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偶然に影響されすぎてはいけない

 博打打ちが一番やってはいけないことは、結果によって打ち手を変えることである。博打において結果は偶然にすぎない。偶然には理由はないのだから、結果に応じた対策というものは基本的に存在しない。ゆえに結果に振り回されずに決めた戦略を貫くことが、博打において安定した結果を残すための原則である。

 麻雀で負け組になりやすいのは、いつもは危険牌を平気で切っている癖に、大きい手に振り込んだ後に限って妙にガードが固くなる人や、逆に、いつもは安全牌ばかり切っている癖に、大きい手に振り込んだ後に限って大物手を狙ってガードが甘くなる人であることは、麻雀をやる人ならよくご存知だろう。「強い博打打ちは長時間打ってもフォームが変わらない」と雀聖・阿佐田哲也氏もよく言っていた。

 博打以外の堅気の仕事の結果は、博打ほど運だけでは決まらない。運と実力の両方に左右される。したがって、堅気の仕事の場合には、結果よって打ち手を変えたほうがよいと思いがちだが、実はここにも落とし穴がある。

 なぜかというと、打ち手を変えたことによって、結果が改善・改悪されたとしても、その原因が本当に打ち手を変えたことかどうかは、それだけでは判断できないからだ。実力だけでは決まらないということは、どんな結果も何割かは運だということだ。もし結果が運だった場合、それに応じて打ち手を変えれば、結果はむしろ改悪される可能性がある。

 運と実力の両方に左右される仕事の典型にプロ・スポーツがあるが、スポーツではよく「好調の後ほどスランプになりやすい」と言われる。その理由もおそらく同じだ。好調の何割かは運なのだが、そのどこまでが運でどこまでが実力なのか、厳密に判別することは難しい。そのため、逆にフォームを崩してしまうのだろう。

 うろ覚えだが、かのイチローは、何試合か不調が続いた後で突然固め打ちしたときに、「昨日から一日しかたっていないのに、技術的にそんなに大きく変わるはずないんですよね」と言っていた。その真意を想像するに、「これは実力ではなく運なので、その結果に振り回されてしまっては、かえってバッティングを崩すことになる」ということではなかったろうか。

 さて、わが国は何百年に一度という規模の地震に見舞われたわけだが、この地震による災害の中にも、偶然と必然・運と実力が入り混じっているはずだ。したがって今大事なのは、反省すべきことを反省すること以上に、反省すべきでないことを間違っても反省しないことだと思う。

 同じように 9.11 という悲劇に見舞われたアメリカは、その進路を大きく変えた。その中には、本当は変えるべきでない事も含まれていた(かもしれない)ことはご存知の通りだ。ぼくは当時、アメリカが変わらなければならない必然性を必ずしも理解していなかった。むしろその後のアメリカの行動から逆算して、アメリカの受けた衝撃の大きさを推し量っていたぐらいだ。

 でも今ならわかる。身近に大きな不幸を経験した人間は、何か行動を起こさずにはいられないのだということを。そして、その行動が必ずしもよい結果をもたらすとは限らないということも。

 もちろん、ぼくらが被災者に共感すること自体は、微塵も間違ってはいない。しかし正しい共感から生まれた行動がすべて正しい行動であるという保証はないのだ。したがって、共感が熱ければ熱いほど、それに溺れないだけの強靭な冷静さが必要なのだと思う。

 震災後、マスメディアやネットで喧伝される言説の中には、警戒すべきものが多々あるように感じる。特に警戒すべきは、被災者側に立つことによって善のお墨付きを得て、反対する者に悪のレッテルを貼るような言説や、震災に勝手に歴史的な意義を見出して、日本の進路を自分の望む方向に誘導するような言説だろう。

 たとえば、復興を口実にした増税であるとか、節電を口実にした特定の業界や文化に対する規制であるとか、それが本当に日本のために必要なことなのか、ぼくらはもう一度冷静になって検討する必要があると思う。

 こんな時ほど、次の言葉を肝に銘じておきたい。

- The road to hell is paved with good intentions (地獄への道は善意で舗装されている)

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