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「K-19」感想

K-19 [DVD]  原子炉が故障して冷却できなくなって悪戦苦闘するという話は、昨年以来さんざん聞かされたけれど、冷戦時代のソビエトの原子力潜水艦でも同じような事故が起こっていて、それを映画化した作品。ネット上のレビューを見ると、思ったより評価が低いみたいだけど、私はわりと気に入った。

 お前はそんなところしか見てないのかといわれそうだけど、一番面白かったのは、やっぱりカメラワーク。おそらく潜水艦内の狭さを表現するためだろう。徹底してアップで撮影している。それもテレビドラマでよくあるような、遠くから撮ってズームアップしているのではなく、本当のクローズアップ。

 そのことは、被写界深度とか画角とかを見ればわかる。ピントの合っている人物のすぐ後ろの人物にもうピントが合ってなかったりするのは、被写界深度が浅い証拠。だからこそ本当に狭苦しい感じが表現されるわけだ。

 そのおかげで、逃げ場のない処に放射能が襲ってくる恐怖とか、狭い閉鎖空間の中で揉め事が起こったときの集団内の緊張の高まりとかが、うまく表現されていたと思う。

 クローズアップと口で言うのは簡単だけど、実際の撮影はなかなか大変だっただろうと思う。昔あるカメラマンの人に、「トレンディドラマの登場人物って、なんでみんなあんなに広い部屋に住んでるの?」って聞いたことがあるんだけど、主にカメラワークの都合だそうだ。狭い部屋の中でカメラを引き回しても制約がありすぎるから、広いセットで撮影してズームアップするのだとか。

 それ以外にもクレーンや空撮も多用していて、カメラワークに凝る監督だなあという印象を受けた。そういうこだわりは嫌いじゃない。

 確かに娯楽作品として考えると、ドラマが単調なところはあるんだけど、この題材ならあれでよかったんじゃないかと思う。もちろん無理に盛り上げようとすればいろいろ考えられる。決死隊の連中のキャラクターをもっと掘り下げて泣けるようにするとか。でも、この題材でそれをやると、かえってウソ臭く薄っぺらになるのがオチじゃないかな。

 とは言っても、まったく人間ドラマがないとさすがに持たないだろう、ということで導入されたのがハリソン・フォードとリーアム・ニーソンの対立関係なんだろうね。でもこれも娯楽作品にありがちなパターンなら、ハリソン・フォードは完全に悪人役、リーアム・ニーソンは完全に善人役で、ニーソンがフォードをやっつけて問題解決してメデタシメデタシになるところ。でも、そうしなかったところがよかったと思う。

 この映画にはわかりやすい教訓みたいなものはない。そのへんがすっきりした解決を好む若者には不満だったりするんだろうけど、私ぐらいの年になると、世の中すっきりしないことだらけだと身にしみているので、こういう話の方がリアリティを感じてしまったりする。まあ単に老化現象なのかもしれないが。

蛇足1: テストミサイルの発射に成功した後でフォードとニーソンが喧嘩するシーンで、ニーソンは、

"I hope l'm on another boat when your luck runs out."

直訳:あなたの運が尽きたときには別の船に乗っていることを祈るよ。

と言ってるんだけど、DVD 字幕では「ツキの落ちる日が怖い」になっている。この訳はちょっとマズイのではないか? というのも、この台詞はたぶん、最後の方でフォードが査問にかけられるシーンのニーソンの台詞、

"And it would be an honor to sail under his command again."

直訳:もう一度彼の指揮のもとで航海できれば光栄です。

の伏線になってるんだと思うのね。だから本来ならそれがわかるように訳さないといけないと思う。まあ、字数制限とかいろいろ大変だとは思うが。

蛇足2: 決死隊の第一陣が原子炉に突入する際に、ハリソン・フォードが "May God be with you!" (字幕では「神の力を」)と言うシーンがちょっとひっかかった。なぜかというと、冷戦期のソ連は公式には宗教を禁じていたはずで、実際この映画の中にも「religious icon はご法度だぞ」みたいな台詞が出てくるからだ。それなのに、フォードがこういう台詞を口にしたのには、二通りの解釈が考えられる。一つは、このフレーズ自体は、アメリカでは必ずしも宗教と関係なく慣用句的に使われることもあるので、脚本家がついうっかり書いてしまった、というもの。もう一つは、筋金入りの共産党員であるはずのフォードも、この状況では神に頼らずにいられなかった、というもの。英語圏のいろんなレビューを見ると、後者の解釈が多いようだ。

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