ごめんよ、ジョージ・クルーニー
ちょっと古い記事だけど、ガーディアンはワシントン・ポストとほとんど正反対のこと言ってますね。
(この表題はもちとん、「ダルフールに最終的に必要なのは西側の軍隊だ」ではなくて「ダルフールに西側の軍隊を送るのは最後の手段だ」ってことですね (^^)。)
The Guardian
19 Sep 2006
スーダンの西部地方にあるダルフールに国連軍を送り込むことを求める、最近の運動の盛り上がりの周囲には、偽善とは言わないまでも、非現実的な雰囲気が漂っている。俳優ジョージ・クルーニーは、国連の安全保障理事会の壇上に上がり行動を訴えた。トニー・ブレアも、この問題に飛びついて他の EU 指導者に手紙を出した。世界の多くの都市では、迫りくる大量虐殺を警告する抗議団体によって、「世界ダルフールの日」が開催された。けれども、イラクやアフガニスタンへの介入によって痛い目に合った西側の政府が、またさらに別のイスラム国家に対して軍事力を行使するなどということが、本当に可能だろうか。
西側の団体は、ハルツーム政権を転覆させる運動を長いこと続けてきた。アメリカのキリスト教右派や親イスラエル派の人々は、この政権をイスラム原理主義政権であると主張していた。人権擁護運動家は、奴隷制の問題をとりあげ、アラブ人の略奪者は、政府の支援を受けながら、日常的にアフリカ人を誘拐して、生きた所有物として利用していることを示唆していた。クリントン政権は、かつてウサマ・ビンラディンがそこに住んでいたという理由で、スーダンをテロ支援国家として挙げていた。
このような背景に鑑みれば、3 年前にダルフールで内戦が勃発したときに、公平な報道を期待することは最初から困難であった。この地域には、さまざまな部族や地域の対立が渦巻き、政府側に立つ者と反政府側に立つ者が入り混じっているにもかかわらず、農民と遊牧民とを敵対関係に追い込んだ不平不満は、アラブ人対アフリカ人という単純すぎる図式で紹介されたのである。
非対称の戦争でありがちなように、反乱軍の攻撃に対するスーダン政府の実力行使が、過剰反応だったことは確かである。ハルツームによって組織され武装された、ジャンジャウィードと呼ばれる民兵組織は、一般市民とゲリラ戦士の区別をしなかった。彼らは、小屋を燃やし、女性を犯し、何万もの一般市民をチャド国境の外側やダルフール内の難民キャンプに強制的に追いやった。けれども、実際には反乱軍も残虐行為を行っていたのである。この事実は、編集者の多くが好む白黒はっきしりた単純な倫理観を揺るがすので、ほとんど報告されていないが。
多くの戦争では、政府側は情報操作を行い、メディアは真実を追究する(ことが多い)。ところが、ダルフール問題についてはこの逆であり、各国政府の方がより真実をつかんでいるのに、メディアが情報操作を行ったのだ。ダルフールでの殺人を大量虐殺として描こうとする努力にもかかわらず、この説には国連も EU も同調しなかった。これは、彼らの道徳的な視野が狭いためではなく、残虐な内戦と、意図的な民族浄化政策の違いを理解していたからだ。ダルフールは、ルワンダではないのだ。アメリカだけは、この大量虐殺説を受け入れたようだが、それは、説得されたというより国内のロビー運動に譲歩しただけだろう。国際法のもとでダルフールに強制的に介入するには、実際に大量虐殺が発覚することが必要なので、ワシントンが実際に介入に乗り出すことは決してなかった。
その代わり、アメリカは、西側政府がアフリカ連合(AU)にハルツームと反乱軍の間の和平会談を仲介させることを支援した。この努力は、5 月に作成された、ジャンジャウィードが反乱軍より先に武装解除するという合意に実を結んだ。この合意はさらに、反乱軍の指導者たちに、この地域を自ら統治する権限を与えていた。なのになんということか、反乱軍うち 2 つのグループは、この調印を拒んだのである。したがって、公平なレポートはすべて、この夏の戦争再燃の責任のほとんどは、政治指導者がエリトレアの首都アスマラの安全地帯で口げんかをしている間に、戦場指令官が派閥に分裂してしまった反乱軍の方にあるとしている。
彼らが、和平協定の条件が不十分だったと主張することには、正当な理由があるかもしれない。難民家族の中には、ハルツームは金銭的な補償を払うべきだと言う者もいる。また、この和平協定には強制手段がないので、村に戻って再建しようとする人々を守ることができないだろうと言う者もいる。しかし、正しい対応は、戦争を再開することではなく、さらに対話を続けることである。アフリカや西側の外交家は、反乱軍に再考を求めようとしているが、反乱軍同士の確執にうんざりしている。ダルフールについてのブレアの手紙にしても、ほとんどのメディアが事態を一方的にしか見ようとしていないにもかかわらず、反乱軍とハルツームの両方に圧力をかけること求めるように注意を払っている。
ダルフールに国際平和監視団を派遣して、キャンプの避難民を保護することは不可欠であった。 2 年前、ハルツーム政府はこれを受け入れ、AU が 7,000人の軍隊を配備することを認めた。けれども、今年の初めになって、AU は資金やヘリコプターその他の装備不足のため、西側政府と歩調を合わせて、国連に主導権を引き継ぐことを求めるようになった。これこそが、今現在、議論すべき点である。西側でスーダンに軍隊を派遣したい国など、どこにもないのだ。レバノンへの国連軍の増援が行われるまでには何週もかかったし、アフガニスタンでは、NATO 諸国のほとんどが、失敗しつつある戦争に軍隊を送ることを躊躇している。実際には、たとえ国連軍を送ったとしても、現在の AU 軍にインドやバングラデシュあたりからの増援を加えただけのものになるだろう。
つまり、国連介入を求めて騒いでいる者たちが実際に論じているのは、バッチを付け替えることに過ぎないのである。AU の軍隊にアフリカの問題を処理させることには、象徴的、文化的、政治的な価値がある。アフリカ各国政府は能力以上の負担を強いられているが、国連には、部隊を派遣した政府に助成金を出すための確立されたシステムがある。皮肉なことに、アメリカは強硬な措置を求めているにもかかわらず、ブッシュによる AU への資金提供の要請を拒絶したのは米議会であった。
残虐行為に関与した罪で、国際法廷にスーダンの指導者たちを告発するという試みについてはどうだろうか。スーダンの大統領オマル・アル・バシールが、国連軍の派遣を阻止した理由の一つは、自分の逮捕を恐れたからだと言われている。オマル大統領は、たとえ国連軍の 9 割がアフリカ人だったとしても、その中に、自分とダルフール出身の副大統領を捉えよという西側の命を受けた逮捕部隊が含まれている可能性があると考えるかもしれない。そのため、ハルツームに国連軍の受け入れを求めた先日の安全保障理事会の決議では、国際裁判に言及することを注意深く避けているし、先週の EU 声明もまた同様である。
実際には、今週の国連協議の結論は、現在のアフリカ連合軍でも新しい国連軍でもなく、その中間の妥協案になる可能性がある。その結果、アフリカ人が指揮する AU 軍であるが、国連の委任を受け安全保障理事会に対する責任を持つ部隊になるかもしれない。その派遣部隊にはアフリカ人以外の人が含まれるかもしれないが、その権限は現在のものとほとんど変わらないものになるだろう。これは、たった数日の奮闘の結果としては、賢明な結論であろう。
もちろん、疑念は至る所に残っている。ハルツーム政権はアメリカに裏切られたと感じているだろう。ハルツームでは、イスラム法を無視して南部の分離独立のための住民投票を行うという和平協定が実現すれば、アメリカの制裁が解かれるだろうと期待していた。なぜなら、その結果できた新政府は挙国一致の政府であり、その中には南部のキリスト教徒や非イスラム教徒も含まれているので、ハルツームが原理主義者やイスラム教徒の政権ではないことを証明することができるだろうと思っていたからだ。テロリズムに関しては、この 10 年の間、ワシントンは何の証拠も提示できていない。
その間も、ハルツーム政府は、反乱軍の村に対する無差別爆撃や過度の実力行使をやめていないと、ハルツーム・ウォッチャーの多くは疑っている。けれども、AU であろうが国連であろうが、外国の平和維持軍が、ダルフールの広大な地形全体を監視することは不可能である。スーダンの司令官たちの規律は、スーダン政府自身が維持する必要があるのだ。とは言え、AU 軍を拡大するという折衷案は、国連軍という名前になるかどうかにかわらわず、最善の選択肢である。「何かしなくては」派は怒るだろうが、スーダンにハルツームの同意なしで外国の軍隊を派遣すれば、悲惨以外のなにものでもない結果になるだろう。
きりのいいところがなかったので、全訳になってしまった (^^)。ガーディアンは、実際には一方的な虐殺ではなく内戦なのだと言ってますね。まあ、ぼくなんかもダルフールについて知ったのは BBC とかだったりするから、マスコミにバイアスがかかっていると言われると、とくに反論できる材料はないんだよね (^^)。まあ、いろいろ情報をつき合わせて分析した方がよいんでしょうね、こういう問題は。
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