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award-winning はなぜ訳しにくいのか

 英和翻訳を長年やっていると、頻出する語句や成句については訳し方のパターンが確立されてくるものだが、訳そうとするたびにうまい訳が思いつかなくて悩むような言葉もいくつかある。以前に紹介した decompression という単語もそうだった。今回は、award-winning という単語を取り上げてみたい。

 award-winning というのは、見た通り、award と winning を組み合わせた合成語であり、その意味もこの二つの単語の意味から類推される通りである。award は「賞」を意味する名詞、win は「獲得する」を意味する動詞であるから、award-winning は「賞を獲得した」という意味になる。

 この単語がよく使われるのは広告文で、宣伝したい商品や企業を表す言葉を修飾する形容詞として、award-winning product とか award-winning company のようなフレーズの中で使われる。

 このフレーズ、もちろん意味だけを考えれば何も難しいことはない。「賞を受賞したことのある製品」あるいは「賞を受賞したことのある会社」という意味だ。しかし、このフレーズを現実の文章の一部として訳そうとすると、どうもうまくいかないのである。

 実際に例を挙げてみよう。以下は、ある企業のウェブサイトの宣伝文を元にして創作した例文である。

 Foo utility combines the award-winning security technologies from Company Inc., including A, B and C, to provide complete protection for your PC.

 この文を素直に訳せば以下のようになるだろう。

Foo ユーティリティは、カンパニー社の A・B・C といった賞を受賞したセキュリティ技術を組み合わせることにより、PC を完全に保護します。

 でも、こんな広告文を実際に見たことある? なんかひっかかるよねえ。そう。「賞を受賞した」の部分が何かすわりが悪いと思わない?

 少なくとも、ぼくの語感からすると、この「賞を受賞した」は何か気持ち悪くて仕方がない。でも、その理由は必ずしも論理的にうまく説明できない。「賞」の字が重複しているせいだと思うかもしれないが、「受賞した」だけにしたり「賞を獲得した」に変えたりしても、この違和感は解消されない。

 違和感の原因として一つ考えられるのは、受賞した賞についての具体的説明が何もないことである。たとえば、「アカデミー賞を受賞した作品」「権威ある賞を受賞した製品」「数々の受賞歴に輝く企業」みたいな表現ならば、日本のメディアでも腐るほど目にする表現であって、何も違和感などない。

 ただ、award-winning という単語自体には、「権威ある」とか「数々の」という意味は含まれていないから、実際には業界お手盛りのくだらない賞かもしれないし、賞を獲った回数だって一度きりかもしれないのである。だから、何も考えずにこんな風に訳すと単なるウソになってしまう可能性がある。

 仕方ないので、ぼくはこの単語を訳すとき、実際にその広告の対象となっている企業や製品について調べて、それが本当に権威ある賞だったら「権威ある賞を受賞した」、複数の賞を受賞していたら「数々の受賞歴に輝く」などと訳すようにしている。

 また逆に「賞」という言葉にこだわるのをやめて、「賞を獲得できるほど評価の高い」という意味だけ汲み取って、「好評の」などと訳すこともある。いずれにせよ、なんとなくうしろめたい気持ちを抱きながら。

 おそらくマーケティング関係の英文を専門に訳している人は、こんな単語の訳し方はとっくに手法として確立しているに違いないし、そうでなくても単純にぼくが無知・無能なだけということも十分ありえるが、少なくともぼくは、この単語のうまい訳し方をいまだに思いつかないので、恥を忍んでここに晒してみた。

 ひょっとしたら、この違和感の裏には、英語圏と日本の文化差が潜んでいるのかもしれない。たとえば、英語圏では賞はすべて権威のあるものであって、賞をとっただけで十分評価に値するが、日本では賞にはそれほどの権威がなく、より具体的な記述がないとほめ言葉として成立しない、とかなんとか。

 もちろんこの説は単なる思いつきにすぎないが、訳しにくい理由がはっきりとわからないと、上記のような回避方法を選択するにしても今ひとつ自信がもてないので困るのだ。どなたか学のある方が研究してくれないだろうか。

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