picnic album 1
コトリンゴさんがまたやってくれました。彼女初のカバーアルバム「picnic album 1」。素晴らしいです。
このアルバムは、アレンジでちょっと目先を変えてみましたというような平凡なカバー・アルバムとはまったく異なり、コトリンゴさんの作家性がはっきり現れた「コトリンゴさんの作品」と呼んでいいものになっています。ですから、原曲を知っている人も知らない人も共に楽しめるはずです。 是非聴いてみてください。
彼女の作曲センスの素晴らしさは十分承知していましたが、こうやって他人の曲に伴奏をつけているのを聴くと、メロディに対する和声のボイシングを考えるセンス自体に非凡な個性のあることがはっきりとわかります。
バークリー音楽大学出身の彼女であればそんなことは当然と思われるかもしれませんが、彼女のボイシングには、凡庸なジャズやフュージョンのようにテンションを増やすとかコードを代理コードに置き換えるといったパターンとは異なる質の繊細さがあるような気がします。その違いを楽理的に正確に表現することはぼくの手に余りますが、教授が注目したのも、おそらくその辺のセンスだったのではないでしょうか。
スピッツの「渚」などは、ピアノとチェロとパーカッションだけという極めてシンプルな編成ですが、コトリンゴさんの弾くビアノの分散和音のアルペジオを聴いているだけで十分に気持ちいい。徳澤青弦さんのチェロが奏でる「きゅるきゅるきゅる」というクジラの鳴き声のようなギミックも見事にハマっています。加藤和彦の「悲しくてやりきれない」で聴かれるディレイのかかったピアノの音も、武満徹の「雨の樹」みたいでいいですね。
ぼくみたいな偏った趣味の人間が変な褒め方をして営業妨害になるといけないので、念のために言っておきますが、「恋とマシンガン」や「う、ふ、ふ、ふ、」などはわりと普通のポップスに近いアレンジだし、「AXIA~かなしいことり~」や「ノーサイド」などはピアノの弾き語りに近いアレンジなので、カジュアルなリスナーにも抵抗なく聴けるんじゃないでしょうか。
教授が全面的に支援したファースト・アルバムの「songs in the birdcage」は紛れもなく傑作でしたが、その後のアルバムは、教授の庇護下を離れて作風の幅を広げようとしているのはわかるんですが、必ずしもうまく行っていないように思え多少心配していました。でも、その懸念はこのアルバムで完全に払拭されたと思います。
思えば、教授がニューヨークに移住した後の大貫妙子さんも教授の影響を払拭するのに苦労していたフシがありますが、その後日本アカデミー賞最優秀音楽賞も受賞し、今や日本のポップス界を代表する押しも押されもせぬ音楽家となりました。コトリンゴさんも 20 年後には必ずそうなっているだろうとぼくは確信します。迷惑かもしれませんが、ぼくは今後もあなたについていて行きます。多分ぼくの方が先に死ぬでしょうが。
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