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歴史学ってなんだ?

 先日、例の南京大虐殺の問題について考えようとして、自分が、歴史そのものはまだしも、歴史学の方法論については、まったく無知であることに気づきました。

 それで、歴史学の基礎を簡単に学べる本はないかと探していたら、「ライブ・経済学の歴史」の田中直樹ならぬ小田中直樹さんが、「歴史学ってなんだ?」という格好の本を書いてくれていたので、正月休みを利用して読んでみました。

 結論から言えば、たいへん親切で読みやすい本でした。(構造主義からポストモダンの影響というあたりの議論は、予想通りという感じで、個人的にはちょっと食傷気味でしたが、これはもちろん入門書には欠かせない記述ですから、著者の責任ではありません。)

 しかし、史実を本当に明らかにできるのか、という点については、結局、歴史家の間でも合意に至っていないらしく、少し拍子抜けしました。もっとも、そういうことを変に高尚ぶらずに率直に書いている点が、この本のいいところであり、この著者の美点でもあると思います。

 また、この問題に対する著者自身の意見としては、合意の形成を重視する「コミニュケーショナルに正しい認識」という解答が提示されており、これには全面的に賛成です。

 ただ、南京大虐殺のような問題を考えると、著者の言うように「どうもあったというのが今のところ通説らしい、というだけで十分」というわけにはいかなくなります。なぜなら、南京大虐殺のいわゆる否定論者という人たちの多くは、まったく殺人がなかったなどと言っているわけではなく、「虐殺」と呼べるような国際法違反の行為は、他の国の軍隊などに比べて特に多いわけではなく、したがって「虐殺」と呼ぶべきではない、と主張しているにすぎないからです。

 したがって、この問題を解決するには、さらに、なんらかの量的評価とか、それに対する価値判断が必要になってきます。(そのようなフレームワークについても、自分なりの試案がまとまりつつあるので、いずれ時間のあるときにまとめたいと思います。)

 また、歴史の解釈についても、著者は、「間違っていない解釈の間では優劣はつけられない」と言っていますが、私は、間違っているとは言えないが、弱い相関しかないものと、強い相関のあるものとの間でも、やはり優劣をつけるべきではないか、という気がします。この考えが正しいとすれば、ここにも量的評価というものが必要になってくるはずです。

 とまあ、いろいろと文句はつけましたが、現在の歴史学の水準を飾らずに示してくれたという点で、非常にありがたい本でしたし、中で紹介されている歴史書も、面白そうな本ばかりで、非常に勉強になったことは間違いありません。

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受信: 2005.04.15 21:04

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