« コントロールキーが効かない | トップページ | 健全なモダンは健全なポストモダンの下にこそ宿る »

Maxima

 Maxima という GPL の数式処理システムをインストールしてみましたが、なかなかよいです。数式処理システムは、前から欲しかったのですが、どれも高いので購入を躊躇していて、Mathematica の廉価版の Mathematica CalcCenter というのが出たので、買おうかなあと思っていた矢先。でも、とりあえずこれと gnuplot でいいかなあ(^^)。

 微積分の教科書に載ってる、不定積分の問題をいくつか打ち込んでみたら、

(%i5) integrate(x*sin(x),x);
(%o5)           sin(x) - x cos(x)

(%i8) integrate((x+a)^-1,x);
(%o8)       log(x + a)

(%i3) integrate(1/(x^2+a^2),x);
          x
        atan(-)
          a
(%o3) -------
           a

うーん、ちゃんとあってる!(当たり前か(^^))

 こういうものの存在を前提にすると、数学のカリキュラムも変わるでしょうね。しかもタダなんだから。

 こういうことを言うと、いや、自分の手を動かさないと本当の実力はつかないとかなんとかいう人が必ずいるんですけど、何にでもメリットとデメリットはあるんであって、うまくいいとこどりをすればいいだけの話だと思います。

 たとえば、昔の人は、三角関数の値なんかも、いちいち自分で計算してたりしたんだけど、今は、研究者も含めて、誰もそんなことはやろうとしないでしょう? だからと言って、そういう人がみな、本当の実力がないとは言えないでしょう。いや、面倒だからやらないだけで、やろうと思えばできるんだとか言う人もいるかも知れませんが、じゃあ、そういう人は、パソコンの浮動小数点ライブラリが、どうやって三角関数を計算しているか、本当に知っていますか?

 え、テイラー展開みたいな級数展開で計算するんだろうって? 大ハズレです。実際には、ほとんどが近似関数を使って計算しています。級数展開は収束が遅いので(特に、テイラー展開は中心から離れれば離れるほど収束が遅くなる)、意外と計算コストがかかるし、浮動小数点数は、計算する前から必要な有効桁数が決まっているので、近似関数の方が向いているのです。(詳しくは、たとえば「初等関数の数値計算」一松信著などを参照)

 まあ、ぼくはたまたま仕事がらみでそういうことを研究したから、こんなトリビアを知ってるわけですけど、理工系の研究者でも、こんなこと知らないで使っている人はたくさんいるでしょうし、だからといって、そういう人が即無能だとはいえないでしょう。もちろん、ぼく自身も、そういうことを勉強することによって、数学に対する理解が深まったとは感じています。でも、だれもがそうしなければ理解できないとも思わないし、同じ程度の理解をするために最も効率のよい方法だとも思えません。

 話がはちょっとそれますが、最近は、数学の本にしても経済学の本にしても、ぼくらの若い頃にくらべると、ずいぶんとわかりやすく親切な本が増えましたよね。でも、そういうのを見て、こんな本では本当の実力はつかない、という方もおられる。でも、そういう意見は、相対評価と絶対評価を混同した意見であって、事態の一面しか捉えていないと私は思います。

 もちろん、おっしゃるとおり、そういう本ばかりいくら読んでも、プロの研究者になれるような実力は身につかないでしょう。なぜなら、プロの研究者になるための実力というのは、どこまで言っても相対評価であって、世の中の平均からの偏差がどれだけ大きいかということが問題だからです。そういう意味では、こういう気難しい方の意見も正しい。

 でも、逆に言えば、世の中全体の平均の教養レベルというのは、絶対評価で捉えるべきものなので、そういう意味では、「わかりやすく親切な本」の存在は、確実に教養レベルを向上させるのです。そしてそれは、プロの研究者を育てるのとはまた別の価値があるはずです。

 たとえば、株式市場の投機化や企業価値と市場価格の乖離の問題にしても、多くの個人投資家が、最低でも DCF 法のようなバリュエーションの方法を理解していれば、かなり改善されると思うんですね。でも、この DCF 法をちゃんと理解するには、無限等比級数の総和の公式を知っている必要があります。もちろん、理科系の人なら常識みたいな公式ですけど、文科系の人にとっては、必ずしもそうではない。

 ぼくも、ある文科系の友人に DCF 法を説明してみたことがあるのですが、結局理解してもらえなかった経験があります。もちろん、文科系といっても、決して頭の悪い人ではないのですが(少なくともぼくよりはずっと良い(^^))。

 あるいは、マクロ経済学の IS-LM 分析なんかにしても、無理に二次元の平面で説明しなくても、gnuplot かなんか使って、三次元空間にプロットしてぐりぐり動かした方が、よっぽどわかりやすいと思うんですね。 そして、IS-LM が常識ということになれば、金融政策なんかに対する世論形成にも、必ずや影響を与えるはず。

 そういう努力によって、世の中の平均の教養レベルというものは確実に向上するし、それは必ず、世の中をよい方向に動かします。ですから、知識人の皆さんは、今さら難解志向に走らず(もちろん、難解にしか書けないことは難解に書いてもよいですが(^^))、じゃんじゃんわかり易い本を書いていただきたいと思います。

|

« コントロールキーが効かない | トップページ | 健全なモダンは健全なポストモダンの下にこそ宿る »

パソコン・インターネット」カテゴリの記事

数学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/67762/8779826

この記事へのトラックバック一覧です: Maxima:

« コントロールキーが効かない | トップページ | 健全なモダンは健全なポストモダンの下にこそ宿る »