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岩井本への疑問・1

 ぼくが、岩井本でいちばん納得がいかなかったのは、株主資本主義的(岩井さんの言葉で言えば、法人名目説的)な会社だと、「ホールドアップ問題」が発生するという話なんだけど、立花氏の記事を読めばわかるように、実際には、そんなことしても、株主は損するだけなんですよね。

 というのは、最近の DCF 法(ディスカウント・キャッシュフロー法)のような企業価値の評価法では、現時点での資産額ではなく、将来のキャッシュフロー(の予測)から企業価値を評価しているからです。そして、メディアに限らず、労働集約的な産業において、キャッシュフローを生み出しているのは、資産よりも人材なわけですから、その評価の中には、当然「組織特殊的な人的資産」の評価も含まれているはずなんですよね。

 そのことは岩井氏もわかっているはずで、現に、岩井本の中には、マイクロソフトの時価総額は、物的資産の総額の何倍もある、という話がでてくるわけです。だとすれば、マイクロソフトのような企業を時価でのっとって、ホールドアップで従業員を追い出したとしたって、(そこに「組織特殊的な人的資産」の蓄積があるなら)買収側が得するわけがないのです。

 したがって、買収者が合理的に行動するなら、本当に「組織特殊的な人的資産」を十分に蓄積しているような組織には、それ以上に生産性を向上させる選択肢がない限り、手をつけないはずで、むしろ、「法人名目説的な会社」の方が、「組織特殊的な人的資産」を正当に評価する可能性が高い、とさえ言えると思うのです。

 「法人実在説的な会社」の方が、ある意味、「ホールドアップ問題」が起きやすいともいえます。というのは、「法人実在説的な会社」では、「組織特殊的な人的資産」を毀損することが、必ずしも経営者の不利益に直結するとは限らないので、「組織特殊的な人的資産」を正当に評価するインセンティブが少なくて、評価までが「組織特殊的」になってしまう可能性があるからです。現実に、従業員が搾取されて企業だけが肥大化したりとか、一部の経営者だけが得をしたりという例は、腐るほどあるわけです。そして、岩井本の中には、それを防ぐための制度的提案は何もないのです。

 したがって、これはどーみても、「法人実在説的な会社」を擁護する理由にはなってないと思うんですけどねえ(^^)。違うかなあ。

(岩井さんの本って、柄谷さんとかとちょっと似てて、必ずしも論旨が明瞭ではないので、批判しずらいんですよね~(^^)。下手に批判すると、私はそんなことを書いたつもりはない、とか言われそうで(^^)。まあ、わざとやっているとは言わないけど(^^)、もともと矛盾したこと書いてると思うんですよね。)

(ただし、このことがニッポン放送という特定の企業についてあてはまるか、という点については、必ずしも立花氏と意を同じくしていません。また、それが必ずしも敵対的買収を否定する根拠にもならない、ということも、注意深く読んでくれた人にはわかると思いますが、いずれ補足する機会もあるかもしれません。)

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