お金で買えないものは確かにある。が…
(この一文は、食事中には読まないほうがよいかもしれません(^^))
何度か書きましたが、私は、「お金で買えるもの」と「お金で買えないもの」のどっちが大切だというのではなく、人間にとっては両方が必要であり、大事なのは、この両者の線引きだ、と思っています。
この問題については、金儲けに淫して、必要以上にお金を稼ぐ人を例にして考えられることが多いのですが、そういう人は社会のごく一部であり、そこだけ見ていては、かえって問題の本質を見失ってしまうと思います。
たとえば、ゴミの収集とか、公衆トイレの掃除とかを職業にしている方を考えてみましょう。ちょっと差別的に聞こえるかもしれませんが、ぼくは、彼らが、そういう仕事が本当に好きでやっているとは、あまり思えないんですね。
もちろん、やる以上はそれなりに仕事を楽しんでやっている方もたくさんいらっしゃるでしょう。でも、「分別していないゴミから手で汚物を掻き分るのが好きで好きでしょうがない」とか、「便器の壁にこびりついたウ○コをきれいにこそぎ落とせたときの快感がたまらない」みたいな人が、そんなにたくさんいるとは、ぼくにはどうしても思えないのです。
これはあくまで想像ですけど、彼らが仕事自体に生き甲斐を感じるとすれば、それは、仕事自体の内容が好きというよりも、あくまで、それが社会に役立っていると思うからこそではないでしょうか。だとすれば、ぼくは、そういう想いというのは、「自分の好きなことができればお金なんか要らない」みたいな太平楽なことをほざいてる奴の想いより、ずっとずっと尊いと思うのです。そして、そういう「社会にとって役に立っている」という感覚が、単なる自己満足に終わらないことを担保しているのは、やっぱりお金なんですね。あるいは、家族の生活を支え、何かを買ってあげて喜ぶ顔を見たいとか、自分の趣味にお金を投じたいというのが、主な理由だったりするかもしれません。それを担保しているのだって、やっぱりお金なのです。
矛盾するように聞こえるかもしれませんが、ぼく自身は、どっちかというと、「自分のやりたくないことをやるぐらいなら、お金なんかいらない」と考えがちな人間で、また、自由な社会の人間には、そういう生き方をする権利もあると思っていますが、少なくとも、それが偉いことだとはまったく思っていないのです。だって、それは自分のためなんだもん。
(ついでに言えば、こういう生き方が成立するのも、世の中に、必要以上に働いてお金を沢山稼ぐ人が存在してくれるからだということも、ちゃんとわきまえてるつもり。だから、総中流社会には反対しているのです。もっと、欲張りな、もとい、勤勉な人が沢山いてくれないと、私は困るのだ(^^)。)
やはり、働くということの原型は、人のために役に立つことをして、お金をもらうというところにあり、本当に好きだの適性だの自分探しだのというのは、余裕のある社会に暮らし、能力に余裕のある人だからこそ言える、一種のぜいたくだと思うのですね。(そういうことは、趣味でもできるのですからね)
要するに、金を儲けすぎてかえって生き甲斐を見失っている人も、金を儲けるだけなら簡単だから本当にやりたいことだけをやりたいとか思っている人も、社会全体から見れば恵まれた人なんであって、そのどっちの選択肢もない人だってたくさんいるんだ、ということを忘れてほしくないのです。
最近の風潮は、拝金主義だの何だの言われていますが、ぼくらの若い頃は、むしろ、「お金では買えないもの」が過度に持ち上げられた傾向があるので、その反動として、ある程度必要なことだったのではないかと今でも思っています。まあ、多少の行き過ぎはあるのかも知れないけど、そういうのは、何についてもあることですしね。
最近ではまた、逆の反動が起こって「お金では買えないもの」ということが言われ出しているようで、それはそれで間違ってはいませんが、少なくとも、「お金では買えないもの」を過度に美化したり、「お金で買えるもの」を過度に貶めたりすべきではないと思うのです。やっぱり、社会にとっては、「お金で買えるもの」も「お金で買えないもの」もどっちも必要なのですから。
もっと話そうよ 目前の明日の事も (「光」宇多田ヒカル)
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