« 深川は大都市だよ | トップページ | コメントしないという美学 »

極私的ガキ使トークベスト

 松本人志大文化祭を記念して。

 今だから言えるが、震災後一時精神のバランスがおかしくなりかけた時期があった。連日のように津波や原発の悲惨な映像を見続け、真偽不明の雑多な情報を収集し続けたせいだ。

 このままではやばい、と感じたときにやったのが、ガキの使いの DVD を借りてきて片っ端から観る事だった。効果はてきめん。松ちゃんの飛躍した笑いの世界は、過剰な現実に溺れかけていた脳をリセットし、精神の平衡感覚を取り戻すのに最適だった。

 そのとき作ったトーク作品データベースを元に、ガキ使トークのベスト 10 を挙げてみる。


番外 ゴリラとおっさん

 これは、ネタ自体は単純で、喋ったのはゴリラかおっさんか、というだけの話なんだけど、客の読みをはずす方向をイジるだけで、あれだけの爆笑をとれるダウンタウンの技術に戦慄させられる。よく剣豪物とかで、弱いと思ったらハンデ付きで戦っていたことがわかって、本気を出したらどれだけ強いか想像して恐怖するみたいな話があるけど、そういう感じ。ちなみに、去年の M-1 でパンクブーブーがやったネタは、おそらくこのトークをヒントにしたんじゃないかと思うんだけど、違ったらゴメン。 

10.懸賞の車のカギ(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!11」収録)

 ガキ使トーク自体に対するアンチテーゼと言うべきネタ。当たり前のことを喋ってるだけなのに、こんなに笑えるという事実自体がまたおかしい。一回しか使えない手だが。 

9.巨大竜巻の中心は?(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!11」収録)

 松ちゃんはよく「絵が浮かぶ」ことの重要性を強調するのだが、このネタも、理由はよくわからないけど絵を思い浮かべると何故か笑ってしまうという系統のネタ。こういう奇怪なイメージは松っちゃんの独壇場だろう。 意識より無意識に訴えかけてくるタイプの笑いである。

8.分別ゴミの秘処理(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!13」収録)

 分別ゴミの処理方法は?という問いに対して、まとめて燃やしてますと言うだけの、はちゃめちゃナンセンス系のネタ。質問のマジメさと回答のハチャメチャさの落差の大きさに笑ってしまう。

7.電化製品は神頼み(収録 DVD 不明)

 電化製品はすべて神頼みで動作しているという、はちゃめちゃナンセンス系のネタ。思いっきり無茶な設定をしておいて、その設定に力技で強引にリアリティを持たせ、落差で笑わせるというのも松ちゃんの得意技だが、「神頼み」というのは無茶の度合いが桁違い((c)スチャダラパー)なのでその分笑いのインパクトも大きい。

6.松本流ドーピング対策(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 9 」収録)

 ドーピング検査にひっかからない方法は?という問いに対して、ゴリ押しで無視すればよいと言うだけの、はちゃめちゃナンセンス系のネタ。このネタが好きなのは、はちゃめちゃなんだけど、世の中意外とこういう風に動いているよな、と感じさせる変なリアリティがあること。ぼくなんかは、このトークを観ていると、憎まれっ子世にはばかるを地で行く某アルファブロガー(内田樹に非ず。内田の論敵の方)が「ノンノンノンノン」と言ってる図を思い浮かべてしまう。

5.松本激怒!?(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで !! 4 」収録)

 怒りを笑いに変えるという、松ちゃん得意の芸風の代表作。松ちゃんの怒り芸の特徴は、単純な相手を批判するだけではなくて、怒っている自分自身をも笑う一歩引いた視点があること。このトークでも、相手の反応に呆れて「はっはっはっはっは」と笑って見せるあたりとか、「子供がいるかもしれないぞ」あたりの芸が絶妙である。

4.「ドンマイ」を最後に使ったシチュエーション(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!13」収録)

 これは多分、先にオチを考えてから、逆算して前フリを考えたパターンだと思うが、その場で瞬間的に考えたとは思えないほど構成が見事。松っちゃんは発想ばかりが注目されがちだが、実は構成力も半端じゃないことがよくわかるトーク。

3.宇宙刑事(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで !! 4 」収録)

 SF・ファンタジー系の話を日常のあるあるネタで落とすのも松ちゃんの得意技の一つだが、このトークのすごいところは、アドリブだけで話を転がしていって、最後の最後にまるで台本があるかのような大オチをひねり出しているところである。このトークの唯一の穴は、途中でナスターシャがフランス人だと言ってしまったところだが、そんな瑕瑾など忘れさせるほどオチが決まっている。

2.道にワカメが…その謎深き理由(「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで !! 5 」収録)

 初期のシュール系のトークではこれが一番完成度が高いと思う。何か正体不明の対象について、思わせぶりにディティールの描写を積み重ねていくというのは、以降松っちゃんがたびたび使う手法となるのだが、その芸はこの時点でほとんど完成していることがわかる。思わせぶりでさんざん引っ張った末に、最後にちゃぶ台返しして落とすタイミングが絶妙。

1.悪魔の靴(収録 DVD 不明)

 これも SF・ファンタジー系の話を日常のあるあるネタで落とすパターンだが、オチの完成度が桁違い。悪魔の靴の先が丸まっている理由は? という問いに対する答なのだが、「悪魔はものすごく悪いから」という理由付けにちゃんと筋が通っている上に、その理由付けと悪魔の悪行のセコさから来るおかしさが自然に結びついている。こんなネタをアドリブで生み出すのは、天才だけが成し得る奇跡の技としか言いようがない。

次点:「ボケとツッコミ」、「絶対笑わない男 松本」、「浜田がしたいいこと」、「「山はいいなあ~」登山グッズ購入法」など


 自分が昔好きだった作品を後で鑑賞し直すと、記憶が美化されていることに気づいてがっかりすることも多いのだが、ガキ使のトークに関してはそれはほとんどなかった。

 リアルタイムで観ていたときには、若い頃のダウンタウンは切れ切れだったのに、歳をとるにつれ次第に切れ味が落ちていったようなイメージがあったのだが、見直してみたら、必ずしもそうではなかった。

 むしろ若い頃のダウンタウンは、才能は突出しているものの芸には荒削りなところが残っていて、歳をとるにつれて芸の完成度が増していることがわかる。実際のトーク芸のピークは 40 歳前後だったのではないか。

 おそらく、リアルタイムで切れ味が落ちたように感じたのは、観客の側が松ちゃんの発想法に慣れて来て、贅沢な期待をするようになったせいだったのだろう。

 MHK に関しても、小田嶋氏をはじめ評価が辛い人が多いみたいだけど、ぼくはそう簡単に判断できないと思っている。松ちゃんの作品は、初見ではつまらなくても、後からじわじわ面白くなったり、何年もたってから見直したらやっぱり面白かったりすることが多いからだ。

(まあ、ぼくは最近むしろ、小田嶋氏の鑑識眼に眉唾をつけはじめているので、あまり影響はされないが。こないだのとってつけたような TPP 批判とかもひどかったし、いまだに内田樹のインチキさが見抜けないのも問題。王様は裸だといいたいなら、まず内田に言ったらどうなんだ。)

 ファインアートに対してはそういう態度をとる人でも、お笑いに対しては一回見てつまらないものはつまらないと簡単に判断してしまうのは、単にお笑いに対する偏見だろうと思う。

 ぼくはたとえば、現代音楽について、自分で理解できないというだけの理由で頭でっかちの自己満足だとか言って貶す人を信用しないし、逆に、アカデミックに評価されているというだけの理由で評価する人も信用しない。このへんの態度は、批評という営みの根幹に関わることだと思っている。

 まあこのへんの話については、簡単には書きつくせないので、またの機会に。

|

« 深川は大都市だよ | トップページ | コメントしないという美学 »

テレビ」カテゴリの記事

文化・芸術」カテゴリの記事

芸能・アイドル」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/67762/53171822

この記事へのトラックバック一覧です: 極私的ガキ使トークベスト:

« 深川は大都市だよ | トップページ | コメントしないという美学 »