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怒りの方法(と対象とその理由)

 「怒りの方法」辛淑玉著

 題名は「怒りの方法」ですが、実際には、怒りの方法と対象とその理由、という感じの本で、しかも、そのそれぞれのクオリティにかなり差があるので、全体としての評価にはちょっと悩みます。

 「方法」の部分は、声の出し方から服装からイベントの企画に至るまで、非常に具体的かつ実践的で、また、経験の裏付けも感じられて説得力があります。

 一方、「対象」の部分は、これは怒っても当然という例と、正直、これはちょっとどうかな~という例が入り混じってる感じ。特に、冒頭の「私、毎日、怒ってます」というところに列挙される例は、ほとんど八つ当たりに近いものばっかりで、完全に引いてしまいました。おそらく、この部分だけ立ち読みして、買うのをやめてしまった人が相当数いるものと推察いたします(^^)。

 そして、「理由」の部分になると、「方法」とは対照的に、頭でっかちで説得力のない理論武装が多いと感じました。おそらく、借り物の理論をよく吟味せず採用しているか、思いつきの理屈を深く煮詰めないで使っているかのどちらかでしょう。(もっとも、著者がこれまで怒ってきた相手が、この程度の理屈で十分な相手ばかりだったとすれば、それはそれで十分同情に値しますが。)

 著者はおそらく、単に弱者が虐げられているのを見過ごせない人なんでしょうけど、仮に、怒りの発端が弱者に対する素朴な共感であったとしても、それをいい加減な理論で強引に一般化してしまえば、本来怒るべきでない相手にまでとばっちりが行く可能性が出てきます。著者がもし、そのような「誤爆」を意に介さないとするなら、それはまさに、集合によって要素を判断するという差別の論理そのものであって、江戸の敵を長崎で討つというたぐいの、ルサンチマンによる意趣返しに過ぎない、と言わねばなりません。

 そもそも、今日のようなサヨク・リベラル・ハト派・フェミニズム陣営の退潮を招いたのが、そのような強引な拡大解釈による誤爆の数々に対する反発であったことを考えると、著者のように影響力のある人は、もっとそういうことに自覚的であってほしい、と思ってしまうのですが、ゼイタクでしょうか?

 こんなに苦労している人に、えらそうなことを言うのも気が引けますが、「方法」の部分だけにしぼるか、それとも、「理由」の理論武装の部分をもっと地に足のついた議論にまで詰めれば、より多くの人に受け入れられる本になったと思います。でも、あとがきなんかを読むと、この人はまだまだ思想的な柔軟性を残しているようなので、今後の著作に期待したいと思います。

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