土足
たとえ話というのは、諸刃の剣で、確かに、複雑な事象をわかりやすく説明するのにも役立つんだけど、その分、細部の厳密さはどうしても失われるので、誤解のもとにもなります。また、最近は、そういうミスリーディングを意図的にやろうとする、ある種頭のいい人も多いですよね。
「他人の家に土足で」という例えにしても、そもそも誰の家なのか、という認識自体が、株主資本主義派と法人(従業員)資本主義派とでは違っているわけですから、その点についての議論をさけて通っていながら、こういうたとえ話を出してくるのはかなり「ずるい」やり方だと思います。
そもそも、株主資本主義派から見れば、前の家主が寛容で、鍵をかけずに近所の子供とかに勝手に使わせていた家を買い取って、鍵をかけようとしたら、勝手に鍵をかけるなって怒られた、みたいな状況なんですから。そういう立場からすれば、勝手に土足で入っているのはそっちだろ、とも言えるわけですからね。
もちろん、今までずっとうまくやってきたわけだし、よその家だってみんなそうしてるし、みたいな主張がありえることはわかりますよ。でも、そういう主張だって、株主資本主義派から見れば、「赤信号、みんなでわたれば怖くない」みたいな主張にしか思えない、ということもわかってほしいですね。
また、実際には株主資本主義と法人資本主義のどちらが正しいか、ということについて議論があるのもわかります。でも、少なくとも、その対立をこの新しい家主さんだけが引き受けるのはおかしな話で、本来なら、金融ビックバンや会社法の「現代化」を進めた人たちが引き受けるべきことのはずですからね。
さらに言えば、やっぱり法人資本主義が正しいのだ、と主張する人は、奥村さんなんかがさんざん指摘している法人資本主義の弊害と言われるものをどうやったら防げるのか、ということにも解答を示さねばならないはずですよ。
この家主が、本来なら容赦なく鍵をかければすむだけのところを、子供の気持ちを配慮して、「おねがいだから協力してくれないか」みたいなことを言ったら、逆に態度が豹変した、みたいに非難されたりするのをみてると、なんかかわいそうになってきますね。株主からお金をあずかっていながら、意思決定の場からは特定の株主を排除しようと画策することだって、十分「ずるい」と言えるんですからね。
だから、あんまりそういう感情論にばかり走らないで、もっと本質的な議論をしてほしいですね。
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