2010 年によく聴いたアルバム
今年はメディア・サーバーとして使っていた HDD がクラッシュするという大事件があり、長年地道に MP3 化していた 1 万曲ぐらいのファイルが一瞬にして消滅してしまい、そのショックで以後数ヶ月あまり音楽を聴く気になれなかった。また、贔屓のアーティストが示し合わせたように 2009 年に新譜を出した反動か、贔屓のアーティストの新譜も少なかった(もっとも、菊地さんの「闘争のエチカ」とか半野さんの「BEAUTIFUL CRAZY」とか、まだ入手していない作品もあるが)。そんなこんなで、去年との重複が多くなっている。
1.シェーンベルク「弦楽四重奏のための協奏曲/シュテファン・ゲオルゲの「架空庭園の書」よりの15の詩 Op. 15」
今年はシェーンベルクの魅力を再認識した年だった。特に「浄夜」と「月に憑かれたピエロ」の間の時期の曲がいい。「浄夜」以前は後期ロマン派とあまり変わらないし(「浄夜」というのは、武満徹で言えば「弦楽レクイエム」に似ている、などと書くといろんな人の不興を買いそうだが)、「月に憑かれたピエロ」以降は十二音技法が前面に出てくる。その間の自由な無調を試行錯誤している時期の微妙な感じが好き。中でもこの「架空庭園の書」は最高傑作ではないかと思う。最も、10 年前は「シェーンベルクなんてどこがいいのかわからない」と言っていた人間の言う事だから、10 年ぐらいたつとまた変わってる可能性もあるが。
2. ウェーベルン「Passacaglia / Symphony / Five Pieces」
去年と重複。3.デヴィッド・シルヴィアン「マナフォン」
紹介済み。
4.コトリンゴ「picnic album 1」
紹介済み。
5.細野晴臣「紫式部 源氏物語」
20 年以上前の作品。細野ファンのぼくは、もちろんリアルタイムで聴いているのだが、当時はあまり良さがよくわからなかった。今年聴き直してようやくこの作品の魅力に気づいた次第。純邦楽と西洋音楽の融合というと、邦楽器で西洋の曲を弾くみたいになりがちだが、この作品はまったく違う。純邦楽の構造をかなり深いレベルで理解して再構築している感じ。その結果、一見すると純邦楽のようで、よくよく聴くとまったく違うという不思議な作品に仕上がっている。これは武満徹の純邦楽作品に匹敵するレベルの高い仕事だと思う。長年細野ファンを自称していながら、この作品の魅力に 20 年以上も気づかなかった不明を細野さんに謝りたい気持ちだ。
6.シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」
シェーンベルクの代表作とされているが、実はそれほど好みではない。特にあのシュプレッヒ・シュテンメという奴がどうしても好きになれない。 あくまで批評ではなく好みの問題だと思うが。
7.バッハ「マタイ受難曲」
8.菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール「ニューヨーク・ヘルソニック・バレエ」
この作品については、現代音楽とサルサの融合とかだけでなく、バレエのリズムを取り入れていることにも注目すべきだと思う。これは菊地さん自身が明言しているのに、それに言及したレビューが少ないのは可哀想だ。表題作の「New York Hell Sonic Ballet」が典型だが、普通に演奏すればありふれた現代音楽になってしまうところを、独特のリズムによって生命力を与えている。確かにバレエやコンテンポラリーダンスには独特のリズム感がある。一般的なダンス・ミュージックのリズムは、身体の慣性や固有振動数に身をゆだねる感じなのに対し、バレエのリズムは揺れを意思の力で無理矢理ピタッと止める感じだ。菊地さんの狙いは、この「バレエのリズムの再発見と再定位」にあったのではないか。
9.ウェーベルン「Symphony, Op 21 / Six Pieces, Op 6 / Concerto for Nine Instruments, Op 24」
去年と重複。
10.コトリンゴ「trick & tweet」
佳作ではあるが、「songs in the birdcage」に比べるとややアベレージが低いことは否めない(もっともこれは、「songs in the birdcage」が傑作すぎるせいだが)。でも、「海の向こうに行った人」はとてもいい曲だと思うので、この曲だけでも機会を見つけて聴いてみて欲しい。
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