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ベートーヴェンと言語と山下洋輔

 坂本龍一教授が教育テレビでやっている音楽史講座「スコラ 音楽の学校」という番組。昨日は特別講座として、坂本龍一・浅田彰・小沼純一の三氏がベートーヴェンについて語っていた。

 その最後の質疑応答のところで、「ベートーヴェンの音楽は言語的か?」というような質問があった。三氏(および途中から登壇した岡田暁生氏)の答えはどちらかというと否定的で、音楽史の大きな流れから見ると、ベートーヴェンはむしろ音楽を言葉の影響から切り離して純化した方ではないか、と言っていた。

 でも、ベートーヴェンが言語的だというイメージはぼくにもあって、それは主に山下洋輔氏のせいである。氏が書いた「ベートーヴェンかく語りき」(「ピアノ弾き翔んだ」所収)という文章をご存知だろうか。

 原典が手元にないのでうろ覚えだが、確か、山下洋輔がベートーヴェンを現代に召還して、「お前の根源は文学コンプレックスだ!」とかなんとか言ってイビリ倒し、お前の音楽はもう古い、とばかりにベートーヴェン没後の音楽史を教え込み、あげくのはてにフリージャズを教えてベートーヴェンに即興演奏をさせる。ところが、現代の音楽理論を吸収したベートーヴェンの即興演奏はさすがにものすごいもので、それを聴いた山下は至福の表情を浮かべたまま昇天する…、というような抱腹絶倒のホラ話だった。

 この文章について、山下洋輔が後に語った言葉がある。

-やはり、ベートーヴェンはどこか特別な存在なんですね。

 いちばん勉強したんだよね。アナリーゼをしたり。以前、本のベートーヴェンとの架空対談というのを書いたんだけど、その中で僕はベートーヴェンをわざといじめて告白させるわけ。”自分はモーツァルト先生みたいな天才じゃない。音を全部頭の中に思いうかべることができない。1 つの小さなフレーズを論理的につなげていく以外に曲を作るすべを知らない”とね。あれは、結局僕のことを言ってるわけでね、ベートーヴェン自身はそんなことを言ったことはないわけで、あれは僕自身の心の告白でもあった。ただ、ベートーヴェンに対するそういう見方はあるわけだけど、僕は、言語的な論理性、言語の原理が絶対に音楽に反映してると思うからね。

 そもそもの認識は、今世紀にモーツァルトみたいな天才などいないというところから始まる。みんな何かしら言語の力を借りて、別の芸術を作っていくってところはあるんだよね。でも、ホントに言葉を離れて音だけに何か意味を見出したときはうれしいね。僕にもそういう瞬間はあると思う。

(「キーボードスペシャル」1987 年 3 月号※)

 ぼく自身は断言できるほど音楽批評に詳しくないが、山下洋輔が「ベートーヴェンに対するそういう見方はあるわけだけど」と言っているところからすると、そういう説を唱えている人は他にもいるのだろう。

 まあ、ベートーヴェンの音楽を文学的なドラマツルギーのメタファとみなす事は、サティとかに比べれば容易なことには違いないだろう。もちろん、サティにはサティの論理があるし、フリージャズにはフリージャズの、現代音楽には現代音楽の論理があるわけで、どの層で捉えるかという捉え方の違いにすぎないとは思うが。

 ちなみに、番組中では教授はベートーヴェンがずっと嫌いだったような発言をしているが、あれはたぶん会場の空気を読んでそう言っただけだと思う。実際には教授は子供の頃かなりベートーヴェンが好きだったらしく、そういう主旨の発言もしている。

諸井(誠):あなたの音楽的形成のなかにベートーヴェンがいたの? 「OMIYAGE」の中で、中学 1 年のときにベートーヴェンのピアノ協奏曲第 3 番に感動したとあったけど、あればべつに第 3 協奏曲じゃなくても良かったのね。

坂本:なんでもよかった。だけどやっぱり第 5 交響曲じゃ、ちょっとまずかった。

諸井:ちょっと重すぎる? やっぱり短調でなければいけないわけ。

坂本:長調はまず耳に入ってこない。第 9 は荘厳すぎるし、それに政治がありすぎて。

諸井:よけいなことが多すぎる…。

坂本:そうですね。第 3 交響曲というのは、決して傑作だと思わないけど、12 歳の少年の耳を捉えるには適度な通俗性と形式性、ロマン性と長さがある。それと論理性とまでは行かないけれど、ドイツ的な面もあって、都合がいい曲だったんじゃないかと思う。

(「芸術新潮」1981 年 6 月号※)

 坂本・浅田をポストモダンの象徴とみなすのは図式的でわかりやすいので、そういう「キャラ設定」にあえて乗ったということなんだろうけど。浅田氏はともかく、坂本龍一という人は、もともと本人が口で言うほどポストモダンな人ではなかったのではないかと、ぼくは思っている。

※ どちらも「坂本龍一・音楽史」からの孫引き。

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