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ビジネスはプラスサム・ゲーム(を目指す)

 「ほぼ日」には、糸井さんが週一回エッセイのようなものを掲載する「ダーリンコラム」というコーナーがあって愛読しているのですが、今週の「勝負に全力を尽くす、そのやり方」という話には、ちょっと考えさせられたのでコメントしてみます。

 ぼくがこういう話でいつも考えるのは、それはゼロサム・ゲームかそうでないか、そうでないとすれば、社会全体のパイは大きくなる(プラスサム・ゲーム)か、ということなんですね。ゼロサム・ゲームなら、やる以上は勝つことを目指すしかないし、それができないなら、最初から参加しないほうがいい。プラスサム・ゲームなら、単に勝つだけでなく、どうしたらより社会全体のパイを増やせるか、ということを考えなくてはなりません。そういう観点からすると、まず、スポーツとビジネスは分けて考えたほうがいいと思います。

 スポーツの利得行列には、一見すると勝ちと負けの 2 つの値しかなくて、そういう意味では、完全にゼロサム・ゲームのように見えます。でも、よく考えると、いくら試合に勝っても怪我をしたら損だとか、試合に負けてもその分勉強した方が実社会では得をするとか、観客にとっては、同じ試合でも面白い試合とつまらない試合があるとか、他にもいろんな利得があるように思えてきます。

 けれども、糸井さん自身も冷静に指摘しているように、スポーツの場合、プレーヤーがいかにもゼロサム・ゲームである「かのように」プレーすることが重要で、そうでないと、観客にとっての面白さとか、プレーヤーに身につく身体的なスキルのような、スポーツの「名目上の利得行列」にはカウントされない利得もかえって低下してしまうという特徴があります。

 スポーツというのは、何か勝ち負け以外の価値を体現しているわけではないので、剛速球で討ち取るのと、配球で討ち取るのでは、どっちが正しいか、などということを一義的に決めることはできないのです。だって、もしできるなら、最初からスピードガンで測定して速いほうが勝ち、ということにしてしまえばいいわけですからね。つまり、そういうことは、プレーヤーや観客個人が、胸の内で密かに感じとればいいのであって、そういう多義的な解釈が可能なのも、スポーツが名目上勝ち負けだけに特化しているからこそなんですね。そこに、スポーツ独特の逆説があります。

 ですから、外部から見たときのスポーツの利得を向上させるには、プレーヤー自身の価値観に変更をせまるよりも、F1 のレギュレーションのように、ルール自体を変更する方が適切である、ということになるわけです。

 これが、プロスポーツになると、少し事情が変わってきます。なぜなら、プロと名のつく以上、明らかに勝ち負けだけでなく、収益とか人気というものも利得の中にカウントされてくるからです。昔はよく、プロスポーツはアマから見ると不純である、と言われたものですが、この「不純」というのは、よく考えると、アマのように勝ち負けだけに特化せず、勝ち負け以外のこともいろいろ考えなくてはならないので、「純粋ではない」という意味だったのですね。それが今では、純粋でないことがかえって奨励されているように見えるのは、ちょっと皮肉なことだと思います。

 一方、ビジネスの方は、本来プラスサム・ゲームを目指すものであって、それが社会全体のパイを増やすという前提の下に、存在を許されているわけです。ですから、ゲームのルール自体にも、うまく社会全体のパイを増やすような方向に誘導するインセンティブを組み込むべきであるし、プレーヤー自身も、自分の利得を増やすだけでなく、社会全体のパイを増やすようなプレーを尊び、そうでないプレーを避けるというような価値観・倫理観を持つ必要があります。

 スポーツと違って、ビジネスの利得行列の値は勝ちと負けだけではないので、極端に言えば、ビジネスでは必ずしも「勝つ」必要すらない。実際、シェアトップでなくても十分存続できて、社会にとって存在価値のある企業はいくらでもあるわけですからね。

 もちろん、社会全体のパイを増やしつつ、他のプレーヤーの誰にも損をさせないという「パレート最適」みたいなプレーをするのが理想ですが、他の競争相手には損をさせても、社会全体のパイが増えればまあ合格、逆に、競争相手に損をさせた上、社会全体にも不利益を与えるようなプレーは最悪、ということが一応はいえるでしょう。

 糸井さんが例に挙げている選挙にしても、政策に対する認識を深化させるような政策論争などは、もちろんパイを大きくする競争に含まれるだろうし、相手の批判にしても、政治家としての信頼性に関わる根拠ある批判などは大いに奨励すべきでしょう。逆に、根拠のないデマや中傷、政治と無関係な私生活の暴露などは、パイを小さくする競争に含まれそうです。もっとも、こういう行為が実際にどういう効果をもたらすかは、「観客」の見る目にも関わってくるので、一概には言えませんが。

 ぼく自身は、他人の足をひっぱらなければやっていけないような仕事なら、とっとと辞めてやる、と滑稽なぐらいに思いつめてやってきたし、株の取り引きをするときですら、ゼロサム・ゲームになりがちなデイ・トレードは避けて(同じ短期取引でも、証券会社のディーラーの方がやられているようなのは、かえって株価の安定に貢献していると思いますが)、長期ホールドに勤めてきた方なので、糸井さんのような社会的影響力のある人に、そういうことが子供っぽいみたいな書き方をされると、少々心外ではあるのです(^^)。

 まあ、ぼくはわりと付き合いが狭い方なので、断言はできませんが、少なくともぼくの周囲の人は、そんなに勝つことだけを考えているようには思えないし、たとえば、ホリエモン騒動があれだけ大きくなったのだって、いかに世の中に、勝つことだけを潔しとしない人が多いかということを示していると思うのですが(もっとも、あの事件については、ぼくは今でも、ホリエモンの仕掛けたことはゼロサム・ゲームではなかったと思っていますが)、いかがでしょう(^^)。

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