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伝記の美化について

 「その時歴史が動いた」の「板垣死すとも、自由は死せず~日本に国会を誕生させた不朽の名言~」を NHK オンデマンドで観たのだが、観終わったら、なんか笑っちゃうぐらい索漠とした気分になってしまった。

 だって、美化しようとしすぎなんだもん。

 そもそも、板垣の人生自体そんなにドラマがないらしい。征韓論に敗れて下野した後は、政治結社作ったり地道に啓蒙活動や講演活動したりしてるだけ。だから、この番組をいくら見ていても、板垣の名台詞や劇的な行動なんて一つも出てこない。

 そんな中で唯一劇的と言えるのが、暴漢に襲われたときに言った「板垣死すとも、自由は死せず」という名台詞だ。でも、実はその事件でも板垣は死んでない。重症を負っただけで一命をとりとめたのである。もちろん、人の死を願っているわけではないが、ドラマとしてはなんとなくしまらない結末であることは否定できない。

 この回を観ていると、そんな盛り上がりのない板垣の人生を、なんとか劇的な話に仕立てようとする製作側の必死の努力が伝わってきて、痛々しいほどである。今日の「その時」の感動的な後日談をエンディングのところで紹介するのがこの番組のお約束だが、この回で紹介されたのは、板垣が療養に行ったら横断幕を掲げて待っていたみたいな実にショボイ話。つまり、そんな話ぐらいしかネタが見つからないほど、盛り上がりのない人生だったということだろう。

 もちろん、人生にドラマが少なかったり、劇的な行動や名台詞がなかったりしたからと言って、板垣が悪いわけではないし、本人の人間としての評価が下がるわけでもない。ただ、もともと劇的でないものを、テレビ的な都合で無理に劇的に演出しようとするから、観てるほうはなんかシラケてしまうだけである。

 さらに気になるのは、板垣に対する批判的な視点がまるでないということ。自由民権運動だって、自由という崇高な理想を目指すという建前以外に、薩長閥との権力闘争みたいな面がないわけはない。また、板垣が国会開設に果たした役割だって、どの程度のものだったかよくわからない。国会が開かれるのは時代の必然という面だってあろう。

 この番組の場合、そういう板垣に対する批判的な視点からの論評がなく、ひたすら板垣が偉い人のように描かれているので、かえってウソ臭く感じてしまうという面も否定できない。

 ぼくはこの番組を観て、偉人の伝記を美化することの是非について考えてしまった。この番組は、「子供に見せたい番組」みたいなアンケートだと決まって上位にランキングされる番組なので、お子さん方もたくさん観ているのだろう。だからこそ、サンタクロースの存在については子供にウソをつくことが許されるように、多少はキレイ事であっても許されるという考え方なのかもしれない。

 しかし、ぼくはそういう考え方に少し疑問を抱きつつある。ロールモデルとして偉人を求めるというのは、子供の普遍的な心理のように一般には思われがちだが、ちゃんとした学問的根拠があるのだろうか。ひょっとしたら、近代固有の時代精神の産物ということはないであろうか、などと思ったりもするのである。

 今はどうか知らないけど、ぼくらが子供だった時代に、子供向けの伝記の主人公として人気があった人物に、野口英世がいる。知っている人は知っていると思うが、この野口という人は、実は、借金魔で酒好き女好きの相当だらしない人物だった。なにせ、留学のためにみんなが集めてくれた金を、全部遊びに使い果たして留学できなくなりそうになり、ある人物に泣きついて金を出してもらったという、ちょっと呆れてしまうようなエピソードもある人なのである。

 この話をぼくに教えてくれたのは、星新一氏の「明治の人物誌」という本だった。たぶん、読んだのはまだ未成年の頃だったと思うが、そんな影の面を知ったからといって、ただちに野口英世に幻滅したり大嫌いになったりしたかというと、そんなことはなかった。むしろ、人間味があって面白い人だと思った。

 もちろん、これだけの根拠で結論に飛びつく気はないが、ぼくはやはり、子供にもできるだけ真実を伝えるにこしたことはないような気がしてならない。なんだか、いつの間にかリビジョニスト批判みたいな結論になっているが、特にそういう意図があるわけではない。まったくないわけでもないが。

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