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細野晴臣はエレクトロニカを予見していた

  最近ちょっと、12k の音楽を集中的に聴いている。12k というのは、Taylor Deupree というアメリカ人アーティストの主催するエレクトロニカ・レーベル。エレクトロニカのレーベルとしては、ドイツの Raster-Noton と双璧という感じだ。でも、作る音楽の傾向は微妙に異なっている。

 Raster-Noton のアーティストは、いかにもグリッチという感じのパルス音を全面に出した音楽を作る傾向がある。さすが、あのクラフトワークを生んだドイツという感じだ。

 一方、12k のアーティストは、同じエレクトロニカでも、よりアンビエント寄りの音楽を作る傾向がある。したがって、カジュアルなリスナーにもとっつきやすそうだ。SawakomoskitooFourcolorMinamo など、日本人アーティストが多いのも特徴。その上、J-POP を専門に扱う HAPPY というサブレーベルまで持っていて、こちらには Piana Gutevolk なども所属している。そのへんを考えると、エレクトロニカというジャンルになじみの少ない日本の方にもお勧めできるレーベルではないかと思う。

フィルハーモニー さて、その 12k に代表されるアンビエント・エレクトロニカ的な音楽を聴いているうちに、同じような音を、昔どっかで聴いたことがあるのに気がついた。それが何を隠そう、この細野晴臣御大の「フィルハーモニー」というアルバムに収録されている「お誕生会」という曲なのである。

 一聴して気づくのは、音色の選び方。どのようにして作ったのかは不明だが、グリッチ的なノイズがすでに使われている。それだけではない。サンプリング音の音色も、ささやき声、咳払いの音、コインが机の上に落ちたときのような音など、いかにもエレクトロニカ的な選び方なのである。さらに、リバーブのかかっていないデッドな音ばかりなのもエレクトロニカと共通する。

 エレクトロニカの音使いには、グリッチのような無機的な音はできるだけ有機的に使い、サンプリング音のような具体的な音は逆に脱文脈化して抽象的に使うという、一見すると相反する二つの方向性があると思っているのだが、細野さんは、1982 年の時点で、すでにその美学にかなり近いところまで接近していると思う。

 もちろん当時は、現在のようなハードディスク・レコーディングノンリニア編集の機材などもなければ(と書いてから調べてみたら、フェアライト CMI シンクラヴィアはすでに市場に出ていたようなので、まったく存在しないと書いてはウソになりますね。正確には、現在のようなパソコン用の商品としては存在しなかったし、音質も 1982 年の時点では 8bit だったりモノラルだったりしたということですね。おわびして訂正)、MAX/MSP SuperCollider のようなソフトもなかった。ちなみに、エレクトロニカの分野を開拓した記念碑的な作品とされる Oval Systemische は 1994 年、Pan Sonic Vakio は 1995 年のアルバムである。

 リバーブを使わないのも、現在ではさほど珍しくないと思うかもしれないが、当時はむしろリバーブを使う方が当たり前であった。それも多分、サンプリング音というものが、基本的に具体音の代わりだと思われていたからだろう。具体音ならばリバーブがかかっている方がリアルと考えるのが普通の感覚だ。つまり、リバーブをかけないことも脱構築・脱文脈化の一環なのである。

  そもそもこのアルバムは、YMO の結成以後、細野さんが初めて出したソロアルバム。当時、発売されたばかりの、イミュレータというサンプラーを徹底的に活用していることで話題となった作品だ。また音楽のスタイルとしても、トロピカル三部作などに特徴的なエスニック・エキゾティシズムの路線から一転して、ミニマリズムを追求した作品となっている。これは実は、「エキゾチックな音楽をコンピュータとディスコで」という YMO 初期のコンセプトとも異質であり、YMO から細野さんのファンになったぼくなども、正直当時は何がいいのかよくわからず、かなり戸惑わされた作品でもあった。 

 そういう実験的なアルバムの中でも、「お誕生会」という曲は、かなり異色の作品だった。いかにミニマルとは言え、他の曲には一応わかりやすいメロディやリズムがあり、聴きやすいところもあるのだが、この曲にはメロディらしいメロディもなく、ギクシャクしたリズムにのってノイズやサンプリング音が並べられているだけ。にもかかわらず、妙に耳に残る作品で、ぼくはこの曲ばかりループさせて聴いていた記憶がある。それも、この曲に時代のはるか先を行く美学があったからではないだろうかと、今にして思う。

 テクノとエレクトロニカは、一見すると似たような音楽スタイルに見えるかもしれないが、ぼくはこの両者は、ある意味正反対の美学を持ったスタイルだと思っている。そう考えると、テクノ・ムーブメントの真っ只中にいた細野さんが、すでにエレクトロニカ的な作品を作っていたという事実は、もっと強調されてよい。やはり、細野晴臣という人は、偉大な音楽家なのだと改めて思う。

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