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コミケでの不快なできごと

 この間友達がある作家の熱烈なファンになって、もちろんその作家の本を大量に購入した後で、その人の作品をマンガ化してコミケで売ろう、と言い出した。その友達は漫画家志望だったが、オリジナルの作品はあまり成功せず、二次創作の売上を生活費の足しにしていた。
 それで、その作家の本を出している出版社の人にこっそりとマンガ化してコミケで売っていいかな? と相談したら、気のいいバイトの女の子が少しだったら目をつぶるよと言ってくれた。書面で正式に許可は出せないということだったので、その子との口約束だけでお茶を濁した。
 それであまりおおっぴらに売ってはいけないから、こそこそとコミケにブースを出して、その作家の本の購入代金も回収できないくらいの同人誌をちょこっとだけ売ったわけだ。
 ちなみにその作家は最近あまり本を出していなくて、副業で暮らしているという感じだった。
 するとまず、出版社の人と称する連中がえらい剣幕でブースに押しかけてきた。
 さらに、突然作家と称するどう考えても年下の女の子が出てきて、私たちに説教しはじめた。こういうことをしてもらったら困る、作品には著作権や隣接権がある、などなど。
 私たちはいちおう事情を言った。この子は、あなたの大ファンで本も大量に買っているんです。その子があなたへの愛情を込めて書いた特別な作品なんです。どうしてもだめでしょうか? いくらか印税もお支払いしますから……。
 その作家には言わなかったが、もっと書くと実はその作品はその子の亡くなった妹に捧げる作品でもあった。人にはいろいろな事情があるものだ。
 しかし、作家は言った。ばかみたいにまじめな顔でだ。
「こういうことを一度許してしまいますと、きりがなくなるのです」
 いったい何のきりなのかよくわからないが、作家の人がそこまで大ごとと感じるならまあしかたない、とみな怒るでもなくブースをたたんでコミケを出た。そして道ばたで楽しく同人誌を読みながらしゃべった。
 もしもその作家がもうちょっと頭がよかったら、私たちのちょっと異様な年齢層やルックスや話し方を見てすぐに、みなが同人界でかなりの人脈を持っているということがわかるはずだ。それがオタクというもので、本屋さんに行けばそういう本が山ほど出ているし、きっと作家とか名のつく人はみんなそういう本の一冊くらいは持っているのだろうが、結局は本ではだめで、その人自身の目がそれを見ることができるかどうかにすべてはかかっている。成功する作家は、必ずそういうことがわかっているものだ。
 そしてその瞬間に、彼女はまた著作権侵害が起こるすべてのリスクとひきかえに、そのオタクたちが口コミで広めてくれるかもしれなかった大勢の読者を全部失ったわけだ。
 作家でここ数年の出版点数がゼロ、という状況はけっこう深刻である。
 その深刻さが回避されるかもしれない、ほんの一瞬のチャンスをみごとに彼女は失ったのである。そして多分あの作家はもうおしまいだろう、と思う。失業するか、商売換えしているだろう。
 これが、ようするに、現在の文壇で起こっていることの縮図である。
 それでいちいち裁判だの和解だのでお金をかけているのだから、もうけが出るはずがない。ファンこそが宝であり、読者も人間。そのことがわかっていないで杓子定規に法律を適用しようとしてみんな失敗するのだ。それで、口をそろえて言うのは「不況だから」「文学のわかる読者が減ったから」「もっと前衛的な作品にしてみたら」「作風を変えてみたら」「作品はいいのにファンがつかない」などなどである。

(中略)

 というわけで、いつのまに作家は商売人になってしまったのだろう? と思いつつ、二度とあの作家の本は買わないということで、私たちには痛くもかゆくもなく丸く収まった問題だったのだが、いっしょにいた三十四歳の男の子が「まあ、当然といえば当然か」とつぶやいたのが気になった。そうか、この世代はもうそういうことに慣れているんだなあ、と思ったのだ。いいときの日本を知らないんだなあ。


※この話はフィクションです。コミケとか行った事ないので、伝聞情報と想像だけで書いてます。間違ってたらごめんなさい。あと、こんなパロディを書いたのは、単にあるところで盛り上がっている事件を相対化してみたかっただけで、誰かを明確に批判する意図はあまりありません。心の中では密かに批判的だったりしますが。

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