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「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第9章)

  • 原文:We admit to being bothered by some of them ourselves.
    • 元訳:それらのいくつかは私たち自身を悩ますものでもある.
    • 拙訳:その一部については,筆者たち自身も問題だと思っていることを認めよう.
    • 解説:こういう we を「私たち」と訳してしまうと、筆者なのか、筆者および読者なのか、人類全体なのかわかりずらいので、限定した方がよい(これは日本語と英語の代名詞の使い方の差による)。ピーター・ギャモンの提示した問題の一部については、筆者たち自身も同意している、という意味。
  • 原文:It reminded us, of course, of a favorite player, Roberto Alomar, who slides into first instead of running thorough the base.
    • 元訳:もちろん私たちが心に思い浮かべる人気選手のロベルト・アロマーも一塁を駆け抜ける代わりにスライディングする選手である.
    • 拙訳:この項目が、筆者たちお気に入りの選手の一人であるロベルト・アロマーを思い出させるのは言うまでもない.彼も一塁ベースを駆け抜けずに滑り込む選手だ.
    • 解説:「私たち」については同上。"It remided" の it も具体的に訳さないとわかりずらい。こういうふうに代名詞を具体名詞に置き換えるのは英和翻訳の基本テクニックで、たいていの翻訳本に載っているはずなのだが。
  • 原文:Here are the relevant items from the list (with our emphasis added):
    • 元訳:ここにリストに関連する項目を示す(私たちの強調点も含む):
    • 拙訳:関連するリスト中の項目は以下の通り(太字強調は筆者):
    • 解説:"with our emphasis added" というのは、日本語の「傍点筆者」と一緒で、引用元にはなかった太字(原文ではイタリック)を引用者が追加したという意味だろう。「リストに」の助詞の選択も変。
  • 原文:(In the third item, the unnamed general manager is suggesting that the pitching team "pay" for the intentional pass by having all base-runners advance, even then they are not forced.)
    • 元訳:(3つ目の項目で,ある名前を書けない GM は,敬遠をすることによって,たとえ塁が詰まっていなくても全ての走者が1つずつ進塁する(例えば,2アウト三塁で敬遠すると,三塁走者がホームインする)ようにして,投手陣が「代償を払う」べきだと提案している).
    • 拙訳:(3番目の項目のなかで,その匿名の GM は、投手側のチームは敬遠の「代償」として,塁が埋まっていなくても全走者の進塁を認めるべきだ、と提案している.)
    • 解説:"the unnamed general manager"は、引用元の記事に出てくる "One National League GM" のことなので、それがわかるように訳すべき。わざわざ定冠詞がついているのに、なぜ「ある」にしてしまったのか。
  • 原文:We can summarize the run distributions by the expected runs or run potential table shown in Table 1-9
    • 元訳:表1-9に示したような期待される得点もしくは得点見込みといった視点から得点分布をまとめることができる.
    • 拙訳:この得点分布は,表1-9の得点期待値表(または得点見込み表)に要約することができる.
    • 解説:"the run distributions" は定冠詞がついているのだから、限定詞をつけて得点分布一般ではないことを明示するべき。第 7 章に出てきたリンゼイの得点分布を整理するとこうなる、ということ。"table" が訳抜け(それとも、なぜか "table" を「視点」と解釈したのかも)。
  • 原文:So, on average, the team will score about four-fifths of a run in the reminder of the inning.
    • 元訳:つまり平均的にはこのイニングの残りで得点する確率は約5分の4である.
    • 拙訳:つまり平均すると,このチームはイニングが終わるまでに約5分の4点を得点することになる.
    • 解説:「確率」に当たる言葉はどこにもない。実際ここで言及しているのは、得点「確率」ではなく「期待値」である。この章ではわざわざ期待値と確率を分けて論じているのだから、この違いは大きいのだ。
  • 原文:(This reminds us of a lyric from the Kenny Rogers song The Gambler - "You got to know when to hold 'em...")
    • 元訳:(これはケニー・ロジャースの「ギャンブラー」という歌の一節を思い起こさせる.-「それをいつ掴むかを知っておかねばならない…」)
    • 拙訳:(このことは,ケニー・ロジャースの「ギャンブラー」という歌の歌詞を思い出させる.「いつ突っ張るかを知らねばならぬ…」)
    • 解説:「ギャンブラー」という題の歌なんだから、この hold は当然ポーカー用語の「ホールド」だろう。そのぐらい気づけよ。
  • 原文:In Game 4, there was no shortage of drama and surprise.
    • 元訳:第4戦は,劇的な状況と驚嘆が飽き足らないゲームとなった.
    • 拙訳:第4戦は,ドラマや意外性に不足しない試合となった.
    • 解説:おいおい。飽き足らないと不足しないじゃ正反対じゃないか。驚嘆「が」という助詞の選択も変だし。
  • 原文:The evidence seems overwhelming - it must have made sense to walk Bonds.
    • 元訳:証拠は計り知れないように思われる.つまりボンズを歩かせることは意味を成したに違いなかったのである.
    • 拙訳:ボンズを歩かせるのは当然だと思えたに違いない.その証拠は動かしがたく見える。
    • 解説:「証拠は計り知れない」では日本語として意味不明。「意味を成したに違いなかった」では、ボンズを歩かせたのには実際意味があったことになり、後の記述と矛盾する。この "have made sense" は「意味があると思えた」だろう。
  • 原文:The second comment is that the sacrifice bunt is a more effective strategy in situations when a single run has a significant effect on the probability that the team win the game.
    • 元訳:第2のコメントは,1点を取ることによりチームがゲームに勝つ確率が有意に上がる場合において,犠牲バントがより効果的な戦略になるということである.
    • 拙訳:2番目の注意は,犠牲バントがより効果的な戦略になるのは,1点をとることがチームの勝率に著しい影響を与える場合だということだ.
    • 解説:この訳者は significant をなんとかの一つ覚えみたいに「有意」と訳しているけれど、significiant には統計学用語としての「有意」という意味と、日常用語としての「著しい」という意味があって、この両者は全然違うから文脈によって使い分けなくちゃいけない。この場合なんかも明らかに「有意」ではおかしい。だって、1点を取ったら勝率は有意に上がるに決まってるでしょ。たとえ点差が 30 対 0 だったとしても、同じ状況で 1 兆回(それでも足りなきゃ 1 京回)ぐらいシミュレーションすれば勝率に有意差は出るでしょうよ。じゃなくて、30 対 0 の 9 回裏に 1 点とっても焼け石に水だけど、1 対 0 の 9 回裏に 1 点とったら勝率は大幅に上がるよね、ということを言っているわけ。

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