「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(まとめ)
- 「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(目次のみ)
- to be continued...
- 「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第8章)
- 「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第9章)
- 「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第10章)
- to be continued...
この翻訳はとてもではないが質が高いとは言い難い。全体が直訳調で読み辛いし、直訳なら直訳でその分正確ならまだ許せるが、致命的な誤訳も細部のタイポも山のようにあるのでは、どこを褒めていいのかわからない。
特に、「1ゲーム当たりの得点」のくだりはひどくて、「1ゲーム当たりの得点」を使って「1ゲーム当たりの得点」を推定する、みたいな文章が出てくるにいたっては絶句するしかない。
また、前後の文が互いに矛盾していたり、前後の章で正反対の事が書いてあったりして、英語力などなくても日本語さえ読めれば間違っていることがわかる部分も多々ある。こういうのは、能力の問題というより、純粋に職業倫理の問題じゃないかと思うのだが。
(私だってたいした能力があるわけではないから、翻訳中に理解できない文章に出会うことはよくある。そのときは当然わかるまで調べるのだ。検索しまくったり、安くない資料を買い込んだり。それでもわからなければ書いた本人に聞いたり。金を取る以上はそんなのは当然だろう。だから、こういう明らかな矛盾を放置したまま出版できる神経というのは、正直理解できないし理解したくもない。しかも出版翻訳は実務翻訳に比べて時間の余裕があるはずなのである。私は両方に関わった経験があるから、そのぐらいは知っているのだ。)
細かい処まで修正していてはキリがないので、目立つ処だけに限定したが、それでもこの量である。正直言って、もし私がこの翻訳のレビューアーだったら、頭から全部の文に手を入れていただろう。そのぐらいの水準である。
日本人には馴染みのない大リーグ事情を紹介したコラムを挿入するなど、編集の仕事には評価できるところもあるのだが、そんな余裕があるなら、なぜ翻訳自体の質の向上にもっと力を注げなかったのだろうか。
ネット上で原書が難解だと言っている人を見かけたが、はっきり言って、原書は難解でもなんでもない。むしろ素人向けにわかりやすく書かれた啓蒙書である。野球には詳しいが数学が苦手な人が訳したのかとも思ったが、訳者のプロフィールを見ると、必ずしもそういう話でもないようだ。
こういう欠陥商品を平気で市場に流通させてしまうアカデミズムの仕組みには謎が多いが、そんな裏事情など別に興味もないし、勝手にやってろとしか思わない。 まさか大学の先生がここまで理解力がないとは考えられないので、他人に訳させて自分ではロクに目も通さずに名前だけ貸してるといったところなのだろうが。
きっと、大学教授や博士号の肩書きというのは、デタラメな仕事をして堂々と金をとってもよいという許可証みたいなものなのだろう。日頃、ささいなミスでクライアントに責められたり、金すら貰えずに逃げられたりしながら、あくせくしている私たちから見ると、なんともいいご身分である。大学教授様がお訳しあそばされたのだから、下々の者は文句を言わずにありがたく受け取れというわけだ。
でも、こういう欠陥商品を買わされて「金返せ!」と憤っていても、原書を読む能力やお金のない可愛そうな人もいるはずなので、そういう人が、この記事を読んで少しでも損害を取り戻せた気になってくれれば幸いである。
訳書を読んだけど難しくてよくわからなかったという人、心配御無用。あなたのせいじゃない。こんなもの理解できなくて当然。だって間違ったことばかり書いてあるんだから。
以後、他の章の誤訳も順次指摘していく予定だが、なにぶん仕事の合間にやっていることなので、いつ完成するか確約することはできない。気長にお待ちください。
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