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「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(第10章)

  • 原文:In trying to define which of these should be called a "clutch situation" (an admittedly vague term), we've come up with these criteria:
    • 元訳:これらの状況のうちどれが「勝負を決める状況(clutch situation)」(非常にわかりやすい明確な言葉であるが)と呼ばれるべきかを定義しようとするに当たって,私たちは次のような基準を提案する.
    • 拙訳:このうちのどれを「勝負を左右する状況」(これが曖昧な用語であることは認める)と呼ぶべきかを定義しようと試みる過程で,筆者たちは以下のような基準を見出した:
    • 解説:"an admittedly vague term" をなぜ正反対に訳したのだろう。はっきり言ってまったく理由がわからない。
  • 原文:If we pick a player and say that he hits in the clutch, what exactly do we mean?
    • 元訳:もし私たちが選手を1人選び,勝負を決めるときにその選手がヒットを打つと言うとすると,それは正確には何を意味するのだろうか.
    • 拙訳:私たちが特定の選手を指して「彼は勝負強い打者だ」と言うとき,正確には何を意味しているのだろうか。
    • 解説:「選手を1人選び,勝負を決めるときにその選手がヒットを打つと言う」って、お前は預言者か。英語の動詞の現在形というのは、主語の決まった属性を表す形容詞に近い使われ方をするので、それを知らないとこういう変な訳になる。"he hits..." というのは、「彼は…という状況でよく打つ」というような意味であって、過去にヒットを打ったとか未来に打つだろうとかいうことではない。
  • 原文:Do we mean that he hits better when runners are on base? When the score is close? When runners are on and there are two outs?
    • 元訳:私たちは走者が塁にいる時,得点差が少ない時,あるいは走者がいて2アウトの時の方が選手はより良いヒットを打つと考えているのだろうか?
    • 拙訳:その選手は走者がいるときによく打つという意味だろうか。それとも点差が少ないとき、もしくは2アウトで走者がいるときによく打つという意味だろうか。
    • 解説:この he は上の文で選ばれた "a player" のことなんだから、それとわかるように訳すべき。でなきゃ、あらゆる選手がチャンスに強いという意味にとれてしまうではないか。「より良いヒット」も意味不明。だいたい「より良いヒット」だったら "better hits" だろう。"When..." を複数並べているのは、A・B・C のどれが正しいかという問いかけだが、元訳のように「あるいは」でつないでしまったのでは、A・B・C のどの状況でも選手はヒットを打つ、という逆の意味になってしまう。
  • 原文:Since he had no walks, and sacrifice flies are included among opportunities for getting on base, Carter's on-base percentage (7/28 = .250) was actually lower than his batting average.
    • 元訳:四球はなく,また犠牲フライも塁に出た回数に含まれるので,カーターの出塁率(7/28 = .250)は彼の打率よりも実際には低かった.
    • 拙訳:カーターには四球はなく,犠牲フライは出塁機会に含まれるので,実際にはカーターの出塁率(7/28 = .250)は打率より低かった.
    • 解説:"opportunities for getting on base" は「塁に出た回数」ではなく「出塁機会」である。これもある意味正反対の訳で、少しでも意味を考えて訳していれば間違えようがない。前の文には、打数が 25 で犠牲フライが 3 だとちゃんと書いてあるし、犠牲フライを出塁に入れたら、出塁率は下がるどころか上がるに決まってるではないか。
  • 原文:These values (presented in Table 7-7) are the average or expected number of runs for each hit after the frequencies of all game situations have been considered.
    • 元訳:これらの値(表7-7で示されている)は,打率または全てのゲーム状況の頻度を考慮した上でのそれぞれのヒットから得られる予想得点数である.
    • 拙訳:(表7-7に示されている)これらの値は,試合中のあらゆる状況の頻度を考慮して求めた、各安打の平均得点数または得点期待値である.
    • 解説:"the average" を「打率」と解釈して、"expected number of ..." 以下と等価と見なしたらしいけど、これは、(the (average or expected) number) という構文である(こういうのは定冠詞の位置を見ればだいたいわかる) 。「平均値または期待値」という意味。
  • 原文:This expectation is derived from the probabilities of scoring different numbers of runs.
    • 元訳:この期待値はいろいろな得点を挙げる可能性からひきだされる.
    • 拙訳:この期待値は,さまざまな点数の得点確率から求められる.
    • 解説:なんかずいぶん茫漠とした訳になっている。probabilities には確かに日常用語としての「可能性」という意味もあるが、この場合ははっきり数学用語としての「確率」である。
  • 原文:To see that we have actually accomplished this, let's examine an alternate- or parallel-universe batting performance for Joe Carter.
    • 元訳:実際にこれが達成されたことを見るため,ジョー・カーターのもう1つの,あるいは別世界(parallel-universe)での打撃成績を見てみることにしよう.
    • 拙訳:この目標を実現できたかどうか確認するため,ジョー・カーターのパラレル・ワールド(もしくは二次創作)における打撃成績を調べてみよう.
    • 解説:alternate-universe というのは、日本ではコミケとかでよくある「二次創作の世界」のことであり、 parallel-universe というのは、SF に出てくる「パラレル・ワールド」のこと。ここは著者が茶目っ気を出して読者のオタク心をくすぐってる部分なのだろうから、ちゃんとそれっぽく訳してあげよう。
  • 原文:The alternate performance in Table 10-10 is one that Phillies' fans wish had actually occurred.
    • 元訳:表10-10に示されたもう1つの結果はフィリーズのファンの願いを現実に移したものである.
    • 拙訳:代わりとなる表10-10の結果は,フィリーズのファンが「実際にこうだったらよかったのになあ」と思っている結果だ.
    • 解説:細かいことを言うようだが、これは著者が勝手にでっちあげた成績であって、「現実に移して」はいない。これをわざわざ指摘したのは、この訳者はどうも仮定法過去完了を知らないフシがあるからだ。原文には「現実」に当たる言葉はないので、actually を無理矢理そう解釈したっぽい。あと、この wish は動詞で "Phillies' fans wish (that) one had actually occured" という節の one が関係代名詞 that になって前に出た形の構文なのだが、この訳者は "Phillies' fans wish" という名詞として解釈してるっぽい。(その解釈が正しければ、fans ではなく fans' になってるはず)。これは非常にありがちな間違いで、確か伊藤和夫先生の「英文解釈教室」にも出てたはず。
  • 原文:In fact, if PWA is truly supposed to evaluate clutch performance, it could be argued that player B should be rated higher than Player A, since his results were achieved more critical circumstances.
    • 元訳:事実,もし選手の勝率が本当に勝負どころでの実績を評価すると想定されているならば,選手Bは選手Aより高く評価されるべきである.というのもより勝負を決める場面において彼の結果が達成されたからである.
    • 拙訳:実際,もし PWA が本当に勝負どころでの実績を評価するためのものならば,選手 B の実績の方がより決定的な場面で達成されているのだから,選手 B の PWA の方が選手 A よりも高くてしかるべき,とも言えるはずだ.
    • 解説:これも、どこが決定的に間違っているとは言いにくいけれど、全体として支離滅裂で何が言いたいのかよくわからない訳になっている。言いたいのは要するにこういうことだ。「選手の勝率」も「1ゲーム当たりの得点」ほどではないけれど、日常用語に近すぎてあまりいい訳語とは思わない。まあ、野球は団体競技なので、普通の文脈で「選手の勝率」という言葉が使われることはないので(あ、そんなことないや。投手の勝率という言葉がある)、区別がつくと言えばつくのだけれど。英語の場合、日常用語をそのまま専門用語にしても、頭文字を大文字にして区別したりできるのだけれど、日本語では無理なので、こういうのは、日常用語とはっきり区別のつく漢語の造語を作るか、それが無理ならカタカナや頭文字のままにしておく方が無難だと思う。
  • 原文:This presents some rationale for rating Player A higher than Player B.
    • 元訳:これは選手Bより選手Aの方が高い選手の勝率を出していることに対する論理的根拠を示す.
    • 拙訳:これは,選手 A を選手 B より高く評価することに多少の正当性を与える.
    • 解説:これも文脈を考えるとかなり変な訳。そもそも PWA の計算式はわかっているわけだから、「論理的」になぜ A の方が B より高くなるかはわかりきったことで、ここで問題にしているのは、それが選手の評価として合理的・正当なのか、ということ。論理だけじゃなく価値の問題。
  • 原文:Apparently, the Mills's intent was to construct PWA as a ratio of accumulated achievement (Win Points) devided by accumulated opportunity (total points) as a parallel to batting average (which does the same thing in terms of hits and at-bats).
    • 元訳:明らかにミルズ兄弟の意図は,打率に匹敵するものとして,与えられた機会(全ポイント数)に対してどう貢献できたか(勝ちポイント数)を測る比率として選手の勝率を作ることであった(打率は打数に対するヒット数として同じことをしている).
    • 拙訳:ミルズ兄弟の意図は明らかに,PWA を打率と同じように,実績の合計(勝ちポイント数)を機会の合計(全ポイント数)で割った比率として構成することだった(打率では同じことを安打と打数でやっている).
    • 解説:これも間違いとは言いにくいが、とんでもなくまわりくどい。まわりくどい訳は他にも山のようにあって、いちいち槍玉に挙げていてはキリがないので、極端な例だけど挙げている。devide を「測る」にしているみたいだけど、素直に「割る」でいいだろう。
  • 原文:However, in the Mills's system, when a player comes to bat, the possibility exists of getting Loss Points or Win Points. So in each play, the player can be rewarded or penalized. Net Points provides a measure of the accumulated net contribution to victory. For this reason, there is no need to resort to a ratio such as PWA.
    • 元訳: しかしながら,ミルズ兄弟のやり方では,選手が打席に立つ時,負けポイント又は勝ちポイントを得る可能性が存在する.よって1つ1つのプレイにおいて選手はたたえられるか,けなされるかどちらかの評価を受けることになる.正味のポイントは累積された勝利への貢献(正の値も負の値もあり得る)の総計を測るためのものである.この理由から選手の勝率のような割合に頼る必要はない.
    • 拙訳:けれどもミルズ兄弟のシステムでは,選手が打席に立つたびに,負けポイントを与えられることもあれば,勝ちポイントを与えられることもある。つまり選手はプレイのたびに,報酬を与えられることもあれば,罰を与えられることもあるのだ。正味のポイントは,勝利に対する功罪の両面をまとめた尺度を提供する。だからこそ PWA のように比率に頼る必要がないのだ.
    • 解説:これも少しずつ言葉の選択がずれているせいで、全体としては大幅にすれた意味になっている。というか作業の順番としては、まず英文の意味内容を理解し、それを日本語で表すにはどうすればよいかを考え、できるだけ適切な言葉を選択するという順番になる。だから、まず翻訳してから意味を考えているようでは、いい翻訳はできないのだ。
  • 原文:The impression is that PWA gives too much weight to a handful of critical events that drown out the effects of standard plays in evaluating baseball performance.
    • 元訳:選手の勝率は,野球の実績を評価する際,普通のプレイの効果から引き出した少数の重大なプレイに重みを置きすぎているような印象を受ける.
    • 拙訳:PWAは,野球の成績を評価する際に,一部の決定的なプレイに重みを与えすぎていて,平凡なプレイの影が薄くなっている印象がある.
    • 解説:これは多分、drown を drawn と勘違いしたんだろう。drown out はもともと「溺れさせる」という意味で、そこから転じて、水の代わりに音が溢れて他の音が聞こえなくなるというような意味がある。「普通のプレイの効果から引き出した少数の重大なプレイ」というフレーズ自体意味不明だし、文脈を考えても、この解釈の方が自然。
  • 原文:Besides such criticism, another more practical reason lies at the heart of the lack of interest in Player Win Average at the time.
    • 元訳:このような批判に加え,もう1つのより現実的な理由は,当時のPlayer Win Averageへの関心の欠如にその中心がある.
    • 拙訳:当時のPWAに対する無関心の中心には,そのような批判の他に,もう一つ実際的な理由がある.
    • 解説:"A lies at the heart of B" は「B の中心に A がある」という意味なのだが、なぜか反対の訳になっている。日本語としても意味不明だし、文脈から考えても不自然。
  • 原文:Using computer simulation, the brothers developed a table of probabilities that was not revealed to readers.
    • 元訳:コンピューター・シミュレーションを用いて,ミルズ兄弟は読者に公表されなかった確率の表を例に挙げた.
    • 拙訳:ミルズ兄弟はコンピュータ・シミュレーションを使って確率の表を開発したが,その表は読者には明らかにされなかった.
    • 解説:「例に挙げた」という訳がどこから出てきたかよくわからない。develop を demonstrate と間違えたとか?
  • 原文:The need to capture play-by-play data is a large impediment to PWA's practicality, but the lack of win probabilities made its calculation impossible for anyone but the Mills brothers ... until 1984.
    • 元訳:1つ1つのプレイをとらえる必要があるということが選手の勝率の実用性に対する大きな障害となっている.しかし,勝つ勝率に関するデータの不足が原因でミルズ兄弟以外は誰も選手の勝率を推定することができなかった…1984年までは.
    • 拙訳:PWA を実際に利用する上で,プレイ 1 つ 1 つのデータを入手しなければならないことも大きな障害となっていたが,勝率表が存在しないことは,ミルズ兄弟以外の者が PWA を計算することを不可能にした.…1984 年までは.
    • 解説:この訳だと、「しかし」と逆接になっている意味がわからないだろう。小さい問題もあった「が」、それよりもっと根本的な問題もあった、ということ。
  • 原文:Plotting these probabilities in Figure 10-2, we can see some quantitative support for the critical nature of Late Inning Pressure.
    • 元訳:図10-2にこれらの確率をプロットした.終盤のプレッシャーに関する非常に特殊な性質に対する量的な対応を見てとることができる.
    • 拙訳:この確率を図 10-2 のようにグラフにして見ると,終盤のプレッシャー(LIP)状況がいかに勝負を左右するかに関する,量的な根拠がわかる.
    • 解説:support をソフトの電話サポートみたいなイメージで「対応」と訳したらしいけど、この support は「○○を支持する証拠」の「支持」に当たる。この点差・イニング別の勝率のグラフをみれば、試合終盤になるほど勝負を左右する状況になりやすい理由が量的にわかりますよね、ということ。critical は「特殊」ではなく、勝負を左右するような「重要」「決定的」な状況という意味。
  • 原文:Lindsay's data in Table 7-4 tells us the probability of scoring different number of runs in the remainder of the inning:
    • 元訳:表7-4 のリンゼイのデータは,イニングの残りで,様々な点数を挙げる可能性について教えてくれる.
    • 拙訳:表7-4 のリンゼイのデータは,イニングが終わるまでにさまざまな点数を得点する確率を教えてくれる:
    • 解説:これもわざわざ「可能性」という曖昧な言葉で訳す必要はない。
  • 原文:The Pr(Win Given Runs) probabilities in the fourth column are taken from Table 10-14 for the sixth inning and the appropriate lead.
    • 元訳:Pr(得点して勝つ)は6回で適当なリードという状況に対して表10-14からとられた.
    • 拙訳:4 列目の Pr(特定の点数で勝つ)確率は,表 10-14 の該当する点差の 6 回のデータから取得したものである.
    • 解説:「適当なリード」はないだろう。この表 10-14 は、イニング・点差別の勝率の表だから、"the appropriate lead" というのは、その中の「該当する点差」のデータという意味。Pr(Win Given Runs) の Given Runs は「与えられた得点を前提として」いう意味で、要するに特定の得点における条件付き勝率のことなんだけど、「得点して勝つ」ではわかりにくいので変えてみた。
  • 原文:Half of the change was attributed to the offensive player's performance, and the other half to the defensive player's performance.
    • 元訳:変化の半分は攻撃側の選手の実績によるもので,そして残りの半分は守備側の選手の実績によるものである.
    • 拙訳:変化の半分は攻撃側の選手の成績に割り当てられ,もう半分は守備側の選手の成績に割り当てられた.
    • 解説:attribute をどうしても「原因」と訳したいらしいけど、ここでもやはり文脈を考えれば不適切。後で出てくるエラーの例を見ればわかるように、この本では、貢献度が常に攻撃側と守備側で半々である、などという主張はしていない。ただこの PGP という方式では、便宜的にそう割り当てると言っているにすぎない。
  • 原文:It did not seem right for the batter to get any positive recognition for this play, much less greater recognition than the pitcher.
    • 元訳:しかし投手よりかなり認識度は低いのにもかかわらず,打者がこのプレイに関して投手よりよい評価を得るということは正しくないように見える.
    • 拙訳:打者はこのプレイに関して,投手より高い評価はもちろん,いかなる評価も受けるべきではないように見える.
    • 解説:なんでこういう訳になったのかよくわからないが、とにかくいろいろと間違っている。much less... という構文は、より極端な例を出すことにより内容を強調する、というレトリックに使われる構文。この場合、前半が「打者になんらかの評価を与えること」で、後半が「打者に投手より高い評価を与えること」なので、「打者を投手より高く評価するのはもちろん、これっぽっちも評価すべきではない」または「打者をこれっぽっちも評価すべきではない。ましてや投手より高く評価するなんて論外」という意味。
  • 原文:However, Weis's error produced a negative change (from his team's perspective) of D = .035, so he is debited the entire change, -3.5 percent.
    • 元訳:しかし,ワイスのエラーは(彼のチームの見解からして)マイナスの変化 D = .035 を生み出したため,彼にとっては全体の変化が -3.5% の負債となる.
    • 拙訳:けれども,ワイスのエラーは D = .035 の(彼のチームから見て)マイナスの変化を生んだので,ワイスにはこの変化全体,つまり -3. 5パーセントが負わされた.
    • 解説:"from his team's perspective" というのは単に、エラーは攻撃側のチームから見ればプラスだけど、守備側のチームから見ればマイナスだ、ということを言ってるだけだろう。別にワイスのチームがエラーについて特別な「見解」を持っているとかいう話ではないと思う。「全体の変化が -3.5% の負債となる」というのも意味不明。
  • 原文:However, while the mechanics of the probability calculations are objective, identifying the players and whether their defensive contributions were outstanding enough for special recognition remain subjective judgements.
    • 元訳:しかしながら,確率計算のしくみは客観的である一方,その選手たちを見極めることや彼らの守備の貢献が特別な評価を受けるのに十分際立っているかどうかと言うことは主観的な判断として残る.
    • 拙訳:確率計算の仕組みは客観的だが,選手を特定し,その守備による貢献が特別な評価に値するほど傑出していたかどうかを判定することは,依然として主観的な判断だ.
    • 解説:「見極める」が何を意味しているかよくわからないが、この identify は、たとえば、送球の落球があったときに、送球した野手の悪送球なのか、それとも捕球した野手の捕球ミスなのか、といったことを「特定」するという意味だろう。(その後の公式記録員がどうこういう件を読めばはっきりする)
  • 原文:PGP (and PWA) evaluate a play at the moment of its resolution, not after the fact.
    • 元訳:つまり選手のゲーム貢献度(そして選手の勝率)は後の出来事のことではなく,その決定的瞬間だけを評価しているのだ.
    • 拙訳:PGP(および PWA)は,プレイを事後的にではなく,行われた時点で評価する.
    • 解説:これも文脈や意味を考えてない訳。ここで問題にしているのは、カーターのヒットはその後で大量点の呼び水となったのに、PGP ではあまり高く評価されていないということ。だから評価対象はあくまでカーターのヒットであって、「後の出来事」ではない。ただそれを評価する視点が、ヒットの後で大量点が入ったということを考慮に入れた事後的な視点なのか、ヒットの時点では点差が開きすぎていて焼け石に水だったというリアルタイムな視点なのか、ということを言っている。
  • 原文:PGP and PWA operate on probabilities, but sometimes the remote possibilities do occur.
    • 元訳:選手のゲーム貢献度や選手の勝率は確率を操作するが,時にかけ離れた確率をはじき出すことがある.
    • 拙訳:PGP や PWA は確率から計算されるが,確率の低い事だって起きる時は起きるのである.
    • 解説:この文はなかなかニュアンスを出すのが難しくて、私の訳もそれほど自信はないが、元訳よりはマシだろう。そもそも、"the remote possibilities" の解釈が間違っていて、この remote は「離れた」ではなく「ごくわずかな」という意味。要するに、PGP や PWA は、得点の入る確率や勝つ確率から計算されるが、実際には、確率が高いのに点が入らないこともあるし、確率が低いのに点が入ることもある。ゆえに、PGP や PWA の評価は、実際に入った得点と必ずしも連動しない、ということを言っている。だから意味的にも「かけ離れた確率」ではおかしい。
  • 原文:This provides some quantitative support for the leadoff spot being a critical element of each inning..
    • 元訳:これは各イニングの重大な要素になり得る先頭打者の量的な貢献を示している.
    • 拙訳:これは,各回の先頭打者の重要性に関する,一定の量的根拠になっている.
    • 解説:これも support の訳がおかしい。
  • 原文:Continuing the tradition established in Player Win Average, the first application of PGP was to evaluate players in the 1980 World Series.
    • 元訳:Player Win Averages によって確立された慣例を続けよう.選手のゲーム貢献度の最初の適用は,1980 年ワールドシリーズにおける選手の評価に対してであった.
    • 拙訳:PWA の確立した伝統を継承した PGP が最初に応用されたのは,1980 年のワールドシリーズにおける選手の評価であった.
    • 解説:分詞構文の意味上の主語は、省略されている場合には主節の主語なのだから、こんな解釈は明らかにおかしい。"the first application of PGP" が PWA の伝統を継承する行為だ、ということを言っているのであって、筆者や読者が継承するわけではない。
  • 原文:These players (Aikens, Pena, Jones, and Gwynn) deserved a better fate.
    • 元訳:これらの選手(エイキンス,ペーニャ,ジョーンズ,グウィン)の結果はさらなる賞賛に値する.
    • 拙訳:この選手たち(エイキンス,ペーニャ,ジョーンズ,グウィン)は,もっと評価されてしかるべきだった.
    • 解説:この選手たちは評価されていないという文脈なんだから、「さらなる賞賛」は変だろ。
  • 原文:With two exceptions, the PGP ratings presented for pitchers here did not include their appearance at bat.
    • 元訳:2 つの例外がある.投手に対して示された選手のゲーム貢献度の評価は彼らの打席における選手のゲーム貢献度を含んでいない.
    • 拙訳:ここで示した投手の PGP の評価には、2 人の例外を除けば、打席での評価は含まれていない。
    • 解説:誤訳とまでは言えないけど、いきなり「2 つの例外がある」と言われても、何に対する例外かわからないし、その疑問はかなり先まで読まないと解決されないので、わかりにくい。
  • 原文:A common question that comes up in reference to World Series play is whether PGP can be adapted to evaluate players with respect to the probability of winning the series as opposed to winning individual games.
    • 元訳:ワールドシリーズのプレイに関して思い浮かぶ一般的な疑問は,個々のゲームの勝利とは対照的に,選手のゲーム貢献度をシリーズに勝つ確率の評価に適応することができるのかどうかということである.
    • 拙訳:ワールドシリーズのプレイに関して思い浮かぶ一般的な疑問は、PGP を修正して,個別の試合に勝つ確率ではなくシリーズに勝つ確率について選手を評価するようにできないかということだ.
    • 解説:「対照的に」は直訳すぎて意味不明。「ゲーム貢献度『を』」と「適応『する』」の助詞が対応していない。それなら「適応させる」だろう。

まだまだ続きます。随時更新。

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