近代口語文体の歴史年表
現在の日本で使われている言文一致体と呼ばれる文体は、明治以降にできたものだと言われているが、その形成過程を調べる際に役立ちそうな年表を作ってみた。もともとは、自分の勉強のために作ったものだけど、誰かの役に立つかもしれないので公開する。
この年表は、近代の口語文体で書かれた文学作品を、発表年順に並べた年表であり、以下のような特徴がある。
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著名な文章読本などに引用・言及されている作品に限定した
- 当代の読み巧者とされる人が、なんらかの意味で優れた文体もしくは典型的な文体で書かれていると認定した作品だけを収録している
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発表年順に年表形式で並べた
- 作品同士の影響関係や、社会情勢・国語政策などとの影響関係がわかりやすくなっている
- 著作権が切れている作品については、インターネット上のフリーで入手できるテキストにできるかぎりリンクを張った
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- 作品名だけの文学史年表と異なり、実際の文体をその場で確認できる
興味のある方は、こちらのリンクをクリックしてみてほしい。
これを作ってみて思ったのは、言文一致体というのは、長い歴史があるような気がしていたけど、実際には思ったより短期間で完成したらしいということ。
いろんな見方があるとは思うが、この表を見た限りでは、大正 1~5 年くらいには、ほぼ現在の言文一致体の基本は完成したと言ってもよいのではないだろうか。この時期に、森鴎外や夏目漱石は「渋江抽斎」や「明暗」で自らの文体を完成させ、新世代の文体の使い手である谷崎潤一郎・芥川龍之介・志賀直哉も登場している。その後の新感覚派とかになると、もう既存の文体を破壊する方向に向かっている。
そこから、自然主義の開祖的存在である国木田独歩まで遡っても約 20 年、言文一致体の開祖と言われる二葉亭四迷まで遡っても 30 年程度である。30 年というと短期間とは感じない人もいるかもしれないが、日本語の歴史が数千年もあることに比べれば一瞬だし、人間の寿命と比較しても一世代でじゅうぶん体験できる範囲だ。
山崎正和氏も書いていたけれど、言語というのは不思議なものだ。言語が通じるためには言葉を共有する必要があるから、言語にとってルールを維持することは不可欠だ。しかし、言語は社会の中の諸々を記述するための道具だから、社会の変化に合わせて常に変化していかなくては役にたたなくなる。つまり、言語を扱う際には保守性と革新性の両方が必要なのである。
そう考えれば、優れた文体を創造したいと願う者は、同時代の日本人に通じることだけを考えるのではなく、未来の日本人にまで通じるような言葉を書こうと努力すべきなのだろう。言うまでもないが、未来の日本人に通じさせるためには、現在の日本語の中から、一時的に流行している表現と未来に残る普遍性のある表現をより分ける必要がある。つまり、逆説的だが、新しいものを未来に伝えるためにこそ、単に流行を追うのとは一線を画す保守性が必要だということになる。言文一致体を作り出した先人たちの努力も、そういうものだったはずだ。
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