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「メジャーリーグの数理科学」の誤訳(目次のみ)

 前に言及したように「メジャーリーグの数理科学」という本は英語版しか読んでないのだが、日本語版の出版社のウェブサイトに掲載されている目次(上巻下巻)に目を通してみたら、見出しの中にすでに誤訳っぽいものがあったので指摘しておく。

  • 第1章
    • 原文: "Sports Illustrated Baseball: The Interactive Model"
    • 元訳:「スポーツ・イラストレイテッド野球ゲーム:双方向性モデル」
    • 摂訳:「スポーツ・イラストレイテッド野球ゲーム:相互作用モデル」
      • 「双方向性」でも誤訳とまでは言えないが、この節では、「SOM 野球ゲーム」では単に投手と打者の能力を加算しているだけなのに対し、「スポーツ・イラストレイテッド野球ゲーム」では投手と打者の能力が相互に影響しあうことを強調しているので、「相互作用」の方が適切。それは、下の一節を読めばよくわかる。
      • "The multiplication of probabilities from the Picher Chart and from Hitter Chart produce an interaction between batter and pitcher. This is different from the Strat-O-Matic hitting model, which only adds the effects from the pitcher and hitter."
      • 摂訳:「投手チャートと打者チャートの確率を掛け算することにより、投手と打者との間の相互作用が生まれる。これは、投手と打者の影響を足し算するだけの SOM の打撃モデルとは異なる。」
  • 第2章
    • 原文: "Relationship Between Batting Measures"
    • 元訳:「打撃データの相関性」
    • 摂訳:「打撃指標間の関係」
      • これも誤訳とまでは言えないが、ここで data ではなく measure という言葉を使っているのは、ここで扱っているのが打数とか安打とかの生のデータではなく、そこから計算された打率・出塁率・長打率といった「指標」だからである。
  • 第8章
    • 原文: "Sorting Out Strengths and Weaknesses"
    • 元訳:「強さと弱さを分類する」
    • 摂訳:「長所・短所のまとめ」
      • この節では、前の節で説明したいろんな打者評価モデルの特徴を要約しているのだから、こう訳すべき。それは下の一節を読んでもわかるだろう。
      • "Models can be described as either additive or product. Product models are a better reflaction of the curved nature of run production, but additive models are simpler to use in evaluating players."
      • 摂訳:「モデルは加算モデルと乗算モデルに分類できる。乗算モデルは、得点生成の曲線的な性質をよりよく反映しているが、加算モデルの方が、選手の評価には利用しやすい。」
  • 第12章
    • 原文: "A Normal Curve Model"
    • 元訳:「標準曲線モデル」
    • 摂訳:「正規曲線モデル」
      • これが一番ひどいと思ったのだが、統計学で normal と言えば「正規」だというのは常識だろう。実際ここで説明しているのが、チームの能力が正規分布するモデルであることは、たとえば下の一節を読んでも明らか。
      • "Since the distribution of winning percentages is mound-shaped, one can model this distribution by using a smooth curve - so-called normal curve frequently used in statistics."
      • 摂訳「勝率分布は山形をしているので、この分布は、統計学で頻繁に使われる正規曲線と呼ばれる滑らかな曲線によってモデル化することができる。」
    • 原文: "A Mediocrity Model for Abilities"
    • 元訳:「能力を表す平凡なモデル」
    • 摂訳:「能力に差のないモデル」
      • これも結構ひどいと思うけど、この節で説明しているのは、チームの能力に差がなくて、成績が運だけで決まるようなモデル。だから、モデルが mediocre なんじゃなくて、モデルの記述するチームの能力が mediocre なのである(だいたい、モデルが medicore だったら、素直に形容詞形で mediocre model になるはずだろう)。「どんぐりの背比べモデル」なんて意訳してもよいかもしれない。以下の一節を参照。
      • "Given the current parity of baseball teams and the movement of a large number of free-agents between teams, it might be reasonable to think that all baseball teams have roughly the same talent. If that is true, then all teams would have an average ability, and the talent number for each team would be 0. If this "mediocrity model" is true, then the observed difference in season winning percentages are solely due to good and bad luck."
      • 摂訳:「現在の野球チームの力の均衡やフリー・エージェントによる多数の選手の移動を考えれば、全野球チームがだいたい同じ能力を持つと考えてもおかしくないかもしれない。これが正しいとすれば、全チームが平均的な能力を持つことになり、各チームの能力値は 0 になるだろう。この「能力に差のないモデル」が正しいとすれば、観察されるシーズン勝率の差は、運不運だけのせいだということになる。」
    • 原文: "A Normal Model for Abilities"
    • 元訳:「能力を表す標準モデル」
    • 摂訳:「能力が正規分布するモデル」
      • これも上と同じ間違い。モデルが normal なのではなく、チームの能力が normal curve で表されるモデルを意味している。

 この本にはベイズ推定も出てくるのだが、"normal curve" を「正規曲線」と訳せないような人が、正しく訳せるのか非常に心配である。機会があれば邦訳版を購入して確かめてみたい。まあ、こういう珍しい本を訳してくれただけでも評価すべきことだとは思うが。

余談: 例のニコラス・タレブの「ブラック・スワン」にも Mediocristan という言葉がでてくる。これは mediocre に「国」を意味する接尾辞の -stan をくっつけた造語であり、突出した個体のいない平均的な集団を意味している。上の A Mediocrity Model の mediocrity も似たような用法と言える。

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