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歴史と理論の関係についてのちょっとした考察

 若者は歴史を憎む、みたいな言い方があります。若者は年寄りに比べて歴史を知らないし、経験も少ない。したがって、経験や古い知識について年寄りと競っても、圧倒的に分が悪い。だからこそ、若者は年寄りが知らない新しいものを好むのだと。

 もちろん、これついては逆のことも言えて、年寄りは、新しい知識について若者と競ってもアドバンテージがない、むしろ、体力がない分不利である。だからこそ、年寄りは若者に対してアドバンテージを誇れる歴史を好むのだと。

 まあ、こういう言い方はどちらも一面的であって、ほんとうは、歴史を知るためにも新しい知識は必要ですし、新しい知識を知るためにも歴史は必要である、というのが正しいのでしょう。

 実は今、岩田規久男さんの「日本経済を学ぶ」という本を読んでいます。この本は、それこそ日本経済の歴史を、最新の経済理論でブラッシュアップするというような本なのですが、その中に、ちょっと面白い例がありました。

 よく、日本の会社は株主を軽視しているといわれますが、岩田さんは、必ずしもそうではなかったのではないか、というのです。なぜかというと、実は、高度成長期の日本の株価は、平均すれば年率 17% で上昇していた。したがって、株主は、インカムゲインは少なくても、キャピタルゲインで見れば十分に報われていた。株主を軽視するというのは、あくまで現場の経営者の主観にすぎない、というものです。

 この仮説の妥当性についてはここでは論じないとして、ここで言いたいのは、実は、こういう仮説は、ただ漫然と歴史を見直すだけでは出てこないということです。

 なぜかというと、そもそも、昔の株価理論では、株価は配当利回りと金利の裁定で決まる、言い換えれば、株価は配当利回りが金利に一致するような水準に収束すると言われていました。したがって、インカムゲインは少なくても、キャピタルゲインは多いというような現象は、理論的にはあり得ない話で、株主に価値を還元するには、配当利回りを増やすしかない。

 現に、昔の奥村宏さんの本とかはそういう感じで書いてあって、日本の会社は配当利回りが低いにも関わらず、株式の持ち合いによる高株価経営でどんどん株価が上がっている。これこそがまさに法人資本主義の異常性の現れであって、それを打破するためには、日本の会社はもっと配当率を上げて株主に価値を還元しなくてはならない、みたいなことが言われていたわけです。

(今奥村さんの本が手元にないので、このへんは記憶だけで書いてます。もし誤った表現があれば、お知らせいただければ幸いです。)

 ところが、最近のファイナンス理論では、余剰利益を配当として株主に還元せずに内部留保したとしても、その分株価が上がるはずなので、株主の損得には関係ない、ということになり、株価を評価する指標としても、配当利回りよりも PER が重視されるようになりました。この岩田さんのような仮説は、そういう理論をふまえたときに、初めて意味を持ってくるわけです。

 つまり、歴史というのは、まず最初は、同時代の人間の記録を元に導き出されるわけですが、言うまでもないく、同時代の人間が主観的に認識している世界というのが、本当にその時代の「真の姿」を映しているとは限らないわけですね。だから、歴史というのは、常に最新の理論をふまえた上で見直されなければならないのでしょう。

 これは余談ですが、テレビとかで年配の評論家の方を見ると、もっと最新の経済学とか勉強すればいいのに、と思うことが少なくありません。おそらく、彼らの若い頃は、経済学を勉強するには「資本論」や「一般理論」を全巻読破しなくちゃいけなくて、しかも、そういう経済学は現場の役にはたたない、みたいなことが言われていた時代だったんだろうと思います。でも、今はもうそういう時代じゃない。ちょっと学部生向きの経済学のテキストでも読んでみれば、今の経済学が、単に難解さを競うだけで、現場の役にたたないような学問ではないことは、すぐわかるはずだと思うんですが (^^)。

追記: 別に、昭和天皇のメモについて含むところがあるわけではありません。たまたまのタイミングです。為念。(^^)

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