2ちゃんねると仮差押え
知っている人は知っていると思いますが、現在あの「2ちゃんねる」について、差し押さえ・破産申し立て騒動が起きています。
この騒動についての報道は、なぜか、ほとんどがフジサンケイでやっている ZAKZAK というサイトからのものです(同じグループのリアルの新聞である「夕刊フジ」にも掲載されているらしいが、こちらは未読)。 その主な記事は以下の通り。
- ユーザーショック…2ちゃんねる、再来週にも強制執行
- “閉鎖騒動”2ちゃんねる、史上最大のネット暴動
- 2Ch管理人に破産申し立て…35歳被害者が手続き
- 2ちゃんねる断末魔、お粗末抗弁…ひろゆき勘違い問答
この 4 の記事では、ひろゆきの「差し押さえというのは債権額だけが対象なのだから、全財産が差し押さえというのはおかしい」という言葉が紹介され、それに対して ZAKZAK が「ひろゆきは差し押さえと仮差押えの違いもわかっていない」というような反論を掲載しています。ぼくは ひろゆきに味方する気もないですし、ZAKZAK さんに他意があるわけでもないのですが、この記事は少々変だと思いました。
実は、ぼくは仮差押えというものを実際に申請してみたことがあって、そのときにかなりいろんな本を読んで勉強したので、仮差押えについては、専門家とはとうてい言えないにしても、一般の方よりは多少詳しいつもりです。
この記事に書いてある「動産の場合、仮差し押さえ対象の特定は不要だ。西村氏は不動産がないとされるため、結果的に仮差し押さえ命令が下りれば、対象は西村氏の全財産に及ぶことになるのだ。」というのは確かに間違いではありません。
ただそれは、差押えの申し立てのときに、どの財産とどの財産を差押えるかをいちいち指定しなくてよい、というだけのことで、実際には「動産仮差押命令の執行申立書」にはちゃんと「請求金額」を書かなくてはなりませんし、強制執行の時には、執行官はその金額に合わせて適当に差押え物件を見繕うわけで、有無を言わせず全財産根こそぎ持っていくわけでわありません。
ですから、「全財産が対象になる」とは言えても、1の記事のように「全財産が仮差し押さえされる」というのはやはり言い過ぎでしょう。もちろん、ひろゆき氏の所有する動産が差し押さえ請求額より少なければ、結果的にそのすべてが差押えられるということはあり得ますが、ひろゆき氏の財産が動産だけとは考えられないので、やはり「全財産」という表現は誇大表現のそしりを免れないでしょう。
ついでに言えば、4 の記事では「そもそも「閉鎖」という憶測は2Chなどネット上で喧伝されたもので、夕刊フジ(13日付)報道では閉鎖について一切言及していない。」と言っていますが、1 の記事では「執行されれば掲示板の機能が一時停止するのは必至だ」などと書いているのですから、一字一句正確ではないとしても、「『2ちゃんねる閉鎖』って書」いていないというのは少々無理な抗弁ではないでしょうか。
あと、仮差押えの場合には、正式の差し押さえと違って、保証金を供託しなくちゃならないんですよね。これは、疎明(強制執行が正当であることの大雑把な証明。仮差押えは、正式な裁判を経ないで行われるので、疎な証明、すなわち疎明と呼ばれる)の信憑性にもよりますが、差し押さえ債権額の二割程度が相場だと言われています。だから、請求金額が 500 万円なら、100 万円ぐらいの保証金を積み立てなきゃいけないんです。
だから、仮差押えって実際にやると結構大変なんですよ (^^)。その上、あっちこっち飛び回って疎明のための資料を集めなきゃならないし(登記なんて1枚謄本とるだけで千円とかとられるんだよ)裁判所の職員に書類の不備をネチネチいびられたりするしさ (^^)。ぼくももっと簡単だったらいいと思うんですけどねえ。
しかし、フジサンケイの人は、よっぽど2ちゃんねるが嫌いなんでしょうね。この記事の書き方も、ひろゆきの挑発に対してかなりムキになっている様子がうかがえますよね (^^)。
もちろん、ぼくも2ちゃんねるは決して好きではありませんが、そういう好みの問題だけで言えば、たいして公共性もないような芸能人や一般市民のプライバシーを暴き立てて金を稼いでいるイエロージャーナリズムだって決して好きではないのであって、ぼくのような第三者から見れば、どっちもどっちだという気もしないでもありません。
イエロージャーナリズムにたずさわっている方々は、われわれは匿名で書き込んでいる2ちゃんねらーのように無責任ではない、と言うかもしれないけれど、その手のメディアで記者の実名で記事が書かれていることはほとんどないし、実際に名誉毀損などで裁判になったときに慰謝料を払うのも、記者個人ではなく出版社や新聞社で、その慰謝料だって販売部数の増加による利益でチャラになってたりするわけじゃないですか。だから、そんなに偉そうに言える立場なのかなあ、という気もしますけどね。
まあでも、仮差押えとかごちゃごちゃやってさんざ苦労した人間の立場からすれば、「払わせる法律がないから払わなくていい」みたいなひろゆきの発言は言語道断で許しがたいのは確か。だから、これでも基本的には訴えた側を支持しているんです。ただ、こういう記事を書く人があんまりムキになると返って墓穴を掘ると思うんで、ちょっと指摘させていただいた次第。
参考文献:「仮差押実務の手引き」二瓶修著
| 固定リンク
「パソコン・インターネット」カテゴリの記事
- Bloggerにお引越し(2019.07.03)
- WordPress じゃなくて Drupal(2015.10.10)
- 「闇ネットの住人たち」準公式サイト暫定公開(2015.10.09)
- Amazon EC2 インスタンスの CPU 消費が 6 時間おきに 100% になる現象の犯人が Webmin だった件(2014.01.08)
- 野見祐二の「ヘルベチカ・スタンダード」を Sinsy と CeVIO に歌わせてみた(2013.07.14)
「ニュース」カテゴリの記事
- 「ハウス・オブ・カード」にでてくる実在キャスター一覧(2016.12.23)
- 大統領令「ジョン・スチュワートは番組を辞めてはいけない」(2015.07.23)
- 統一球大喜利(2013.06.13)
- 内なるキリスト教徒(2011.12.11)
- 愛国心の欠如の自覚(2011.08.05)
「ジャーナリズム」カテゴリの記事
- 「ハウス・オブ・カード」にでてくる実在キャスター一覧(2016.12.23)
- 情報ゲームの錬金術に溺れるマスコミ(2010.05.02)
- 爆発音がした(2009.05.07)
- バグはゲーテルの定理のせい?(2008.03.27)
- ウ○コは美しいか?(2008.03.01)