退廃芸術
退廃芸術(たいはいげいじゅつ、独:Entartete Kunst, 英:degenerate art)とは、ナチスが近代美術を、道徳的・人種的に堕落したもので、ドイツの社会や民族感情を害するものであるとして禁止するために打ち出した芸術観である。
ナチスは「退廃した」近代美術に代わり、ロマン主義的写実主義に即した英雄的で健康的な芸術、より分かりやすく因習的なスタイルの芸術を「大ドイツ芸術展」などを通じて公認芸術として賞賛した。これらの公認芸術を通してドイツ民族を賛美し、危機にある民族のモラルを国民に改めて示そうとした。一方近代美術は、ユダヤ人やスラブ人など「東方の人種的に劣った血統」の芸術家たちが、都市生活の悪影響による病気のため古典的な美の規範から逸脱し、ありのままの自然や事実をゆがめて作った有害ながらくたと非難された。
近代芸術家らは芸術院や教職など公式な立場から追われ、ドイツ全国の美術館から作品が押収されて「退廃芸術展」など全国の展覧会で晒し者にされ、多くの芸術家がドイツ国外に逃れた。一方公認芸術は、「人種的に純粋な」芸術家たちが作る、人種的に純粋な「北方民族」的な芸術であり、人間観や社会観や描写のスタイルに歪曲や腐敗のない健康な芸術とされたが、その実態は農村の大家族や生活風景、北方人種的な裸体像が主流の、19世紀の因習的な絵画・彫刻の焼き直しにすぎなかった。
皮肉なことに、近代芸術を身体的・精神的な病気の表れである「退廃」だと論じる理論を構築した人物は、マックス・ノルダウというユダヤ人知識人であった。
ノルダウはこの理論を疑似科学的な根拠として用いながら、「世紀末芸術」や「世紀末」的文化状況の「倫理的堕落」に対して幾分俗物的な立場からの批判を行った。ノルダウはロンブローゾの理論に基づき、近代の芸術家もまたロンブローゾのいう「生来的犯罪人」同様、原始からの隔世遺伝的な退廃に冒され、身体的・精神的な異常を抱えていると断言した。彼にすれば、音楽、詩、文学、視覚芸術などあらゆる形式の近代芸術には、精神的不調と堕落の症状が現れていると見えた。近代芸術家たちは身体の疲労と神経の興奮の両方に苦しめられているため、すべての近代芸術は規律や風紀を欠き、首尾一貫した内容がなくなっているとした。ノルダウは特に印象派絵画、フランス文学の象徴主義、イギリス文学の唯美主義に攻撃を集中した。象徴主義の中の神秘主義思想は精神病理学的な産物であり、印象派画家のペインタリネス(絵画表面のありよう)は視覚皮質の病気の兆候とされた。
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