 → I になるから、少なくとも途中まではかなり似ている。

 この進行がいかに似ているかが直感的にわかるように、「Strawberry Fields Forever」を「She Said」と同じキーに移調して、「She Said」と同じようなピアノの伴奏に合わせたものを作ってみたので、試しに聴いてみてほしい。

大きな違いは、サブドミナント・マイナーの Fm/Ab がサブドミナントの F/A になっているところ、そして、最後がドミナントの G ではなくトニックの C/G で終わっているところである。しかし、途中までの感じはかなり似ていることがわかるだろう。

 先ほど、ドミナント・マイナーやサブドミナント・マイナーを多用しているポップスの曲は少ないと書いたが、その数少ない例の多くが、実はビートルズの曲なのだ。だから、菅野さんはビートルズの開拓した技巧的なポップスの継承者の一人と言えるだろう。

HookTheory-IVm.jpg

 さらに菅野さんのアレンジの見事なところは、ただ技巧的なコード進行を使っているだけでなく、その結果として、横のラインがきれいな半音階進行になっているところである。技巧のための技巧ではないのだ。そういう意味で、菅野さんの曲を分析することは、私のようなポピュラー・アレンジを志す素人にとっては学ぶところ大である。

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