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コロンボに憧れた頃

 「刑事コロンボ」の旧シリーズ全話がひかりTVで公開されたので、ヒマをみては鑑賞している。このドラマが日本で初めて放映されたのは、丁度ぼくが小学生の頃。当時のわが家は子供に対するチャンネル権の制限が厳しくて、自由に見せてもらえたのは夕方の再放送時間帯だけ。ゴールデンは親の見る大人向けの番組をよく意味もわからないまま一緒に見るという生活だった。そのぼくが初めて好きになった大人向けのドラマが「刑事コロンボ」だった。

 「憧れた」というのは決して大袈裟ではない。ぼくは何を隠そう、コロンボ風のコートを親にねだって買ってもらって、高校三年間それを着て毎日学校に通っていたのだ。今考えると馬鹿丸出しであるが、当時はそれが「かっこいい」と思っていたのである。ああいう見かけはイケてないけど能力があって、目立たないところで社会に貢献しているような人間になりたかったのね。だったら能力の方をマネすればいいものを、見かけだけマネするところが、形から入る子供の発想なんだけどさ。まあ言わば時代遅れのバンカラだったのね。 

 だから、コロンボが好きなことでは人後に落ちない自負があったのだが、観直してみると、自分の中のイメージほど傑作ばかりでもなかった。もちろん、最後のオチまで鮮明に記憶している「別れのワイン」「ニ枚のドガの絵」「溶ける糸」「権力の墓穴」あたりのエピソードは、今観てもよく出来てると思うのだが、それ以外のエピソードは、トリックが陳腐だったりプロットに無理があったり演出が冗長だったりするものもあった。

 よくコロンボの方が古畑任三郎より面白いとか言う人がいるけど、製作年代を無視して両作品を見比べてみると、完成度だけなら古畑と同等もしくは古畑の方が上と言ってもいいのではないだろうか。ただ、ぼくを含めてリアルタイムで観ていた世代は、コロンボがドラマ史上において成し遂げた革新をリアルタイムで経験しているので、その分記憶が美化されているのだと思う。もちろん、先駆者としての功績はいくら評価し過ぎてもし過ぎることはないが。

 改めて感じたのは、むしろ三谷幸喜の換骨奪胎のうまさである。古畑とコロンボの大きな違いは、国籍を除けば主人公の設定。ご存知の通り、コロンボというのは、見た目がイケてなくて腰が低くて人懐っこくて慇懃無礼でずうずうしい。その性格が捜査手法と密接に結びついているところがコロンボというフォーマットの斬新さだ。

 でもよく考えると、こういう人間は自己主張を尊ぶアメリカでは珍しいかもしれないが、自己主張を嫌い腹芸を尊ぶ日本ではさほど珍しくない。たとえば、同時代に日本で製作していた「特捜最前線」なんかに出てくる刑事だって、顔は一応二枚目だが貧乏たらしい奴ばかりで、必ずと言っていいほど人情派の刑事が容疑者を「落とす」くだりがあったりする。だから、コロンボみたいな人間が主人公のまま舞台だけ日本にしても、 靴をすり減らして捜査する人情派刑事の亜流にしか見えない可能性もあったと思う。

 そこで古畑のような人物を選び取ったところが三谷幸喜の力量だと思うのだ。古畑は洒落者で気取り屋で傍若無人で負けず嫌い。このような性格は、日本では異端であり、それが捜査手法に結びついてもいる。つまり、日本という舞台においてコロンボと同じ条件を見事に満たしているのだ。そこに三谷幸喜の人間観察眼の鋭さが現れていると思う。

 これを逆に考えると、ぼくら日本人はコロンボを微妙に誤解して観ていた可能性もある。たぶんアメリカ人から見ると、コロンボは日本人が思うよりずっとエキセントリックな人間なのだ。コロンボの製作者は、コロンボの人物造型にあたってはリアリティを無視した、現実にはあんな服装の刑事は許されないだろう、と言っている。でも日本人から見れば、コロンボは単に庶民派の刑事に見えないこともない。

 その誤解を助長したのが小池朝雄の吹き替えだろう。コロンボを演じたピーター・フォーク自身は、いかにも喜劇役者という感じのキンキン声であり、この声を聞きながら見ると、コロンボはなおさら変人に見える。一方、小池朝雄の声は低音で親しみ易く、この声を聞きながら見ると、コロンボは身近にいそうな草臥れたおじさんに見えてくる。

 アメリカ以外でコロンボファンが最も多いのが日本らしいが、その人気は実は微妙な誤解に支えられていたのではないだろうか。コロンボの日本版を製作した人たちは、おそらくその誤解まで計算に入れて、コロンボは日本で受けると判断した。その計算が小池朝雄という声優の選択にも反映されているのではなかろうか。と今にして思う。

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