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日本語大シソーラス購入

日本語大シソーラス ~類語検索大辞典~  ダウンロード版の販売を待ちきれず、パッケージ版の「日本語大シソーラス」を購入。これこれ、これが欲しかったの。これでますます、仕事で書く文章と私的な文章との品格(この言葉最近流行っているようだから使ってみた(^^))格差が広がりそうな予感がします。

 もっとも、ぼくの場合は実務翻訳が中心なので、言葉を探すときにも、美文調の美しい表現とかうまい表現を探すことは少なくて、むしろ、同じことを言うのに最も平凡で紋切り型の言い回しはどれか、と考えることが多いのです。このへんが多分、出版翻訳を中心にやっている方との違いだと思うのね。

 これまでの翻訳論の著者は、出版翻訳に携わる人で、なおかつ、文芸翻訳を専門とする人が中心だったので、いかに美しい日本語を書くかみたいなところに力点があることが多いですよね。特に、柳瀬さんなんかは、手垢の付いた表現が大変おキライなように見受けられます。

 でも、実務翻訳では、こういう態度は必ずしも正しくありません。そもそも、文学的レトリックがなぜ必要かというと、日常言語では伝わりにくい、主観的な感覚や一回性の体験やを伝えるためですよね。そのために、言語の多義性を最大限に生かして、読み手の想像力を触発することが必要になる。

 けれども、実務的な文章では、むしろ、誰もが共有する知識から情報を組み立てて確実に伝えることの方が大事です。したがって、逆に多義性を最大限に抑制し、読み手に余計な想像力をはたらかせないようにする必要があります。そのために最も効果的なのが、実は「手垢のついた陳腐な表現」なのです。

 たとえば、コンピュータのマニュアルで「キーボードを押してください」と書くところと、「あなたを知の世界へ誘うチョコレートのような四角い物体を指先で味見してください」みたいなことを書いても、古舘さんのヘタクソなパロディ(ヘタクソなのはぼくにセンスがないせいだけど(^^))にしかなりません。こんな書き方では、余計な情報が多すぎて、本当に伝えたいことがぼやけてしまいますよね。

 あるいは、ここまで極端ではなくても、「キーボードを圧迫してください」と書いたって、別に間違っているわけではありません。けれども、このような表現も、耳慣れない表現であるという、まさにその理由だけで、読み手に余計なことを考えさせてしまうわけなのです。

 つまり、スローガン的に言えば、

  • 紋切り型の英語は紋切り型の日本語に訳すべし
  • 美文やレトリックは必ずしも善ならず

なのです。こういうことは、文芸翻訳家の書く翻訳論にはあまり書いてないので、実務翻訳者を目指す人のために、あえて書いておきます。

 余談ですが、amazon で見たこの本のレビューに、「語義の説明がないので、国語辞典がないと使い物にならない」みたいなことが書いてあったのを見たときには驚きましたね。

 あのさー、そういう類語辞典なら、今までもいっぱいあったわけよ。でも、ネイティブの文筆家が言葉を探すには、英語のシソーラス(いわゆるロジェのシソーラスね)みたいに、語義の説明なしで類義語がたくさん載っている方が役に立つわけ。だから、文筆家のあいだでは日本語シソーラス待望論みたいなのがあったの。それに初めて応えたのが本書だったから、本書は高く評価されたんですよ。

 こういう批評は、まるで、八百屋に魚が売ってないとケチをつけるようなもので、筒井康隆氏はこういう批評を「八百屋批評」と呼んでいました。まあ、議論が噛み合わないのは、たいてい、コンテキストの共有ができていないせいなんだけど、「八百屋批評」も広い意味ではそうですね。そういうのを、自分が非凡な感覚を持っているせいだとか、勘違いしないようにしたいものです。

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