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島田紳助事件の不幸な構造

 女性マネージャーに暴行を働いた島田紳助氏が、略式起訴されたそうです。

 この問題の是非については、紳助が悪い、いや悪くないと、世論が割れているようですが、法律的な評価と社会的な評価を混同しないようにしないと、不毛な議論にしかならないと思います。

 法律的な評価というのは、社会的な合意の形成を重視しますから、どうしても形式的になります。この事件の場合なら、殴ったと言う事実だけが重要であって、そこにどんな理由があろうと、刑が軽くなることはあっても、善悪が逆転することはありません。ですから、このレベルで紳助氏が「悪い」と言うのは、議論の余地がないはずです。

 もともと、このような法律は、私的なレベルで解決できない紛争に、国家権力が強制的に介入することによって、私的な紛争が社会秩序を崩壊させるような事態に至るのを防ぐための、一種の安全装置として存在しています。だからこそ、介入の条件が明確に指定され、それが満たされればほとんど無条件に発動されるような仕組みになってているのです。

 この事件の場合にも、被害者が警察に訴えたり、和解に応じないこと自体を責める人もいるようですが、そもそも、私的な力関係で言えば、紳助氏や吉本興業の方が圧倒的に優位にあるのであって、彼らは、被害者を減給にすることもクビにすることも大金をだして懐柔することもできたのだ、ということを忘れてはなりません。そのような優位に立ちながら、問題を私的なレベルで解決できず、国家権力の介入を招く理由を作った責任は、彼らにこそ問われるべきものです。

 一方、社会的評価の方は、個々人の主観的な評価の集積にすぎず、法律的な評価とは逆に、社会全体で合意する必要はありません。この事件の場合も、もし、被害者が無礼な態度をとったという主張が事実であれば、その分紳助氏に同情する人がいてもおかしくはありません。しかし、同情のレベルを超えて、紳助氏の方が「正しい」と言うためには、単にこの女性が無礼か否かではなく、殴っても許されるほど無礼であった、と言える必要があります。そして、どのぐらい無礼なら人を殴ってもよいかなどということは、社会全体で合意などできるはずがないのです(もしできるのなら、無礼な人間は殴ってもよい、という法律ができているはずです)。したがって、このような評価は、どこまで行っても私的な評価にすぎず、被害者が本当に無礼だったかどうかも、当事者だけが知っていればよいことだったはずです。

 ところが、この事件の場合、加害者がたまたま、社会的評価が収入に直結する「芸能人」という職業についていたので、加害者が仕事をつづけるためには、加害者の社会的評価をある程度上昇させる必要ありました。そして、さらに不幸なことは、この事件においては、加害者の社会的評価を上昇させることは、被害者の社会的評価を下げることに直結しているということです。だからこそ、本来は当事者同士の私的な問題ですんだはずの、両者の社会的評価をめぐって、加害者と被害者が全面的に対立するという構図になってしまったわけです。

 そもそも、紳助氏の「全面的に自分が悪い」という発言は、自分はこの事件について、社会的評価のレベルで争うつもりはない、という意思表明だったと思うのです。そして、紳助氏に好意を持つ人たちが、彼の一日も早い芸能界復帰を望むなら、この隠されたメッセージを(それこそ日本の伝統と言われる)阿吽の呼吸で受け止め、この事件について紳助氏の名誉回復を図ることはあえて禁じ手にし、あくまで紳助氏の芸に対する評価によって、彼を番組に使い続け、あるいは、彼の番組を見続ける、という態度をとるべきだったと思うのです。

 しかし、実際には、彼の周囲の芸能人やインターネットの紳助ファンは、彼を擁護し、相対的に被害者を中傷する発言を繰り返し、結果として、被害者の態度をより硬化させてしまうことになりました。   

 現在、被害者は民事訴訟に訴えることを検討中だそうですが、もしそうなれば、事件のより詳細な事実関係が明らかになることでしょう。もちろん、それによって、紳助氏の名誉が回復される可能性もありますが、より不名誉な事実が発覚してしまう可能性もあります。そして、いずれにせよ、彼の復帰がより長引くことだけは、間違いなさそうです。

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