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PLUTO

PLUTO (1)  かの浦沢直樹さんが、手塚御大の鉄腕アトムの中の「地上最大のロボット」(「鉄腕アトム (13)」所収)というエピソードを元に描いた「PLUTO」。

  手塚原作の基本プロットは踏襲しているのですが、細部を微妙にずらしつつ、いろいろと思わせぶりな伏線を敷いてくるので、原作を知っている者にとっても、どこで原作を裏切ってくるのかという楽しみを与えてくれます。ぼくも原作を忘れかけていたので、eBookJapan で買って読み比べちゃいました。

  他にも、「日本人のモグリ医者」や「白いライオン」が出てきたり、ノース 2 号を雇った作曲家が曲を書いた映画が「月は無慈悲な夜の女王」だったり、「ルーズベルト」がテディ・ベアだったりと、いろいろとヲタク心をくすぐる仕掛けも満載です。

 ノース 2 号やブランドが「死」ぬときのエピソードなんかは、エンターテイナーとしての浦沢さんの力量が見事に発揮されていて、安心して泣かせてもらえます。また、差別主義者の描き方なんかも、うまいなあと感心させられます。

PLUTO (2) ビッグコミックス でも、この作品で一番魅力的なのは、なんといっても、ロボットたちの描き方だと思うんですね。古典的な SF でよくあったような、論理的な思考力はあっても情緒がわからない(^^)、みたいな描き方でもなく、かと言って、まったく人間と何が違うのかわからないような描き方でもなく、人間のように夢も見れば涙も流せば怒りもするけれども、どこか微妙に人間とは違う、みたいな感じをうまく描いていて、非常にリアルです。ロボットは本当は食事をする必要がないんだけど、人間のことをよりよく理解するために、あえて人間のマネをしている、なんていう設定もうまいですよね。

 まあ、ぼくは最近の SF をあまり読んでいないので、他のロボット描写の例をあまりよく知らないのですが、強いて言えば「ブレードランナー 」に近いでしょうか。もっとも、あれは厳密にはロボットじゃなくてレプリカントとかいうやつですけど。

PLUTO 3―鉄腕アトム「地上最大のロボット」より (3) こういうロボット像がぼくらの感性をゆさぶるのは、たぶん、ぼくら自身が人間としてのアイデンティティに不安を持っているからだと思うんですね。パソコンやインターネットやケータイに囲まれて暮らし、世の中でおこるさまざまな非人間的な事件や犯罪に接しながら、誰もが人間とはなんだろうと自問自答しているような時代。この作品は、そういうぼくらの心を、ときには癒し、ときにはいらだたせながら、人間とは何かと考えさせる力を持っています。 考えてみれば、手塚さんの鉄腕アトムも、まさにそういう作品でしたよね。

 ここまでのところでは、ゲジヒト刑事はどうやら人間を殺しているらしい、と読者に思わせるような伏線を張りまくっていますが、これをどう裏切ってくれるのか。今後の展開が楽しみです。

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