芸能人と社会的制裁について
紳助氏の問題について、不特定多数の人に評価されなくてはならない芸能人と、当事者だけに評価されればよい一般人の社会的評価がリンクしていることが、問題をややこしくしている、というようなことを前に書きましたが、紳助氏を擁護する人の多くも、おそらく、紳助氏が払った何十万円ばかりの罰金よりも、紳助氏の芸能人生命の方を気にしていると思うんですね。ですから、芸能人に対する「社会的制裁」ってヤツについても、少し考えてみようと思います。
私の記憶が確かならば、かつては、芸能人の犯罪というものに対する世間の目は、現在よりずっと厳しく、それこそ、軽犯罪ぐらいでも芸能人生命を抹殺されるような雰囲気があったと思います。
おそらく、その理由としては、毎日のようにテレビに出ている芸能人は、倫理的にも社会の模範になることを期待されていたとか、一般人よりもずっと高収入でさまざまな役得もあると思われており、その分厳しい社会的責任を課されていたとかいうことがあったのでしょう。
もともと、芸能人が倫理性の高い人だというのは、当時からフィクションにすぎなかったと思うのですが、インターネットも写真週刊誌もないころは、マスコミの監視網も今よりずっと甘かったので、そのようなフィクションもなんとか維持されてたのかもしれません。
しかし現在では、ゴシップメディアの発達により、芸能人も普通の人にすぎないということが誰の目にも明らかになってしまったし、また、バラエティの流行により、自ら半ば露悪的に庶民性をアピールするような芸風が主流になって、このようなフィクションは完全に崩壊したと言えます。また、高収入な芸能人というのも一部だけで、それも長続きする保証はなく、びんぼー生活に甘んじている芸能人も多数いるということも常識になりつつあります。
したがって、現在では、芸能人に対して特に高い倫理基準を求める理由はあまりなく、一般人並みでよい、というのが私の基本的な考えです。もちろん、事件のせいで自然に人気が落ちる、ということはあるでしょうし、それはもともと人気商売なのだから仕方がないでしょう。でも、芸能人だから倫理性が高くあるべきだ、というようなタテマエ論で裁くのは時代錯誤だと思います。
紳助氏の場合も、それほどの悪意があるわけでもなく、傷害といっても回復可能な重症を与えたわけでもない(PTSD とか言ってるけど)し、本人十分反省もしているし、もしこれで芸能界追放みたいなことになったら、私はむしろ断固擁護しようと思っていました。(それは、あくまで自分がファンだからで、他人に強制する気はありませんが(^^)。)
しかし、現実にはその真逆になっていて、この雰囲気で彼の芸能人生命がなくなるなんてことはあり得ない。だとすれば、もうそれで十分じゃないですか。それをわざわざ、被害者を貶めてまで彼の名誉を回復しようとするのは、いくらなんでもやりすぎじゃないか、と思うのです。
ひょっとして、紳助氏を擁護する人には、上に書いたような、芸能人に対するタテマエ的な倫理の強制に対する反発があるのかもしれませんが、もはや、そういう時代は明らかに終わっていて、本当に人気のある芸能人は、一度や二度の犯罪歴ではつぶれず、なんだかんだ言ってしぶとく復活してくるという例を、私たちはいくつも見ているのではありませんか。
自分の感じでは、おそらく、ビートたけし氏のフライデー殴りこみ事件あたりが、その転換点だったと思うんですね。でも、あの時彼はたしか、「他にどんな方法がある」みたいなことを言っただけで、「暴力が正しい」などという主張は一切しなかったはずです。(結果論かもしれませんが) それによって彼は、法の精神と自分の信念との折り合いをつけ、その結果として、法的には裁かれたけれども、逆に、社会的にはある種の評価を得たと言ってもよいでしょう。
今回の紳助氏のケースも、周囲がもっと大人だったら、もっとうまく収まっていた可能性もあるのに、なんかわざわざ話をややこしくしちゃったんじゃないか、という思いがどうしてもぬぐえません。
もともと、社会的制裁というのは、法の精神と相互に補完し合うもので、金持ちにとっては罰金はたいして痛くないのだからその分金持ちは厳しく見るとか、逆に、法律的には犯罪だからしょうがないけど人間的にはいいヤツだから刑期が終わったら温かく受け入れようとか、そういう柔軟な対応をすることによって、法律の形式性みたいなものに対してバランスをとる役割があったと思うし、そういうふうな配慮をすることによって、かえって、法の精神も維持されてきたんだと思うのです。でも、今回の事件に関しては、社会的制裁の論理が一方的に法の精神を押しつぶそうとしている雰囲気があって、そこが一番危惧されるところですね。
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