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愛動物心、あるいは、公然動物虐待

 文芸春秋に呉智英氏の坂東「子猫殺し」眞砂子擁護論が載っているという噂をきいて、たまたまコンビニに文芸春秋が置いてあったのでそこだけ立ち読みしてみたら、ぼくの「続々・子猫殺し」と同じく動物裁判の話をネタにしていたので少々冷や汗が出た。もちろん、ぼくがパクったわけではまったくない。確認したわけではないが、おそらく、書いた日付はぼくの方が先だと思う。当然、呉氏がこんなブログを読んでいるわけもないので、単なる偶然の一致であろう。

 もっとも、内容的には、特に新しい論点が出ているわけではなかった。1.あくまで人間の都合として考えるのが原則、2.動物の権利=獣権には無理がある、というのが主な論点で、現行の動物愛護法の理念に疑念を呈しているが、おおむねぼくも賛成である。

 これに対して、現行の動物愛護法は、動物の権利など主張しておらず、それこそ人間の都合そのものではないか、という反論をしていた人がいたので、ぼくも改めて動物愛護法の条文をチェックしてみた。

第1章 総則

(目的)

第1条 この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする。

 つまり、動物愛護の気風を育てれば、生命尊重や平和に結びつくので、人間のためにもなるという主張らしいのだが、この主張、何かに似ていないだろうか。

 そう、これは文字通り、愛国心ならぬ「愛動物心」のススメなのである。愛国心論争においては、愛国心自体が悪いわけではないが、愛国心を強制することはできないとか、何が愛国心のある行為かは他人が勝手に決められないという主張が多かったはずだが、「愛動物心」になると、愛動物心のない行為を他人が勝手に定義して罰則付きの法律で強制することにも抵抗はないのだろうか。

 この問題は、猥褻法の議論にも少し似ていると思う。猥褻法の議論でも、「確かに公然猥褻は多くの人にとって不快かもしれないが、だからといって刑法で罰する必要はない」という主張があったはずである。 同じように、動物の虐待が多くの人にとって不快だからといって、法律で禁ずる必要があるとは限らない。仮に禁ずるとしたって、行為自体を禁ずるのではなく、そういう行為を見たくない人が見なくてすむ権利さえ守られれば十分なのではないか。

 公然猥褻を刑法で罰しないという主張の根拠となるのは、被害者がいないことである。そして、動物の権利を認めないという前提に立てば、自分の飼っている動物の虐待にも、直接の被害者はいない。強いて被害者を挙げれば、見て不快に思う第三者ということになるが、その権利を守ることだけが目的なら、行為自体を禁ずる必要はないのである。

 繰り返しになるが、坂東氏のやったことは、たとえて言えば、

「人間はみなセ○○スをしなければ生きていけないのに、現代人はみな人前では○器を隠して暮らしている。しかしわたしは、自分がセ○○スをしているという事実から目をそむけないために、堂々と○器をさらけ出して歩くことにしている」

とか

「人間はみなウ○コをしなければ生きていけないのに、現代人はみな人前では自分はウ○コなんかしないというような顔をして暮らしている。しかしわたしは、自分がウ○コをするという事実から目をそむけないために、毎日自分のしたウ○コを皿にのせてナイフで切って断面を観察することにしている(注)」

というような主張を新聞に載せるようなものである。もちろん、部分的には真実を含んでいるが、一読して不快であり、全体として多くの人が共感し説得されるとはとても思えない主張である。したがって、こういう主張を新聞に載せたこと自体は愚かなこととしか言いようがない。

 ただ、しつこいようだが、だからといって、そういう行為を法律で禁ずる必要があるかというのは、また別の話だと思うのである。

 猥褻を法律で禁じた結果日本で起こったのは、猥褻概念の形骸化であり、法律にさえ違反していなければなんでもありという性的モラルのさらなる退廃ではなかったか。愛国心を強制した結果戦前の日本に起こったのは、愛国心の形骸化と、危険なファナティズムの蔓延ではなかったか。愛動物心の強制や公然動物虐待の禁止が、同じような自体を招くことは、真の動物好きの方々にとってすら本意ではないはずである。

注: 筒井康隆氏は、「最高級有機質肥料」という小説を書くために実際にこういうことをしたらしい。ファンの間では有名なエピソードである。

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